>> 佐渡国際トライアスロン B-TYPE参戦記 <<

〜 ミドルディスタンスレース / 自分自身に挑む闘い 〜



生涯目標、それはロングディスタンストライアスロンの完走。

本大会「Aタイプ」におけるその距離、すなわちSWIM:3.8km、BIKE:190km、RUN:42.2km の実現には残念ながらまだまだ体力が追い付かないが、その約半分の距離で催される「Bタイプ」こと、今回参加するミドルディスタンスの距離は下記となる。


SWIM 2km
BIKE 105km
RUN 20km


実はこのレース約1ヶ月前、埼玉県で開催されたほぼ同距離のレース、すなわちSWIM:1.5km、BIKE:80km、RUN:24km を制限時間6時間30分のところを、残り8分でギリギリ完走する事が出来た。

対して本大会は、制限時間がロングディスタンス「Aタイプ」を基準としたものであるため、時間内完走は99%確実と言える。
また8月の埼玉完走の自信もあり、制限時間の足かせの無い本大会に向けて目指すものとして

「力を出しきり、最後まできっちり走りきる」
「7時間以内で完走する」


を掲げた。


加えて今回は、いつも単独参加であった他のレースとは違い、ツアー客6人での参戦。
年齢層こそ違えど、お互いが切磋琢磨し、そのモチベーションアップへと間違いなく繋がるであろう今回のレースに向けた体制は体調も含め、万全なものであった。




レース当日。

朝4時に起きておにぎり2個、サンドイッチ、バナナを食べ、トイレへ。
ガッツリ食ってしっかり出すというのが、辿り着いた自分なりのレース直前のコンディション調整法。

5時にロビーに集合し、ツアーメンバーと共に会場に移動。
車のサイズの制約から、会場までの約30分は、ひと山越えての自走による移動となる。
少し肌寒かったが、これから始まる長丁場のウォームアップとして捉える分にはちょうど良い距離だった。


5時30分、会場到着。
自転車と必要な荷物を準備し、サポートカーとはお別れ。
そして荷物の設置のためトランジッションエリアに行くと…


今まで体験したことの無いほどの規模に圧倒される!

明け方の薄明かりの中、ライトに照らされた会場。
およそ1500台の自転車、豪勢なFINISHエリア、地元メディア、そして続々と集まっては準備に余念のない選手たち。


…鳥肌が立つ。

来てよかった。



と、あまりのんびりもしていられない。
最終チェックを済ませ、ICアンクルバンド受け取りと、二の腕へのゼッケンナンバー記入を完了させ、、、




6時。
トータル236kmに挑む「Aタイプ」の選手がスタートする。
およそ700人のアスリートがいっせいに日本海へと向かっていく。
しかし海はそんな彼らを優しく迎え入れるかのような、きわめて穏やかなものだった。


穏やかな海に反比例するかのように昂ぶるキモチ。

無理もない。自分の目指す目的地が目の前に広がり、現実にレースが繰り広げられているのだから。


興奮も覚めやらぬ状態のままに最後のトイレを済ませ、
いよいよウェットスーツを身にまとい、
全ての準備が整ったことを確認してスタートエリアにスタンバる。



6時45分。
「日本選手権」部門の選手20人が一人一人名前を呼ばれ、いっせいにスタートしてゆく。

2年前、駒沢公園アクアスロンに参加した際に話をする機会に恵まれた篠崎選手もいる。普段はロングディスタンスが専門とのことだけど、今日は自分と同じ127kmの「Bタイプ」での戦いに挑むようだ。





…8月の埼玉でミドルディスタンスを完走したぶん、同じような距離を走る今日の大会は、もしかしたら出なくてもよかったかもしれない…と思ったこともあった。
佐渡に掛かったお金も時間も、相当なものだった。。。

だが、この規模そしてこの独特の雰囲気にゾクゾクし、高揚するキモチを誰が抑えることが出来ようか!



そして7時、

号砲が鳴り、ついにレースが始まる!



「Bタイプ」そして「リレータイプ」700人の選手がいっせいに海へと向かって行く。
水温は冷たくも温かすぎることも無く、そして何よりも水が思った以上に綺麗だった。水深5m程度は見えるだろうか。魚も数こそ少なかったが、人間の大群に戸惑いながらも泳いでいる姿を見ることができた。

普段、見通しの利かないSWIMはどうしても進行方向や他の選手を確認するためにヘッドアップが高い頻度で必要になるのだが、今日の海ではその必要は無い。
また、これだけの人数がいっせいに泳げばやはり水流も生まれるわけで、海水の浮力やウェットスーツの助けもあり、かなりラクに泳ぐことができた。
…まぁ、水中でのバトルや接触も普段以上だったけど。



巨大なブイの浮かぶコーナーを2回まわり、岸までの数百メートルとなった頃から、視界に朝日が入るようになった。
呼吸のたびに少し眩しかったが、水中での日差しが他の選手をシルエットのように照らし出し、それは幻想的な光景だった。

またこの頃からAタイプの数人の選手とも合流。1時間前のスタートとは言え、倍近くの距離を泳ぐのだから、恐らく自分であったらこれくらいのスピードになっていただろう。


無心で泳いでいるうち、いよいよ岸も近付き、

そして足が着き、浜辺へと上がる。


時間は…分からない。まぁ、あとで腕時計を見ればいいか。




ウェットスーツを脱ぎ、給水し、落ち着いてBIKEの準備をする。
ゴールはまだ125km先。焦る必要など無い。

今回はBIKEが105kmと長いため、通常の自転車の格好にまるまる着替えて挑むことにした。そうすれば補給食もジャージに入れられるし。



BIKEスタート直前、ふと腕時計を見る。

7時50分。

…意外と、いや、予想以上に速い。
そう言えばSWIMゴール後、ふと後ろを見るとまだたくさんの選手がいたし、トランジッションエリアも自転車がまだたくさんあった。

負けていない。
「流れるプール」状態だったのが予想以上の推進力を生んでくれたようだ。



地元のボランティアの声援を背中に、いよいよBIKE105kmの長丁場に挑む。

正直、不安が無いわけではない。だが、今年は比較的練習量もこなせたし、8月のミドルディスタンスでは80kmを走れている。

あとは、どうペース配分をするか、だ。



街なかを抜け、田舎道を走り、過疎化の進んだ朝の佐渡を走る。

しかしこんな朝からも、老人子どもそしてボランティアの声援が止まることが無い。

そう、ボクらにとって島まるごと舞台にした今日の一大イベントは、住民たちにとっても年に数回しかない一大イベントなのだ。
だからボクらも彼ら彼女らに感謝をし、声援に応える必要がある。

気付いて以降、声援に対しては手を振って応えるようにした。
…ホノルルマラソンを思い出す。





??

前方がずいぶんと賑やかだな。

何やら人が一列になってこちらを向いている。
差し出した手の先にあったのは…


「水!」
「アクエリアス!」
「コーラ!」

…ボトルだ。
それだけじゃない。

「バナナ!」
「スポンジ!」
「おにぎり!」


その昔、自転車レース「ツールドおきなわ」120km部門に参戦したことがある。
その時はボトル給水だけだったが、その光景や気分の高まりが今でも鮮明に覚えていて、それをもう一度経験したいと思っていた。
でも長距離レースでなければそれは無理だろうし、残念ながら今やその距離にエントリー出来るほどの体力も取り戻せていない。

しかし、あの光景が、あの時以上の規模で、こうして目の前に広がっている。


幸せを噛み締める。

まださほど暑くはなかったが、よく冷えたスポンジを受け取る。
ナイスキャッチ。



舞台は延々と続く海岸線へと移り変わっていく。

ここまでの平均速度、33km/h。
この後の距離やRUNのことを考えると、少し飛ばしすぎ感はあった。
ただ、追い風もあって、出る時は平地でも38km/hは出る。

いろいろ迷ったが、考えてみれば今までのレースでもBIKEを抑えたところで結局RUNは失速している。
だったら行けるところまで行ってしまおう。
その後のことは、その時に考える。

心は決まった。
残り、65km。






中間地点を越え、70km地点あたりから徐々に疲労を感じるようになってきた。


エイドステーションてアクエリアスとバナナを補給した80km地点、最後の洗礼が待ち受ける。

連続アップダウンと向かい風。
体力が一気に奪われる。平均速度がみるみる下がっていく。

そして何よりも、上りで他の選手に抜かれまくる事に悔しさを感じる。

自転車は、上りは俺の専門分野じゃなかったのか?


学生生活が遥か前に終わってから、心拍トレーニングは避けてきた。逃げてきた。
だから同じ悔しい想いを去年のツールドおきなわでも味わった。

まだ、どこか逃げている。
…せめて、せめて下りだけは現役時代の自分にも負けない走りをしよう。

それがせめてもの、意地。




向かい風のきつい海岸線を抜け、いよいよ街なかに戻ってくる。
残りは5kmを切った。

この後のRUN?まだ始まってもいないことを今考えても意味無かろう。



!!

RUN選手が目に入る。しかもすでに復路!あれは…
選手権エントリーの篠崎選手だ。
自分よりも2時間近くも速いのか。。。

だが、それよりも更に速い選手が前を走っている。
彼らを抜かしつつも、同じ舞台で走る喜びを味わう…余裕はすでに無い。


ゴール直前の商店街に入る。

横断幕。
色とりどりの国旗。
応援に駆け付けた多くの住民や観光客。



鳥肌が立つ。



BIKEフィニッシュ地点で自転車を降り、自分のバイクラックまで走る。

すがすがしい。
躍動する身体活動をビンビンに感じる。



RUNは20km。およそハーフマラソンの距離だ。

BIKEをそれ専用の格好に着替えたように、RUNもタンクトップと短パンに着替える。10km程度ならまだしも、それ以上となるとやはり着替えたほうが圧倒的にラクなのは8月のミドルディスタンスレースで実証済みだ。



さて、このトランジッションをどれくらい休むか。

体力がどの程度残っているかは分からない。だが、完全停止はしないが速く走れないことも分かっている。
だったら、、、早いところ出発してしまおう。
足が止まりそうになったら、その時考えればいい。


RUNに入る直前、応援の女子中学生の集団が自分の名前を呼んで「頑張ってくださ〜い」と声援を送ってくれた。
見れば手にはエントリー選手一覧が載っている大会プログラム。
わざわざ胸のゼッケンを見て、探して、応援してくれたのだ。

…これはありがたい。
たとえどんなに追い込まれたとしても、最後の最後まで力を振り絞ることができるのはやはり、こういった声援の力によるものがきっとあるんだろう。



彼女たちなりのアイディアに感心し、感謝をし、これに手を振って応え、補給食と給水をして…
最後の20kmへと突き進む。




走り出しから身体が重い。

だが、
すでに107kmを消化してきたわりにはまだイケる。

この一ヶ月で、俺は強くなっている。




BIKEですれ違ったRUNコースを進んでゆく。

コースが分かれ、だだっ広い田園風景の中をつき進む。
見通しが良く、先が見渡せる光景、しかしそれは行けども行けども距離が縮まらない景色でもある。

疲労と気温が心を弱らせていく。



だが、そんな時に目に入った「5km」表記。


腕時計を見る。

30分を切っている!

ペースは速くはない。この後も落ちるだろう。だが、目標タイム7時間までまだ2時間もある。
残り15kmを大きく崩さなければ、確実に達成できる。

ただ、ここで蘇る皇居30kmマラソンの失敗。
前半を攻め、後半に失速して目標達成に失敗した記憶。


最悪の事態に備え、ペースを維持しつつも出来るだけタイムを温存しておきたい。

だから、せめて折り返し地点の10kmまでは死んでも歩かないし、止まらない。


絶対に。




7km地点。

ここにきてのアップダウンはキツい。もはや声援に応える余裕など、とうに消えている。
エイドステーションのエアーサロンパスの効力にも助けられつつ、歩きたい衝動にムチ打って我慢を続け、最後の坂を上りきると、、、

目に入るはいよいよの折り返し地点。



そしてそのエイドで補給をしていた時…

!?
声を掛けられる。


あっ!!!!



同じツアー仲間の…!


キツいところで出会えた喜びと、彼に負けているという悔しさと、追い付こうというキモチが身体能力全ての歯車を噛み合わせ、いよいよもってギアを上げていく。


ゴールまで、歩かない。止まらない。


今、ここまで走って来た道を同じように戻っていく。
田園地帯を抜け、いくつものエイドステーション、そして沿道の声援の助けを借りながらも、繰り返す歩きたい衝動に何度も負けそうになる。

でも、ここで歩かずにゴールできたなら…この長丁場を経たRUNで歩かずにゴールした!という実績がまたひとつ増やせるじゃないか!


思いを強く抱き、小さな小さな一歩を僅かずつ積み重ね、ゴールとの距離を縮めてゆく。






最後の直線に戻る。

BIKEで入ってくる同じBタイプの選手だけでなく、Aタイプの選手までもが戻ってきている!
そしてすれちがうAタイプのRUN選手!

彼らはこれから更にフルマラソンの距離を走るというのだ。
そして自分はそれを生涯目標に掲げている。

…なんという競技を自分は目標にしてしまったのだろう…


でも、そのキモチは今なら分かる。

自分至上未到の世界に挑み、そしてそれを達成したいのだ。

そして今、ゴールがすぐ目の前に待っている。



再びの商店街。
キツい顔をやめ、幸せの感情を解き放つ。

子どもたちのハイタッチに応え、最後のカーブを曲がり、フィニッシュゲートに向かう。



やり遂げた。
長かった。
挑んだ。
負けなかった。


来てよかった。。。





ゴールテープを切る直前、深々と頭を下げ、そして迎える至福の時。。。。。。





ゴールシーン動画のダウンロード(3.6MB)



6時間34分32秒。



目標7時間切りを達成し、攻めの走りにも成功した。

…だが、これはあくまでも生涯目標の中間地点だ。


それは果てしなく無謀な目標には違いない。
ただ、こうして目の前でその目標とする選手たちと一緒に走れたこと、感じたことは、その目標を間違いなく近付けていることだろう。


ひとまずは、自分を褒めてあげよう。
いたわってあげよう。

反省すべきこともたくさんあった。
それを決して無駄にせず、また明日へと繋げていく。


挑戦は、まだまだ始まったばかりである。






<総合記録>                 .
総合タイム 6時間34分32秒
総合順位 222位 / 672人
男性順位 204位 / 548人
30〜34歳順位 022位 / 056人
 
<種目別タイム(トランジッション含む)>  .
SWIM 0時間46分26秒 (267位)
BIKE 3時間44分16秒 (212位)
スプリット 4時間30分42秒 (212位)
RUN 2時間03分50秒 (303位)
 
<個別タイム(自己計測)>         .
SWIM 約45分
トランジッション 約5分
BIKE 3時間33分
トランジッション 4分23秒
RUN 2時間04分07秒
 
<BIKE記録>                 .
平均速度 29.6km/h
最高速度 60.4km/h
 
<RUN記録>                  .
05km 29分34秒
10km 32分19秒
15km 30分22秒
20km 31分52秒
 
<コンディション>               .
天候 晴れ
水温 25.0度
気温 19.0度(朝6時)〜27度
風速 3m/sec



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