>> 美ら海水族館 <<
〜叶えたい願望は、叶うものである〜
ちょうど1年ほど前だろうか、とあるTV番組で、世界最大のサメであるジンベエザメを捕獲し、世界最大の水槽で人口養殖するまでの苦労を追ったドキュメンタリーを見た。
海での捕獲から海岸までの移動、そしてトラックに乗せて水槽に放つ。
またジンベエザメは餌を食べるとき、体を垂直にするという特徴があり、それを実現させるためにはどのようなサイズの水槽が必要かについても説明されていた。
その時は何となく「凄いな」程度であったのだが、ふとこれが沖縄にあることを思い出し、そして所在地を調べると、レース会場に近い名護の海洋博公園にある「美ら海(ちゅらうみ)水族館」であることが分かった。
空港からはアクセスの悪い名護。しかし、ツール・ド・おきなわに参戦する自分にとっては僅かな距離。
これは行くしかない。
美ら海水族館への訪問は、このような経緯から始まったのである。
雨足が弱まり、小雨混じりとなった50kmレースを無事完走し、目標の9時のゴールも果たした自分にとって、その余韻に浸る時間はあまり無かった。
ホテルに戻り、自転車をしっかり梱包し、荷物をまとめ、シャワーを浴び、自転車を宅急便に預け、そして9時55分、または10時15分の水族館方面行きバスに乗らなければならないのだ。
そして現地の滞在時間を考えると、出来れば9時55分のバスに乗りたい。
…しかし、、、
思い出す。レース中、自分たちのために道路は封鎖されている。
ということは…果たしてバスは定刻通り走っているのだろうか?水族館はこのレースのために休館になってはいないだろうか?
一瞬、ゴール会場での動きが鈍くなる。
バスが動かないなら、もう一度現地まで自転車で走るべきか、それともタクシーか…
時間は過ぎてゆく。
迷っている暇は無い。ひとまず当初の予定通り、まずはホテルに戻ろう。そしてバスはフロントで聞くことにしよう。
ホテルに戻り、バスの運行状況について確認してもらう。
少し待たされ、その回答は「定刻通り」であった。
安堵も束の間、急いで部屋に戻り、身支度をする。
自分の部屋の周りでも皆、自転車を片付けていた。
聞くところによると昨日の189kmサイクリングのみ参加し、遅めの朝食を食べてこれから帰るのだという。
軽くこの旅路での思い出話をしつつ、急ピッチで自転車を梱包する。
自転車を軽く拭いてからバラし、空気を抜き、エアキャップを巻き、バスタオルを巻き、輪行袋に詰める。
それが完了すると、今度は服を脱いでシャワーをサッと浴びる。
シャワーからあがり、服を着替え、荷物をまとめ、バッグに詰める。
荷造り完了。時間はまだあと20分はある。
他の宿泊客に挨拶をし、巨大な荷物を抱えてフロントに行き、自転車を預け、チェックアウトする。
レース後の自転車の扱いに関してはいろいろな選択肢があったが、結局雨が降ったことにより「宅急便で送る」ということで落ち着いたのは、結果的にはそれで良かったのかもしれない。
バッグを背負い、折り畳み傘を差して名護バスターミナルへ走る。
やはり50km程度のレースであればまだ若干の体力は残っているようだ。
しかしそれは同時に、完全燃焼しきれずにどこか安全策を取ってしまっているようなレースをした証拠でもあることは否めない。
バス発車5分前に到着。間に合った。
ふと、水族館の割引券などが無いかと思い、受付に尋ねる。
すると予想通り、通常1,800円の入場券が1割引で購入できた。
バスに乗車し、定刻通りに発車する。
乗客は自分を含め7〜8人程度だろうか。
だが息を切らし、疲労困憊となった乗客は自分をおいて他にいるはずが無い。
皆、いつもの週末やいつもの旅行をこなす、平穏無事な日曜日の朝に過ぎないのだから。
そんな、平穏無事な世界に間に合うことが出来た自分は、ただひたすらに安堵の心があった。
バスが走り、名護市役所前を通過する。
レース会場が見える。
自分たちのために封鎖されていた道路も、今はそれが解除され、いつもの交通を取り戻していた。
この後13時過ぎには200kmレースを始めとしたレーサーを迎えるために、この一帯が再び封鎖される。
自分はその後、更に封鎖が解かれた15時30分頃に戻り、閉会式に参加するつもりだ。
バスに揺られること、およそ50分。海洋博公園到着。
そこにはレースの事などは全くの無関係な、いつもの週末を迎える風景があった。
だが自分にとってはこれ以上無い、完璧な時間運びが出来た喜びがあった。
水族館に入る。
ついに…ついに来た。。。
※メインの水槽をデジカメ動画で撮影してみました。
ダウンロードはこちらからどうぞ。(8.4MB)
※水槽を下から見上げるポイントをデジカメ動画で撮影してみました。
ダウンロードはこちらからどうぞ。(8.0MB)
水槽のすぐ脇のレストランに入り、昼食にタコライスとビールを注文する。
ようやく落ち着くことができた。
レース参加を叶え、破損した自転車を直し、189kmサイクリングを完走し、50kmレースを完走し、自転車を預け、水族館に来て、今こうして自分は落ち着くことができた。
これまで撮ってきたデジカメを眺めながら、その体験を回想する。
そして食事中も魚たちは悠然と水槽を泳ぐ。
叶えたい願望は、全て叶えることができた。
食事を終え、魚たちの優雅な姿を目に焼きつけつつ、その場を後にする。
深海のコーナーを抜けると突然明るくなり、出口が現れた。
土産屋でお菓子を買い、水族館を出る。
バス停に戻る。
その脇には、レースによる道路封鎖の案内板が立っていた。
帰りのバスは、定刻を過ぎても一向に来なかった。
バスを待つ客は、自分を含め5名ほど。
それを見た、反対方向に進むバスから運転手が「乗らないの?」と声を掛ける。
そう、バス路線は名護を発車し名護に戻る周回ルートだったが、自分たちが乗ろうとしていたバスは遠回りのルート。
こちらのほうが時刻表的には早く戻れるからだ。
しかしそれが定刻通りではないとしたら…
運転手の誘いに応え、乗車する。
なんでも、レースのために今日は大幅に遅れているとのこと。
多少の罪悪感を抱きつつも、この時間であれば無事閉会式に間に合うことを感じ、この巡り合わせに感謝し、水族館を後にする。
次へ / もどる