>> 富士山登頂記 <<

1998年9月

夜明け1

台風の過ぎ去った9月末のある日、ひょんなことから富士山に登ることになった。すばらしかった…

 

日本の象徴のひとつ、富士山に「一度も登らぬ馬鹿、二度登る馬鹿」という言葉があるのだが、未だ登ったことがなかった当時、一度は登ってみたいという気持ちがかなり強くなっていた頃、その気持ちを知ってか知らずか、友人が誘いをかけてきたのがそもそもの始まりであった。

台風が去ったある日の月曜日。23時にコンビニのアルバイトを終え、さぁ帰るか、と思ったときにポケットの携帯電話が鳴る。
「なぁ、明日、ヒマ?」
「いちおう授業が二つあるけど、出なくてもいいから(ォィ)ヒマといえばヒマ。」
「OK!じゃあ、富士山登ろう。」
「おっしゃ!いつ行く?」
「今すぐ!」

天候の不安定なこの季節、台風が去ったばかりの今日明日がチャンスかという思いからの同意ではあったものの、睡眠不足が心配。でもそこは若さならではのパワーと世間知らずの無謀さで押し切る。かくして、とんでもなく無茶苦茶な山登りが実行に移されてしまったのである。

 


 

いったん家に帰り、軽く準備をしたのち、日付が変わった0時ジャストに出発。まずは相方を拾い、首都高速から中央道を経て、河口湖インターまで夜の高速を飛ばす。平日の夜中ともなれば、道はガラガラ。途中サービスエリアに寄りつつも、目的地まであっという間である。

午前3時、河口湖インター到着。途中のファミリーレストランで朝食をとり、コンビニにて補給食を調達。恐らく登山道中に山小屋や自販機があるだろう、ということで、比較的少なめの調達であったのだが、実はこれが後に大きな誤算にと繋がるとは。。。

午前4時、スバルラインを使い、一気に5合目まで駆け登る。このときふと空を眺めると、そこには無数の星が輝いていた。考えてみれば今まで見た中で一番標高が高い場所での出来事だったので、感動もひとしおであった。

午前5時、いよいよ頂上を目指す。もうすぐ10月とは言え、まだ夏の面影も残るこの季節、登山道の入り口に差し掛かる頃にはもう朝日が顔を出しはじめるのである。

  夜明け2

 

夜明けの登山道を登る

 

休憩の図  

さて、5合目から6合目まではあっという間で、この調子なら大したことはないだろう、などとタカをくくって、調子に乗ってスタスタと山頂までの距離をハイペースで縮めていたわけで、定期的に休憩をしながら補給食を消費していった頃、ふと、感じたことがあった。

なんか山小屋、営業してねぇなぁ。

まぁもう少し先に進めば自販機くらいあるだろう、という何の根拠もない自信に満ちた予想でその疑問を消し去り、登り続けていくと、早くも7合目付近まで差し掛かっていた。

しかし、だんだんと疲れてくるもので、まぁ当然といえば当然なのだが、次第に空気が薄くなっていくわけで、すぐに息切れしてしまうのである。ところが、ふと上を見ると、遥か先に8合目の小屋らしき建物が見えるわけで、よーしもうちっとがんばっちまうか、と、後先考えない頑張りがここでまた生じてしまうのは、ん〜、良い事なんだろうけど、体力続かないんじゃないかなーと思ってしまうのも確かであり…

ところが相方は山登りは心得たもので、みるみるうちにその差が広がっていってしまう。実は自分、本格的な山登りはこれが初めてだったのだ。そのくせほとんど手ぶらだし。

もうすぐ8合目

 

だんだんこの辺りから、登山道も道らしい道から、まるで岩山を登っているかのように、全身を使って登っていくようになるのに加え、空気が更に薄くなるのだが、これがまた目に見えて辛くのしかかってくる。その分、休憩する回数も増えてきて、ようやく辿り着いた8合目から望む景色は、まさしく雲海であった。こういった景色を見てしまうと、これまでの苦労も少しは報われる気がしてならない。

一期一会の出会いで、相方は8合目でしばらく待っていてくれたので、ようやく追いついた形となったのだが、おや?誰かと喋っている。おぉ、ガイジンさんだ。聞くところによると、まだ真っ暗なうちから手探りで登頂し、これから下山して代々木4丁目に住む友人宅に向かうんだそうな。いやはやガイジンさんは元気だね。ここまでくると結構寒いのにタンクトップだし。

まぁ、そんな具合で記念撮影をし、再び山頂を目指すことになるわけだけど、相変わらず相方はスタスタと登っていってしまい、またもや自分はスローペース。少し登っては息を整えて登り、また止まっては息を整える、これの繰り返し。ふと耳をすませば、全くの無音がひろがる。静寂…

  8合目に到着

 

さぁ、大変。水が尽きた。食料はお菓子を少々、水は500mlペットボトル1本、という無謀な軽装備は先も述べたとおり、山小屋が開いていて、食堂や自販機があるだろう、ということを期待しての軽装備だったわけだが、店一軒自販機一台として稼動していなかったのだ!

いやー、これはまいった。さすがにまいった。このままの調子でも確かに頂上までは到達可能かもしれない。けれど、問題は、そこからこの足で降りなければならないという現実。自転車などと違って、下りだからと言って楽かというと、全くそんなことは無い。しかも、ここにきて昨夜から一睡もしていないツケがまわってきてしまう。睡魔と疲労のダブルパンチ!いや〜、本当に困った…

もはやどうしようもない。だがここで引き下がるわけにはいかない。ということで、兎にも角にもとりあえずは頂上を目指すことにしました。気付けばすでに9合目。そして見上げればそこには頂上らしき建物が。そして…

 

午前9時 山頂到着!3776m!

 

頂上噴火口

いやー着きましたね山頂。疲れた疲れた。そして相方の待つ場所には、なにやら五円玉がたくさんくっついている奇妙な建造物があるので、とりあえず記念撮影〜♪ついでに噴火口も記念撮影〜♪それから噴火口の反対側にある富士山レーダーも記念撮影〜♪とかやっていると、相方が、「せっかくだから富士山レーダーまで行こう」とのこと。ひえぇ、まだ終わってないのぉ?

富士山レーダー

てなわけで、もうここまできたら頑張るしかないので、噴火口をぐるりとまわって目指すわけだが、これがまたとんでもない悪路で、それこそ全身を使って歩を進めたのであった。

 

さて、なんだかんだで目的を果たし、しばしの休憩と食糧補給(相方のを分けてもらう)、そして昼寝を経て、11時半からいよいよ下山開始!休憩してしまえばなんとかなるもんで、まだ眠いものの、短い休憩をはさみつつ、一気に下っていく。次第に天候も悪くなってきて、雲が富士山の斜面に沿って昇っていき、あっという間にあたりは霧に覆われてしまう。
途中、5〜6人の集団に会いしばしの休憩。頂上を目指していたけれど時間切れとやらで8合目で諦めて引き返すそうな。それにしてもオフシーズンとは言え、わずか1ヶ月程度の違いでこれほどまでに人が少ないとは思いもしなかった。独りで登らなくて、よかったよかった。(笑)

14時半、ようやく5合目到着!無事生還、と心から思ったのだった。

 

その後、温泉に入り、晩御飯をとる。当初一泊していく予定だったものの、意外にも早く山を下れたため、さっさと帰ることにしてしまう。そして家に着いたのは22時という、これまた普通な時間。思えば22時間という、猛烈な活動をして体力も気力も尽き果てたのに、1日分にも満たないんだなぁとつくづく実感したのだった。ばたんきゅう。おやすみなさい…

 

もどる