>> IRONMAN Gurye: Korea 2018 参戦記 <<
〜 プロローグ - 舞台は世界へ! 〜
「死ぬまでにロングディスタンス・トライアスロンを完走する。」
生涯目標。
今から20年前に掲げた目標・・・果てしなき夢は、ロングトライアスロンの何たるかも知らぬ若かりし頃に想い描いた、まさに夢物語だった。
しかし、夢を目標に変えるため、そして叶えるためにコツコツと重ねたトレーニングが実を結び、それから12年後の2010年、沖縄・宮古島大会にてついに、その目標を果たすことになる。
叶った夢はそこで終わるものと思っていたが、新たなステージに突入したことでより明確に見えた光景に、いつしか目標は必然的に進化し、「国内5大会すべてを完走する」というフレーズを口にするほどに成長していった。
そして・・・
2012年:長崎・五島列島、
2014年:鳥取・皆生、
2015年:北海道アイアンマン、
2016年:新潟・佐渡。。。
足掛け7年、ついにその目標をも果たすことになる。
30歳代最後の年、2016年に国内5大会を全制覇し、ひとつの節目を迎えるのと同時に芽生える想い。
それは今までのような「完走することが、とにかくの最優先事項」にいつまでも甘んじていていいのだろうか、という自省。
そして無謀にも、その過程でさらに深化した夢の最終目標が、こともあろうに「アイアンマン・ハワイ・ワールドチャンピオンシップの出場と完走」に至るものの、それに反し実力はその出場権争いをするどころか、いつも全体の半分よりも下という順位では到底、そこに達することは出来はしない。
一段一段、実現可能な高さのステップを登ってきたこの7年の歩みとは異なり、まさしくそれは、いくらよじ登っても、ステップを刻んでいってもその到達地点がまったく見えぬ遥かな先、あまりにも巨大過ぎる、壁に他ならない。

人は無謀と言うだろうか。
馬鹿げた夢とあざ笑うだろうか。
けど、多くの競技と異なり、年代別出場枠が設けられているこのアイアンマンの世界。
仮にライバルが減るであろう60代、70代になったときもまだ、その情熱の火を燃やし続けることができていたならば。
12大会を完走して、推薦枠に選出される可能性があるならば。
600万円の出場権オークションを競り落とすことができるならば。。。
可能性が完全なる「0」では無い限り、これに挑み続ける価値はあるのではないだろうか。
遠過ぎる夢、高過ぎる目標は往々にしてその想いが潰えるものだ。
しかしアイアンマンならば、工夫次第ではひょっとすると手掛かりは掴めるかもしれない。
そしてそのためにはモチベーションの維持、高い目標の設定と達成をし続けることが欠かせない。
幸い、アイアンマンレースは世界40箇所で開催され、旅行気分でこれに挑むこともできるし、それが通算12レース完走のフラグ立てにもなる。
もちろん高いお金を払う以上、完走は必須だが、「国内5大会の全制覇」ほど気負ったものでは無い。
いやむしろ、いつまでもそんな低レベルな想いを抱いているようでは、仮に60代、70代まで走り続けられていたとしても、おそらくは相対的に今と同じような「中の下」のレベルに甘んじている事だろう。
だから次のレースではもう、いいかげん「完走して御の字」は卒業だ。
もっと攻めて、タイムを意識して、納得のいく走りを、する。
もちろんその舞台はアイアンマンで、だ。
アイアンマン。
2015年、IRONMAN JAPAN・北海道を最後に日本での開催は残念ながら無くなってしまったが、むしろそれは今後、海外レースに挑んでゆくための、ちょうどいいきっかけなのかもしれない。
近隣諸国での開催は台湾と韓国。
そこでまず台湾の金額を調べたが、期待したほどの安さでは無かった。
そして韓国も、ツアーを利用するとそれほど安くはなかったが、飛行機・宿・移動手段のすべてを自分で手配する試算をしてみたところ、エントリー代を含めても、総額13万円程度で済むことが分かった。
開催も9月上旬なので、春〜夏にトレーニングを重ねた状態でこれに臨むことができるので、時期的にもちょうど良い。
そこでさっそく、善は急げとばかりにアーリーエントリー。
時に、2017年11月。

IRONMAN Gurye: Korea。
韓国:求礼(グレ / ギュレ / クレ)。
開催日は2018年9月9日。
残された期間はあと、10ヶ月。
レースは決まった。
あとは本番に向けて、やるべきことをやるだけだ。
完走の先にあるものを目指す以上、やはり今までと同じことをやっていては駄目だ、という想いとともに、加齢による体力の減衰をフォローする意味でも、今回は3種目とも基礎からやり直してみることにした。
まずSWIM。
練習しても、全力で泳いでも、どうしても速い人との差が埋められない。
それはきっとフォームに秘密があるのではないか。
という思いから、異なるコーチによるマンツーマンレッスンを数回受けた過程で辿り着いたのが「トータル・イマージョン」、通称TIスイムと呼ばれる泳法だった。
いかに省エネで、少ないストロークで、抵抗を減らして、スピードを維持して、効率よく泳ぐか。
そのコンセプトはまさしく、3.8km泳いだ後も10時間以上競技が続くこのロングトライアスロンにうってつけではないだろうか。
細かなドリルの繰り返しは、仕事帰りの疲れた身体でも負担が少なく、また25mプールでのストローク数が今まで16だったものが、究極で9にまで減らすことができたうえ、100m×50本練習会でもその後半タイムの落ち具合が比較的緩やかに抑えることができるようになった事で、その効果を実感する事となった。
もちろんスピードはまだまだ適わないが、ひとつの手応えを得ることができた。

次にBIKE。
学生時代から染み付いたフォームやクセ。これが良いものなのか悪いものなのか、という事はなかなか主観では分からないもの。
そこで、なるしまフレンドによるBody Geometry Fitを受けることにした。
2時間程度の精査で2万円以上するものだったが、マンツーマンでのミリ単位での調整をしていただき、よりフィットしたDHポジションを得ることが出来た。
劇的な違いこそ生まれなかったものの、それまで痛みが発生するような距離・負荷を掛けたトレーニングであってもそれが出にくくなったことは、この影響によるものだろう。

加えて、学生時代に所属していた大学の自転車部OBとして、20歳近く離れた現役の後輩たちに教えを請うこと数回。
ほとんどはメールでのやりとりだったが、的確な練習方法のアドバイスをいただき、より練習メニューに深みを持たせることができた。
機材については、やはり100万円単位のTTバイクに乗り換えることの選択肢が常に葛藤の主要素ではあるが、やはり20年来の付き合いになる今のBIKEへの愛着も深い。
そこで今回はCampagnolo(カンパニョーロ)のセミディープリムホイール「Scirocco 35mm」を購入。
3万5千円の投資はまぁ、その葛藤をギリギリ抑えることのできるコストパフォーマンスといったところだろう。

そしてRUN。
2017年序盤に受けていたマンツーマンレッスン、そして中盤に受けた動画撮影によるフォームチェックのアドバイスを経て、トレーニング方針とフォームの双方を少しずつ見直し、実践に取り組んできていた。
これらが実を結んだのか、2017年の終盤に参加した埼玉フルマラソンで、初めて「完全に歩きも止まりもしない走り」ができたうえ、2018年3月の板橋フルマラソンでは初の「キロ6分ペース」の4時間10分55秒をマーク。
日々の練習としても、その回数は多くは無かったものの、BIKE後のRUNや仕事帰りRUNを重点的にこなすことで、例年よりもひと回り上のレベルに仕上がったことが実感できた。

種目ごとの練習比率。
過去のレースではそのいずれもが例外なく、RUNで失速している。
というよりはむしろ、遅いRUNのペースを前提として安全圏内の完走プランを立てたが、それもいい加減そろそろ何とかしなければ、と思っていた。
そこで今回は大胆に、全体を100としたら、「SWIM:15」、「BIKE:35」、「RUN:50」という比率を意識してトレーニングに臨むように心掛けた。
SWIMは比較的低い負荷で練習できる。負荷が低いぶん、ラク。
ラクだけど、他と同様に練習実績回数を「1」としてカウントするので、「何となくちゃんと練習を重ねている」という錯覚に陥りがちだ。
なので、SWIMをやる時間があったらそれをRUN、それがムリでもせめてBIKEをローラー練習する、というようにバランスを意識的に偏らせるようにした。
もちろん、偏り過ぎてはSWIMで思わぬ足をすくわれる危険性はあったけど、時々参加した長距離系練習や遠泳大会を利用し、その劣化具合を最低限に抑えることで、なるべくRUNを重視するようにした。
結果、最終的に、主なトレーニングとして下記のような頻度でこなすことが出来た。
・SWIMドリル:ほぼ週1
・SWIM 5km:3/25、6/10
・BIKE Roller:冬〜春に週1
・BIKE 190km:5/4、6/3、8/4、8/12
・BIKE 100〜140km&RUN 15km以上:4/1、4/28、7/21、8/15、8/24
・RUN 30km:4/8
・RUN 40km:3/18、7/15
・通勤or帰宅後RUN 15km:6/8、6/14、6/22、6/25、6/28、7/24、7/27、7/31、8/10
これでも物足りなさはまだまだ感じるところではあったけど、「最低限、完走はできるはず」という感触を得ることはできた。
補給食と装備品。
荷物を少しでも減らすため、補給食は現地調達も考えたが、安全策を取り、やはり例年にならってインターネット通販を利用して購入することにした。
レースの装備品やアイテム類も過去の自分のレースを参考に、スムーズに揃えることができた。
そしてこれを各パートに分散しつつ、実際の動きをイメージ。
新しいSWIMゴーグルを調達したり、パンク対策で新しいタイヤとチューブに交換したり、サイクルコンピュータのボタン電池を交換したり。
気になれば細かいところが無限大に気になってしまうのが難点ではあるが、リスクはできるだけ排除し、少しずつ準備を整えてゆくことが出来た。

今回の舞台は韓国。
旅行ではソウル・釜山に行ったことはあるが、レースの開催地は求礼という田舎町。
ソウルからバスで4〜5時間、釜山から3〜4時間というロケーションもあってか、観光ガイドブックを見ても、Webで調べても大した情報が出てこない。
幸い、大会オフィシャルのシャトルバスがソウルと釜山それぞれの空港から出るうえ、現地滞在中の移動もシャトルバスが30分おきに走るとのことなので、それを踏まえて飛行機や現地でのタイムテーブルを練る必要がある。

飛行機はいろいろ考えた末、往路は成田空港〜ソウル:仁川空港、復路は釜山:金海空港〜成田空港というプランにした。
利用航空会社は大韓航空。
ハードケースに梱包したBIKEの輸送は32kg、277cmまでならOKということで、おそらく問題無いだろう。
ただ往路の飛行機が9:15発ゆえ、前日に成田空港入りして、空港内にあるカプセルホテルを利用することにした。
カプセルホテルに夜チェックインをするための逆算をすると、ちょうど平日の帰宅ラッシュに被ってしまう。それを避けるため、東京駅から出ている、空港直行の「1,000円バス」を予約することで、確実性を高めておくことにした。
宿泊施設は日本の主要な旅行会社やWebではやはり見つからず、結局Booking.comで見つけることができた。
4泊の日本円換算、18,700円。
宿のスタッフは日本語・英語ともに駄目とのことで、それであれば大会オフィシャルサイトが斡旋するホテルを利用することも考えたが、料金が1泊1万円以上と跳ね上がる。
加えて、なんとなく今後の海外レースの苦労を今のうちに体験しておきたい、という思いもあり、今回はこのホテルを利用することにした。

費用は出揃った。
機材やメンテナンス等を含めた総額、27万。
もしそれらをカウントせず、必要最低限で留めた場合は13万少々だ。
果たしてこの投資に見合った経験値を、無事獲得することが出来るだろうか。

飛行機でソウルの空港に飛び、そこから大会オフィシャルのシャトルバスで現地に到達するまでは良い。
が、そのバスは果たして自分の泊まるホテルの、どのあたりまで近付いてくれるのだろうか。
降ろされた場所から、重いハードケースを運んでホテルまで辿り着けるだろうか。
最終日、ホテルからシャトルバス集合場所までの移動は。
シャトルバスが釜山の空港に着くのは何時頃になるだろうか。
復路の飛行機には果たして、間に合うだろうか。
不安は尽きない。
そして何よりも、開催地が田舎町すぎて、周囲の店、特にレース当日の朝食確保は気を付ける必要がありそうだ。
最悪はレトルト非常食を持って行って、それでしのぐことにしよう。
不安要素のひとつ、レースインフォメーション確定版。
これがまた、なかなか出ない。
Webサイトにはレース1ヶ月前に出ると書いてかったが、結局リリースされたのはレース2週間前だった。
なんでも、メイン会場が突然のストライキによってその場所が変更になったらしい。
それに伴い、大会期間中のシャトルバスもいろいろ調整があったうえ、当初の運行ラインのいくつかが廃止となり、最悪は自分の泊まるエリアがバス運行の対象外になる危険性があった。
さすがにこの時期でホテル変更を迫られるのは厳しかったので、こればかりは運に恵まれた、といったところだろうか。

メイン会場変更に伴い、やはりレースコースも一部、変更されていた。
幸い、コース自体はさほど大きな変化は無く、事前に組んでいたタイムテーブルを大幅に修正する必要は無かったが、最大の変更点である「レーススタートとフィニッシュエリアが10kmほど離れてしまったこと」については若干の不安を新たに生むことになった。
変更前は全てが同じ場所、すなわち佐渡と同じような動きをイメージしていたのでラクだったが、こうしてフィニッシュエリアだけ離れたので、皆生と同じような感じになるのだろう。
フィニッシュ後のBIKEピックアップはおそらくバスで行けるけど、その後が面倒そうだな。。。
あとは滞在中の天気だ。
せめて雨さえ降らなければ、あとは何でもいい。
初めての海外トライアスロン、そして田舎町。
もとよりカタコト英語しか離せないが、それすら通じぬ地域。
不明確な情報、時間的懸念。
レースそのものも不安要素は無いことはないが、それ以上に払拭できぬ不安材料は果たしてどうなるだろうか。
けど、きっとそれも全部ひっくるめて、今後長い目で見たときの海外レースにきっと、今回の経験は役に立つはずだ。
レースエントリーも完了した。
飛行機も、現地の移動手段も、宿泊施設も確保した。
トレーニングも比較的早い時期から積み重ねることが出来た。
だからきっと、大丈夫のはずだ。
すべての準備は整った。
さぁ行こう。
世界に向けて、飛び立とう!
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