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〜 IRONMAN Cairns: Asia-Pacific Championship完走の全記録 〜


04:20、起床。
眠りはやや浅かったが、7時間は寝れた。

空を見る。
星が見える。ありがたい。少しは天候が回復したようだ。

星空を撮影。
少しするとまた雲が出てきた。

風が生暖かい。けど、寒いよりは良い。


カップラーメン的なものと惣菜っぽいものと、電子レンジで加熱するご飯モノ、あとサンドイッチ、そしてコーヒーを朝食に。



焦らない。佐渡アストロマンでは意味なく焦って早食いして、少しお腹が痛くなった。
今は全く、焦る必要は無い。

落ち着いて食べつつ、部屋の片付け、荷造りをしつつ。
ってか、あんまり美味しくないなコレ。
でも腹が膨れればなんでもいい。


食べながら、ボトル2本にミネラルウォーターを注ぐ。
もちろん、そのうちの1本はPower Gel 6個を溶かしたものだ。
今回はグリーンアップル味。
どうせレース中は味なんか分からないんだろうけどw

そしてそのうち無事、しっかり便意が出てきた。
がっつり食べて、しっかり出すいつものルーチンは今回も果たすことが出来た。


トイレで用をたしていると、外で話し声と足音が聞こえてくる。
どうやら、他の部屋の選手たちも準備ができてきたようだ。


トイレを終え、海パンに履き替える。
服と傘とウエットスーツ、SWIM用具一式をStreet Gear Bagに詰め込む。
コンパクト空気入れ、ボトル2本、ヘルメット、スペシャルニーズバッグを、昨日スーパーで買ったエコバッグに入れる。
全ての持ち物をこの2つのバッグに詰め込み、忘れ物が無いことを確認し、部屋を出る。


5時20分。
まだ真っ暗だ。
寒く無い。雨も無い。ありがたい。

フロントに行き、チェックアウト。
デポジットされた100ドルがクレジットカードに戻る、いや、キャンセルという表現をしていたな。いずれにせよ、Extra Chargeが発生していないことが確認できた。
レースの健闘の声を掛けてもらい、ホテルを出る。


徒歩でT1へと向かう。

その途中、バスが何台も走ってきては、選手たちをぞくぞくと降ろしてゆく。
果たして通常通りの、このバスに乗るプランだったら何時に起きて、いつ朝食を食べつつ、ここに向かってきただろうか。
いろいろすったもんだはあったけど、無事に今朝の朝食を胃に収めることが出来たその結果に、大満足なプランが組めたと思う。





T1に着く。
多くの選手、ボランティア、家族、観客でごった返している。







まずはBIKE。



ボトルをセットし、DHバーまわりを包んでいたビニールラップを剥がし、パンクしていないことを確認する。



そして空気を入れる。
サイクルコンピュータをスタートし、正常に作動することを確認する。

雨を想定した、後輪の泥除けはどうしようか。長さ的にはStreet Gear Bagには入らない。
かといって捨てるのももったいない。
べつに大きな空気抵抗や重量になるわけじゃ無い。
若干、カッコ悪くなるだけだけど、どうせそんな事を気にする人はいない。
よし、今回はこれを装着したまま走ってみよう。




ヘルメットを車体に装着する。
載せるだけ、や、DHバーに掛けておくだけ、というのは風で飛ばされるのでお勧めしない、との昨日の日本語T1 Tour情報にならって、車体自体にアゴのストラップをカチッと取り付ける。



あれ?そういえば朝のヘルメットチェック、無かったな。
ってか、BIKEチェックも無かったし。
Athlete Information Guideに書いてあるルールは自分で守れ、あとは全部自分でやれ。
・・・そんな感じなのかな。
それくらいがちょうどいい。
ここに来てヘルメットNGなんて言われても、もうどうしようもないしね。


ふと、日本語で話し掛けてくる人物が。
あっ、おとといのBIKE預託時に会話した人だ。
空気入れを貸してくれないか、とのこと。
もちろん、ふたつ返事で差し出す。

みんな速そうですね、とか、国内とは規模が違いますね、といった話をしつつも、でも良いチャリ乗ってても後半ダレている選手も結構いるから大丈夫っすよ、って返したりして、お互いの健闘を誓い合う。


BIKEセットを終え、T1を出る。

携帯空気入れを預託する。



それにしても、いつも思うんだけど、みんなちゃんとしたフロアポンプを持ってきている。
けっこうな荷物になるうえ、使うのはホント、試走やこの時くらいしか無いから邪魔じゃないのかな?
もちろん自分のポンプは、小さい携帯型とはいえ、フロアポンプと同等の空気圧まで入れることができる。なのでレース時はいつも重宝している。


続いて、BIKEとRUNのスペシャルニーズバッグ預託に向かう。
BIKEには追加の補給食を少々、そしてRUNには長袖アンダーシャツとロングタイツを入れてある。

他の選手が預託した入れ物を見てみる。
そのほとんどは、オフィシャル販売の20cm × 20cm × 20cmのバッグだ。





そういえば2005年、ハワイホノルルマラソン翌日のサーフィンツアーでもらったバッグにそっくりだな。
使い勝手が悪く、その後は全く使っていないけど、こういう時に使えばいいのか。
覚えておこう。

そんな自分は衣類圧縮袋w
レース中か翌日にちゃんと回収しないと、帰国時にちと困ることになりそうなので、そこはしっかり覚えておかねば。


続いてStreet Gear Bag預託、、、いや、その前にトイレに行っておこう。
結構な長蛇の列になっているのは相変わらずながら、いつものように準備体操をしたり、ウエットスーツを着たりしていればちょうどいいだろう。


次第に明るくなってきた。





風はやや吹いているけど、さほど強くない。
そして、良い天気だ。
本当にありがたい。





ずっと流れ続ける英語の実況、テンションが上がってきた。
どうやら70.3のレースが開始したようだ。
同日開催のIRONMAN 70.3は、フルのそれよりも1時間早いスタート。
国内でもハーフ系のレースが同時開催されることは多いけど、大抵はフルより後だから、なんか珍しい。


それにしてもトイレの進みが遅い。



並んだのは、もともとこの公園にある公衆トイレ。個室は3個。
レース用に設置された仮設トイレがちょっとだけ遠かったのでこちらを選んどけど、数はそちらのほうが多いから少し失敗したかな?
まぁでもあともう少し。
並んでいる他の選手たちも着替えを進めたり、そわそわしてきているようだ。


ようやく順番になり、出す。
おぉ、意外とブリブリ出るな。並んでおいてよかった。
トイレットペーパーもちゃんと残っている。


トイレを出ると、後列の選手はほとんどいなくなっている。
駆け足で進んでいく選手たち。
なんだなんだ、焦らせないでくれよ。

と思いつつ、自分も念のためこれに続く。


と、ボランティアに制止される。
トイレ行ってたのか?

Yes.

ちょっと待て、70.3の選手が来る。

OK.


おぉ、来た来た。SWIMアップした選手たちが続々と駆け抜けてゆく。
盛り上がってるな。


選手の切れ間ができたところで、先に進む。

ワセリンを塗り、ウエットスーツの上を着る。
焦ると汗をかいて、背中がうまく着れないので、落ち着いて、落ち着いて。

ゴーグルに曇り止めを塗り、残っていたペットボトルの水を掛ける。
スイムキャップにも水を掛けて、かぶる。
そして残りの水をウエットスーツの身体の中に流し込み、フィットさせる。


Street Gear Bagを預け、スタートエリアに向かう。



いや、靴を脱ぎ忘れていた。
戻ろうとするとまたスタッフに制止される。
靴を入れ忘れたんだ、と説明。
けどもうこちら側は締め切りのようで、少しだけ大回りさせられた・・・けど、無事Street Gear Bagを回収、靴と靴下を突っ込み、再度預ける。



荷物は全部大丈夫だろうか?
今から遠泳大会。そのための装備だけを身にまとっている。

それが終わればサイクリング。
必要な機材はT1テントに全部入れてあるし、ヘルメットもボトルも全部セットした。

Cairnsに戻れば、あとはランニングだ。
もちろんグッズはT2テントに全部ある。
最悪の最悪でも、RUNシューズだけあれば、あとは何とかなる。

全部、何度もシミュレーションして、セットしてある。
ロングレースも何度も出ている。
全部、問題ない。
大丈夫。


海に出る。
すっかり晴れ渡った、Palm Coveの海。
風と波はややあるが、昨日ほど高くはない。


公式movieより拝借


試泳。
若干冷たいが、大丈夫だろう。
そういえば実況では22度と言っていた。
それは気温の事なのか、水温の事なのか。
いずれにしても体感温度はどちらも問題ない。


海は、視界ゼロ。
事前にググった情報通りだ。

5分ほど泳ぐ。
海水がしょっぱい。
なにげにアイアンマン北海道、IRONMAN韓国ともに湖でのSWIMだったので、ようやく海でのSWIMを、IRONMANの冠のつくレースで闘うことができる。


岸に上がる。
そしてスタートラインに並ぶ。

今回もウェーブスタート。
しかも3人ごとのバラバラスタートだ。
そのぶん、予想タイム順にカテゴリが4つに別れているけど、完全な自己申告。
しかも韓国のようにチェックイン時の申告も無く、今、この瞬間に好きなカテゴリに並べばいいというお気楽スタイルだ。

カテゴリ1:1時間以内
カテゴリ2:1時間09分以内
カテゴリ3:1時間20分以内
カテゴリ4:それ以上

実力通りならカテゴリ4、背伸びしてカテゴリ3にするところだろう。
けど、時間が経てば経つほど波が高くなるので遠慮せず前に並んだほうがいい、という日本語ブリーフィング情報にならって、カテゴリ2の、しかも先頭付近にちゃっかり立つw

さっきまでの若干の緊張も、もう、ここに立てば全くもって、消え失せている。


快晴。
じわりじわりと進む列。
様々な言語での談笑。


公式movieより拝借



今シーズンは練習不足感こそ否めないが、それでもやるべき事はやってきた。
IRONMAN Gurye : Koreaから9ヶ月の短期スパン。
冬のヒザの痛みはなんとか、春過ぎには回復してくれた。
レースと同等の距離の練習も何度か、こなすことが出来た。

ここまで支えてきてくれた家族に感謝。
天候に感謝。
あらゆるものに、感謝。



ひときわ高まる声援。
7:35、プロ選手のスタートだ。


公式movieより拝借



そして列が進み出す。


公式movieより拝借


レース前、家族や観客と最後の言葉を交わす選手たち。

もう、カテゴリ分けもあまり意味が無くなってきている。
進みたい選手は前に進んでいく。
自分は、列に流されてゆく。


7:45、エイジグループがスタート。

次々に海へと飛び込んでゆく選手たち。
沖合いのブイに沿って、選手の縦長の水しぶきが連なってゆく。


公式movieより拝借



そんな光景を眺めつつ、いよいよスタートバルーンアーチが見えてきた。

ついに始まる。
ゴーグルをセットし、ウオッチをスタンバる。

メイン司会者が列のど真ん中に立つ。
ハイタッチや、握手をしてゆく選手たち。
自分もハイタッチし、己を鼓舞する。

3人が横並びになり、一瞬静止。




Let's Go !


バルーンアーチに向かって走る!

レッドカーペットを横断する。
タイミングチップの反応音が耳に入る。


公式movieより拝借



バルーンアーチを正面に対峙する、朝日に照らされた大海原。
立ち止まり、これに一礼をする。

今日は一日、よろしくお願いします。


そして海に向かって走り出す。



3度目のIRONMANレース、
世界に飛び出して2回目のIRONMANレース。


最っっ高に幸せな1日がついに始まった!





IRONMANブランド初、海での闘い 〜SWIM 3.8km〜



朝日に向かって走り出す。
波を掻き分けて海へと向かってゆく。
そして腰のあたりまで水面がきたところで泳ぎ出す。


公式movieより拝借


やはり、視界はゼロだ。伸ばした自分の腕さえ見えない。
加えて往路は波に逆らって泳ぐことになる。
だからレース冒頭からいきなり、苦戦を強いられることになる。

けど幸い、波は穏やかなようだ。
それに復路は波に乗って帰ってくることができる。
だから、往路1.9kmさえ頑張れば、後は楽に戻ってこれるはずだ。
・・・そう考えると、気が楽になる。


今回のレースは、3種目ともその多くが70.3と同じルートだ。
SWIMに関しては、70.3は途中のブイで折り返すが、自分たちフルはその倍を泳ぐ必要がある。

その目印となるブイの数はさほど多くない。そして、ブリーフィング情報によると、波が高さに翻弄され、自分が今、どちらに向かって進んでいるのかが分からなくなることがあるとのことだ。
だからその対策として、目標となるブイと、そのブイの先にある地形、例えば山の形を目標にしながら泳げばきちんと進むことができると言うアドバイスをいただいた。
けど、意外と波は落ち着いている。目標となるブイを見失うことも、今のところ無い。

潮の流れに逆らって泳いではいるものの、かつて経験した鎌倉5km OWS大会、「泳いでも泳いでも前に進まないような感覚」というほどのモノでも無い。今のところは大丈夫そうだ。


公式movieより拝借



マイペースを探しながら進む。
自分を追い抜く選手、自分に追い抜かれる選手。そのSWIMレベルは比較的バラバラのようだ。
3人ずつのローリングスタートゆえ、バトルもほとんど発生しない。
ありがたい。

目標となる選手を見つけては、これに付いてゆく。
けど案の定、視界が悪いためなかなかこれを継続することができない。
けど幸い、目標にした選手は比較的まっすぐコース取りできているようで、おかげでルートから大きくそれる事はなさそうだ。
もちろんそれに頼り切っていると「2人とも実は大きく逸れていた」なんてことが起こり得るし、加えてブリーフィングでも「信じるのは自分だけ」と言ってたから、あまり頼りにし過ぎないようにしよう。



陽が昇る。だいぶ明るくなってきた。
スタートの時点で既に8時を過ぎていたから、いつもと比べてだいぶ明るくなってからのスタート。

澄みきった空。太陽に照らされてキラキラ反射する波。泳いでいて気持ちいい。
ひと掻きひと掻きがブイとの距離を縮める実感がある。

そしてブイに到達、これを通過してゆく。
ペースもだんだん掴めてきた。



目印となるブイ。
オレンジのブイを2つ通過したら黄色のブイ。これは70.3の折り返しの目印だ。
それを過ぎたらさらに3つ、オレンジ色のブイが続く。
その先には折り返しを示す、紫色のブイがある。そこまで辿り着けば、あとは潮の流れに乗って、スタート地点に戻るだけだ。





スタートから紫色のブイまでの距離や、ブイとブイとの距離はコースマップに記載はされていなかった。
だから今、自分がどれぐらいのタイムで泳げているのかは、なかなか分からない。
けど、いつもの感覚であればさほど遅くは無いはずだし、実際他の選手とのスピード差もそこまで開いていないように思える。
だから焦らず、このままのペースを維持することにしよう。



そうこうしているうちに到達した、最初の黄色いブイ。70.3はここで折り返すのか。いいなぁ。
自分たちはさらにこの倍を泳がねば。
けど、清々しい天気のもと、気持ちよく泳げている。体力の消耗もまだほとんどない。それにレースはまだまだ始まったばかりだ。
楽しんでいこう。


息継ぎをするたびに見えるPalm Coveの海岸。目標とするブイ。その先にある目印の、2つの小さな山。
欧米人に混じってIRONMANの海を泳ぐ。
心配していた天気も見事に晴れてくれた。
なんて気持ちいいんだ。

いつもレースが始まるまでは不安でいっぱいになるけど、こうしてレースが始まってしまえば、楽しくて仕方がない自分がいる。
もちろんこのあと疲労が溜まって、そんな余裕は無くなってくるだろうけれども、それも含めて今回もレースの入りとしてはスムーズに行っているようだ。


公式movieより拝借


オレンジのブイを目指してはこれを通過し、次を目指す。
周りの選手に付いていき、ペースを刻んでゆく。

そして次のブイが見える。
しばらく無心で泳ぎ、前を目指す。

ふと気づいたときには次のブイが目前に迫っている。

よしよし、いい感じ。
これを通過すればいよいよ次は紫色のブイのはずだ。
そしてそれを折り返せば、後はしばらく楽ができる。

気持ちを保ちつつ、オーストラリアの大海原を進んでゆく。


公式movieより拝借


そして水平線の先に見えた次のブイの色は、、、あれ?まだオレンジ色か。おかしいな。
まぁいいや。
動揺することなく、淡々とブイを目指して進んでゆく。


泳ぎながら左右、そして後方を見回してみる。
コース幅が広く設定されているためか、というよりはブイ以外は何も仕切るものが無いためか、みんなかなり広範囲に散らばって泳いでいるようだ。その分バトルが少なくて済むけれども、ちゃんとまっすぐ進めているのかどうかが不安になることがある。

ブリーフィング情報によると、必ずしもブイの右側を泳がなければいけない、というわけではなく、ブイの近くさえ泳いでいれば、多少のショートカットはペナルティに取られないということだ。
もっとも自分の場合、ショートカットはもとより、ちゃんと目標通りに泳ぐこと自体が苦手なんだけれども。


そして、ようやく見えた紫色のブイ。
待ってました!




紫色のブイは2つあるけど、確か往路よりも復路のほうが若干長いから、「中間地点の計測位置」はたぶん、2つ目のブイで取ったほうがよさそうだ。
果たしてどれぐらいの時間で泳げただろうか。
遅すぎる事は無いとは思うけれども、いつもこれはドキドキする瞬間だ。


最初の紫色のブイに到達。
これを左手にぐるりと90度曲がってゆく。

必然的に、多くの選手が最短距離を取ろうとして小さなバトルが発生する。
これに巻き込まれまいと、少しペースを上げて密集地を脱出する。


2つ目の紫色のブイを目指し、沖へと進んで行く。

おや、意外と距離があるなこれ。波に逆らって泳ぐのは少ししんどい。
でも、それもせいぜい50mから100m位の距離だろう。
方角的に太陽に向かって進むがゆえ、キラキラとした波の光の反射がまぶしい。
けどそれも、なんだか神々しさすら感じる光景だ。


そして到達、ドキドキのタイム計測。
ウォッチのラップボタンを押す。
タイムを見る。

46分56秒。

あちゃー、やっぱり遅いな。
100mを2分30秒弱、くらいか。
けど、波を掻き分けて、潮の流れに逆らって泳いだわりには大きく崩れてはいない、と考えればいいか。
その分、復路の潮流れに乗ったスピードアップに期待しよう。


ブイをぐるりと左折し、コースを折り返す。

さぁ、あと1.9km。復路はラクできるぞ。
レースはまだまだ始まったばかりだ。





去年から練習し始めたTIスイム泳法。少なめのストロークで、流れに乗って伸びやかに泳ぐのが特徴だ。
ストロークが少ないということは、省エネにも繋がる。あまり泳ぎの得意でない自分にとっては願ったり叶ったりの泳法だ。

正直、今シーズンはあまりSWIMの練習ができなかった。けど、そんな中でも数回参加した「100m ×50本練習会」ではその成果が出たのか、ほぼほぼ完泳できるようになっている。
フォームも比較的体に染み付いてきている。もちろん速い人との差は一向に縮まらないのでまだまだ修正すべき点はあるけれども、今の自分にとって、この長丁場を乗り切るために必要な要素はそれなりに獲得できているはず。
だから今はフォームを意識して、潮の流れに沿って、淡々と距離を刻もう。


息継ぎのたびに太陽が目に入る。眩しい。

そうか、帰りは太陽に向かって進むのか。それに見える景色は大海原だけだ。
右側ばかりで息継ぎをしているから、こういった時に目標物となるブイや海岸の景色が目に入らないのは痛いところだ。
コースから大きく逸れていないことを願いつつ、そして周りの選手の位置関係も参考にしながら、なるべくまっすぐ進めるよう努める。

けど案の定、気づけば目標としていたブイから逸れていることがある。まいったな。幸い太陽の位置は息継ぎをするために大体同じ方角にあるので、これも目安にして泳いでみよう。
プールと違って、大自然で泳ぐときの楽しさ、そして難しさはこういったところにあるのかもしれない。



淡々と泳ぐことしばらく。
オレンジ色のブイを1つ、そして2つ通過。
そしてその先には3つ目のオレンジ色のブイが見える。

いいペースだ。息も上がっていない。疲労度もない。腕も疲れていない。
いいぞ。この調子で行こう。


公式movieより拝借


そしてブイを通過。いよいよ黄色いブイが見えてきた。
70.3の折り返し、黄色いブイ。
もうここまで戻ってきたか。早いな。
SWIM Finishまであと1km弱。時間にして20分少々だ。


前方を見上げてみる。遠くに桟橋が見える。あそこがFinishエリアだろう。
目指すブイは、オレンジがあと2つ、その先に紫。
それを過ぎれば、あとはFinishエリアまで一直線だ。


公式movieより拝借


さぁ、ペースを上げようか。
いや、やめておこう。タイム短縮を目指したいのはヤマヤマだけど、ここでは疲れを溜めないことを優先しよう。


それにしても、いつも同じ程度のスピードしか出せないな。速い人との違いは一体どこにあるのだろう?
まぁそれも、レースが終わってからまたゆっくり考えよう。
レースはまだまだ始まったばかりだ。



オレンジ色のブイを通過し、紫色のブイを捉える。
岸を見ると、スタート地点が見える。
もうここまで戻ってきたか。あと少し。あと少しだ。





そして紫のブイを通過。いよいよFinishエリアに向かって突き進む。

目標物が明確に見えると、俄然やる気が湧いてくる。
どうやら周りの選手もそれは同じのようで、それまでバラバラに泳いでいた選手たちがぐっと集まってくるのを感じる。

Finishエリアが見えてからが意外と長いもので、泳いでも泳いでも、なかなかここに辿り着かない。
けど前方を泳ぐ選手たちが立ち上がり、Finishエリアに走っていく姿が次第に近づいてきているから、全く不安に感じない。



頑張って泳ぐことしばし、ようやく水を掻く手が水底を捉える。
そして立ち上がる。


公式movieより拝借



ゴーグルを外し、SWIM Finishのバルーンアーチを走りながらくぐり抜ける。

軽快なMCの声、賑やかなBGM。そして数多くのギャラリーたちの姿が目に入る。





走りながらウォッチのラップを確認する。

42分27秒。

おぉ、やはり往路より速かったか。
けどトータルタイムは1時間29分。
これは過去のロングレースと比較しても、わりと遅いほうだ。

でも、海と波のことを考えると、そこまでひどくは無い。
体力の消耗もそれほど大きくない。だから大丈夫。このままマイペースで進んでいこう。



※再生ボタンをクリックすると動画を再生できます。右クリックでダウンロードも可能です。(5.5MB)




BIKEギアテントに入り、840番のラックを探す。


公式movieより拝借


よし、自分のギアバッグは無事、残っている。
これを握り締め、テントを駆け抜けてゆく。


公式movieより拝借


テントを出たところで、仮設トイレを待ちながらウェットスーツを脱ぐ選手の姿を目にする。
そうだ!と思い、自分もこれの真似をする。

ウェットスーツを脱いであたりで仮設トイレが空き、手早く用を足す。

そして男性用の着替えテントに入る。


公式movieより拝借



身体を軽く拭いて、BIKEウェアに着替える。
ちょうど近くで着替えていたのが日本人選手だったので、声を掛けてみる。

「良い天気になりましたね。」
「このあと何度くらいまで気温が上がるか、知ってます?」
「知りませ〜ん!(笑)」
なんて会話を交わしつつ、それぞれがそれぞれの準備を進める。

気温が高くなることを見越して、日焼け止めを準備しておいてよかった。これを手足にしっかり塗って準備を進める。


近くに座る欧米人選手。どうも息が荒いな。
「Are you all right ?」
さっきの日本人選手が声を掛ける。

英語でいろいろ会話を交わしている。
流暢な英語だ。そういえば普段はサンフランシスコに住んでいるって言ってたな。
やはり海外レースを楽しむには、ヘタクソでもいいから、相手が何を言っているかをちゃんと聞き取れて、それに対する心に浮かんだ通りの言葉が口から出せなくちゃな。

などと思いつつ準備を済ませる。


ちょうどその頃、ボランティアのスタッフがギアバッグを回収しに来た。

忘れ物は無いか?
大丈夫。問題ない。
そう心でつぶやきながら、バッグをボランティアに託す。

手渡しながら、「Thank you !」とボランティアに伝える。

「ボランティアには何万回でも、Thank youと伝えてください」とブリーフィングで言ってた。
そうでなくても、自分は事あるごとにボランティアにできるだけ感謝の言葉を、その国の言葉で伝えるよう努めている。
それは自分なりのポリシーだけれども、そのほうがきっと、お互い気持ちよくレースに臨めるはずだ。

まずはそのタスクを1つ、ここで始めることができた。



テントを出る。
整然と並んだBIKEラックエリアの周りをぐるりと走り、自分のBIKEラックに辿り着く。


公式movieより拝借


ヘルメットを被る。
サイクルコンピュータのスイッチを入れる。
前後のタイヤをチェックし、パンクしていないことを確認する。

ふと周りを見ると、残ったBIKEの台数の少なさに驚く。

あれ、泳ぐのこんなに遅かったっけ。
いや、きっとこれは周りが速いからなのだろう。
なんといってもAsia-Pacific Championshipだからね。
むしろ、実力通りに第4ウェーブで泳いでいたら、もっと寂しい思いをしていたのだろう。

そう思いつつも、やや小走りになってBIKEを握り、乗車エリアまで進んでゆく。


公式movieより拝借



BIKE Startライン。これを越えてBIKEにまたがり、スピードを上げる。



※再生ボタンをクリックすると動画を再生できます。右クリックでダウンロードも可能です。(2.7MB)



やや少なくなったギャラリーたちの声援を受けながら、コースを突き進んでゆく。


公式movieより拝借


今朝、ホテルから歩いてきた道を逆走してゆく。
真っ暗だったあの時間、すっかり明るくなった今。


快晴の南半球。パラダイスを駆け抜ける180km。
いよいよ、その長丁場へと挑んでゆく。




海岸線、アップダウン、向かい風 〜BIKE 180km〜



BIKEスタート直後。
若干のデコボコに足を取られながらも、落ち着いてこれを対処し、徐々にスピードを上げてゆく。

すっきり晴れた天候。
青空に、緑の美しい山脈。

まっすぐに伸びる道を少し走り、そしてメイン通りに出る。
通りに出たら左折し、そしてすぐに折り返し地点でUターンして、ひたすら北上する。



BIKEコースは現在地であるPalm Coveから Port Douglas(ポートダグラス)まで北上し、またPalm Coveまで戻って往復およそ75km。
これを2周回して最後、さらに南下してCairnsに戻るという単純なルートだ。




Uターンポイント付近はさすが、ギャラリーが多い。
声援を受けつつ、これを折り返し、ダンシングをしてスピードを上げる。

まずはここを北上してポートダグラスを目指す。


ん?反対側車線から戻ってくる選手たち。
わわ、もうプロ選手に1周差を付けられたか?
いや、70.3の選手たちだ。ヘルメットに貼られたBIBシールが緑色だからすぐに分かる。

70.3は比較的老若男女の幅が広いようだ。
BIKEもDHバーの無いロードレーサーのほか、マウンテンバイクで走る姿も。

かつて佐渡B-TYPE参戦時に憧れた、A-TYPEの選手の姿。
それと同じ感覚を彼ら彼女らのどれ位が持つのだろうか。


木々に覆われた、片道一車線のハイウェイをゆく。
木漏れ日が天候の良さを認識させる。
気温はまだそれほど高くないが、森のトンネルのおかげで暑さをしのげている。

けど、しばらく走るとすぐにその恩恵も無くなる。
とは言え、まだそこまで気温は高くないから大丈夫だ。



公式movieより拝借


この道のすぐ左手は、初日に行った観光地:キュランダの熱帯雨林。
道路にはみ出す木々の一本一本、枝のひとつひとつが世界遺産、ということだ。
コテージやいくつかの建物が点在するだけでそれ以外はほぼ、何も無い。

一直線、時折のカーブに少しのアップダウン。
ど平坦ではない、という事前情報はあったが、この程度なら問題ない。
果たしてこの後、どのような行程が控えているだろうか。



公式movieより拝借


森を走る。
木々のトンネル。

しばらくして20km地点、80km地点の看板が目に入る。
果たして2周目、ここにたどり着いたときの体力はどんな塩梅だろうか。


そして最初のエイドステーションに到達する。
けど、まだ始まったばかりなのでこれをスルー。


公式movieより拝借


スルーしながら、手渡されるボトルや、散乱するボトルを見てみる。
どうも、CairnsのロゴはおろかIRONMANロゴも何もない、無地のボトルのようだ。
残念、今回はレースのコレクションボトルの確保とはいかなそうだ。
かと言ってEXPOで買うほどのものでもないし、まぁいいか。

ってか、IRONMAN Gurye:韓国に続き、Cairnsもゴミはその場にポイなのね。
ネットで覆われたボトルキャッチャーと言う名のゴミ箱は日本独自の文化なのかも。


その先しばらくの平坦な道を走る。

そしてスペシャルニーズバッグの受け取りポイントを通過する。


今回はSPバッグに補給食のみを預託している。
雨ガッパ等のアイテムは入れていない。

一応、2周回のいずれでも受け取れるので、ブリーフィングで「1回目に受け取って、返却して、2回目にまた受け取れるか?」と質問したけど、「そもそも1回目は始まったばかりだから不要だと思う」との答えだった。
たしかに、納得。

まぁ幸い、過去のどのロングレースでも雨ガッパを着てBIKEに乗ることは無かったけれども。
それはそれで運の良いことだ。


序盤での調子は・・・悪くない。時速29〜31km/hあたりのスピードで、飛ばし過ぎず抑え過ぎずで序盤を走る。


海沿いを走る。
遠くまで見渡す限りの大海原。
打ちつける波の高さはそれほど高くない。
天候は安定しているようだ。


公式movieより拝借


枝葉の揺らぎを観察する。
そのなびく動きもほとんど無い。
場所によって違うのだろうけど、風もまだ穏やかなようだ。

ただ、復路の風は南から北に向かって吹くという。
だから「行きは良い良い、帰りは地獄」になるのかもしれない。

行きの追い風に乗って速度を稼ぎ、帰りを粘る作戦がいいのか、それとも、、、。

それは走りながら臨機応変に対応していくことにしよう。



公式movieより拝借



時折のアップダウン、前を行く選手、復路を来る選手の速度を観察する。
そして登坂をゆく。
けどそれも少しの時間でこれが終わる。
大したことは無さそうだ。

けど、ボーッと走っていると側溝に落ちそうになる。

なんかここ最近、少しおかしい事があって、なんでもないところで急に焦ってコケそうになったり、道を外しそうになることがある。
今回も気をつけねば。

って、おっとっと!


側溝に落ちた。(汗

幸い、登り坂で速度も遅めで、段差もさほど深く無く、落車せずに済んだけど、あぶねーなー。
ホント、気を抜き過ぎると大事故になるぞ。
しっかりしろ。


海沿いを走る。
昨年のレースダイジェストで見た光景、石が積み重ねられたモニュメント?のある海岸沿いの景色はこのあたりかな?


公式movieより拝借


水平線、綺麗な海。
波は少しある。けど、昨日と比べたら穏やかだ。
まだ泳いでいる選手はいるのだろうか。


時折のアップダウン、これも、登ってもすぐに終わる。

森に入る。
またもや登り坂。

おや、今度のはちと長いようだ。
そのコース脇に看板。
ペナルティボックスはこの先、という表示。
ということは、、、


少し登った先、ちょっとした駐車スペース、赤いテント。
REX LOOKOUTと呼ばれる、BIKEコース最高標高地点だ。
といっても、他のどのレースと比べてもたいした登坂では無いけれど。

ここはちょうど観光客向けの撮影スポットでもあるのだろう。ここから眺める海の景色はなかなかのものだ。


公式movieより拝借




ペナルティボックスにはさすがに誰もいない。
ドラフティングしていなければ取られることは無いだろう。
けど、復路は向かい風ゆえ、マーシャルも虎視眈々とペナルティの目を光らせているという。
油断しないようにしなければ。


REX LOOKOUTを通過して、しばらくの下り坂。

どうやら高低差の図からもおそらく、ここが一番のヒルクライムポイントのようだ。
先人のブログには、後半はアウターローじゃないと登れない、なんて表現もあったけど、今のところは「大袈裟だなぁ」という感想に過ぎない、大したことの無い坂だ。
まぁ、2周目の復路は体力消耗もあって、キツくなってるかもだけど。


景色の変化があまり無いままに、復路を走って来る70.3の選手たちを眺めつつ、淡々と走る。

それにしても、大自然が雄大なので「パラダイスでのレース」なんて宣伝文句もあったり、トップ選手が「世界一美しいBIKEコース」なんて評価をしてたけど、自分にとっては、あまり変化がない、「ただの海沿いの道」って感じかな。(失礼w)

この後、ポートダグラスの折り返し地点までの景色で何か、絶景を見られたりするだろうか。



ルートは海岸線から離れて少し内陸を走る。


公式movieより拝借


綺麗な川の流れる橋を渡り、やがて、身長以上の背丈はあろうかというススキの一帯を進む。

その穂先はやや、進行方向になびいているようだ。
ということは復路はちと、風の抵抗があるっぽいな。


公式movieより拝借



見通しのいい直進。
粉末スティックのアミノバイタルを取り出し、両手を使ってしっかり口に入れる。

おや、あれはスクーターに乗ったマーシャルだ。
向かいからこちらに走って行き、そして走り去ってゆく。
どうやらこの辺りの審判をしているっぽいな。


と、しばらくして
「Hey ! You !!」

な、なんだ?

俺のこと?

さっきのスクーターマーシャルだ。
引き返してきたらしい。

なんか、ジェスチャーをしながら、ちと怒っているというか、何やら警告をしている。

どうもそのジェスシャーや単語を聞く限り、
「最低限、片手を常にハンドルを握っていろ」
「両手を離すのはNGだ」
「またやったらタイムペナルティだ」
ということらしい。

「Time Penalty ?」

思わず聞き返す。

どうやら、今回は警告だけで済ませてくれるらしいが、今度見つけたらペナルティを課すぞ!
ということらしい。

そいやそんなルール、あったような。
とはいえ、英語のニュアンスの違いや聞き間違えは避けなければならないので、何度か聞き返したり確認して、最後に「警告してくれてThank you」的な返しをして、ひとまずは乗り切ることができた。
危ない、危ない。
気をつけねば。


そこからしばらく走り、ちょっとした街、、、いや、商店やガソリンスタンドが数軒ある程度の道を走り抜ける。
久しぶりの、現代社会のエリアに戻れたような気分。


そうか、ここらがポートダグラスなのか。
たしかに看板にそのような単語が書かれている。




それまで誰もいなかった大自然から、少し賑わいのある一帯を走る。

ルート表示に沿って大きく左折する。
その脇には巨大な映像スクリーン。
ひょっとしたら、この界隈の映像がCairnsのメイン会場でも映し出されていたりするのかな?

通過する選手のナンバーから、実況が名前をコールする。
が、自分の名前は・・・呼ばれたのかな?
ちとよく分からない。


その少し先のUターンをぐるりと回って、タイム計測マットを超える。


公式movieより拝借


タイム計測。
37.5km地点。平均速度は29.8km/h。

悪くない。
けど、追い風に乗った割にはこんなもんか。
できるだけ貯金をしておきたい気持ちと、先の長さを考え、抑えておきたい気持ちとがせめぎ合う。
まぁ、ひとまずはこれを基準として復路、そして2周目のペース配分の判断材料にしよう。


マットを超えてすぐさまのエイドステーション。
大会公式の・・・無地のボトルを受け取り、シート後部のボトルケージに挿す。

そしてまたすぐさまのUターン。

すぐ左を並走する、地元の小中学生らしき少年が自分のペースに負けまいと、マウンテンバイクを一生懸命漕いでいる。
その、どこまで本気なのか分からないけど、懸命な姿に思わず笑ってしまい、手を振りながら「速いね。頑張れ〜」なんて、思わず日本語で伝えてしまったりw
きっと彼なりの応援なのだろう。気持ちはいただいた。

その想いを胸に、Palm Coveを目指し、復路へと向かってゆく。



復路の風は幸い、それほど強くは無い。
往路ほどの快適な「無風状態」とはさすがにいかないが、心配だった向かい風も今のところは許容範囲内だ。

そういえば気温は落ち着いてきた。
往路こそ、快晴で少し暑めだったけど、やや雲が出てきたようだ。
むしろ降雨を若干、心配している。


走ってきた道を巻き戻すかのように走る。
そして先ほどマーシャルに注意を受けたススキの一帯を走る。

このあたりはちと、向かい風があるな。
若干の登り坂ということもあってか、スピードが伸び悩む。
颯爽と追い抜いてゆく選手たちに負けじと付いていきたいけど、そこで近づき過ぎるとドラフティングを取られるから、ここはガマンだ。

そいやどこかの看板で書いてあったな。「Drafting is Cheat !」

ドラフティングはズルだ!
って感じかな。
キツいとき、風が強いとき、ついついそうしたくなる気持ちも分かる。
けど、ロングのトライアスロンに向けた練習を一人でやる機会が多いからか、わりと普段の練習から風を一手に引き受けて、正面からこれに立ち向かうことに慣れたせいだろうか、ドラフティングの誘惑に負けることは無くなった。

果たして今回のレース、特に2周目の復路も果たして同じ気持ちで臨めるだろうか。




公式movieより拝借



海岸線を走る。
その木々の揺れは比較的穏やかだ。

森を走る。
直進、カーブ、そして多少のアップダウン。
行き交う選手たち。


公式movieより拝借



!!

瞬間、それまでの選手とは一線を画すようなスピードで追い抜いてゆく選手が数人。

BIBナンバーは1ケタ台。

そしてこれを取材するオートバイとカメラマン。


あれがトップ選手の実力か。。。
SWIMスタートが自分たちより30分ほど早いとは言え、もう2周目を走っていることになる。
これがAsia-Pacific Championshipレースを勝ちにいく選手のスピードだ。
果たして、どれだけの差があるのだろうか。
いや、比べることすらおこがましい。

けど、レベルは雲泥の差なれど、自分も数十年先のハワイを目指すという野望、12レースを完走して推薦を受ける可能性に掛けるLegacy Programへの想いがある。
自分にできる限りのことを、やればいいだけのことだ。

そのためにも、去年のIRONMAN Gurye:韓国のような「余力を残したままの完走から生まれた若干の不完全燃焼感」を再度、味わうことは何としても避けねばならない。
今持てる力をしっかり出し切る。
そうしさえすれば、結果はどうあれ、少なくとも自分自身は後悔することは無いはずだ。


そんな今の調子はどうだ?
およそ50km地点。まだ体力は大丈夫。
疲れを感じ始めてはいるものの、まだまだいける。

3つ目のIRONMANの称号を獲るために、精一杯の走りを、する。


観客のほとんどいない道を、時折の応援メッセージの看板を横目にしつつ、先を目指す。

ペースはさすがに向かい風ゆえ多少の遅さは否めないが、決して悪くはない。


そして最大の難所、REX LOOKOUTの坂を登る。


公式movieより拝借





大丈夫。まだまだいける。
最低ギアに近いペースながらも疲労を蓄積せぬよう意識しつつ、難なくこれを登りきる。

赤いテント・・・ペナルティボックスだろうか、念のためよーくこれを観察し、自分のBIBナンバーが掲示されていないこと、マーシャルから呼び止められないことを確認し、これを通過する。
よかった、やはりさっきのスクーターマーシャルは警告に留めてくれていたようだ。
半年間の鍛錬と多くのお金と時間を費やして臨む晴れの舞台を、つまらない反則でペナルティや失格になることだけは、何としても避けねばならない。


最高標高地点を抜け、颯爽と下り坂を飛ばしてゆく。


海岸沿いを走る。
お、あれはオフィシャルのカメラマンかな?

手を振って撮影をしてもらう。



このあたりの景色も素晴らしい。
・・・けど、頑張って走っている自分たちは実は、あまりそれを楽しむ余裕は無い。(汗



そしてしばらく、木々に覆われた道を飛ばしてゆく。


公式movieより拝借


往路と復路はそれぞれ1車線。
時折、この車線がそれぞれが分離、独立して道を構成する。
それはいったい、何のためにあるのだろう。
分離する理由は分からないながらも、車線は片道2車線に増える。

選手たちは律義に左端を走行する。
そして速い選手はスパーンと追い抜いてゆく。

車線が1車線に戻り、やがて往路と復路は合流する。


直進の森の道、林、ジャングル、、、

エイドステーション。


もらったボトルを捨て、改めて水のボトルをもらう。
補給食を口にしつつの給水は、意外とその消費ペースは早めのようだ。
けど、かと言って酷暑のレースと違ってそこまで暑さはないから、だいたいは想定の範疇だ。

走りながら差し出された補給食を受け取る姿はどのレースでもお馴染みの光景だ。
けど今回は、女性や子どものボランティアスタッフを比較的多く目にする。

差し出された補給食、その手にはバナナと、PowerBarのような固形物、それとPowerジェルのようなゼリーが多い。
ちなみにその固形物とゼリー。これ、IRONMANのロゴが入った市販の製品で、しかもEXPOで300円ぐらいで売っていたのと同じものだ。
タダでゲットできてラッキーw


さて・・・。
エイドがあったということは、Palm Coveすなわち1周目の終了まではあと10kmくらいか。

気温は落ち着いている。
雨の心配も無い。
体調は、、、少し疲れてきたけれど、まだ大丈夫。

淡々とジャングルの脇を走り、残りの距離を詰めてゆく。

1周目、往路で見た光景を巻き戻しながらも、往路と復路とではまた違った印象を抱きつつ、若干の向かい風を突き抜けて前へと進んでゆく。



公式movieより拝借


あまり変わり映えのしない景色が続くと気が滅入るものだけれども、自分を追い抜いてゆく選手、自分に追い抜かれる選手を眺めたり、そのシートポストに貼られたBIBシールの名前を見て、あァ、日本人がいる、などと思いながら走っていると、案外気が紛れるものだ。
中には、さっき抜いた選手にあっさりと抜き返されたり、はたまたなぜかペースが落ちてきてこれを抜き返したりと、特定の選手とよく分からない追いかけっこをすることもある。
声を交わす気力はあまり無いながらも、たいていは自分と同じような心境をしているのだろう、きっと、思っていることは何となく分かる。。。と、思う。たぶん。w



150km地点を示す看板。

おろ?

あァ、なるほど。これは2周目終了時の距離表示か。
ということは、間もなく1周目が終わるな。


交通整理をするオッチャンたちに導かれつつ、進んだその先に、何時間か前に見た光景が目に入る。

さすがにギャラリーの数は、やはりあまり多くは無い。
きっとその多くは先頭集団を見届けた後、応援のシャトルバスでCairnsに戻っていったのだろう。

残ったギャラリーの声援が有難い。
これに応えつつ、Uターンポイントをぐるりと回ってゆく。

つまらないところでコケないよう、若干慎重に回って、そしてダンシングをしてペースを戻してゆく。


75.0km。
平均速度は27.8km/hだ。

さすがに向かい風で少し落ちたか。
けど、ここからまた40km弱は追い風だ。
どこまで巻き返せるだろうか。


いざ、2周目へ。






ギャラリーの応援に背中を押され、調子に乗ってペースを上げたはいいけれど、その声援もすぐに途切れてまた、静かな自然に囲まれる道を進む。

1周目に走った景色を思い出しつつも、どうも、変化が無いからその再現性に感情が揺れ動くことに乏しくなる。
ただそのぶん、いくつかの看板や注意書きには目をやることができるようになった。

ゴミのポイ捨ては禁止。

現在、80km地点。


・・・80kmほど走ってきて、さすがに少し疲れてきた。
せっかくの追い風、、というよりは無風状態か。アドバンテージがあるにも関わらず、どうもペースが上がらない。
IRONMAN韓国の時は少なくとも、中間地点まではけっこう元気だったのに、今回はどうも伸び悩むな。。。

次のエイドでは少ししっかり休憩をしてみよう。
そうだ、トイレにも行こう。

などと思いつつ、しばしガマンの走りを続ける。



公式movieより拝借


自分の周りを走る選手の数も心なしか、少なくなってきた。
やはりチャンピオンシップレースは、自分よりも前で走る選手がかなり多いのだろうか。



淡々と走ることしばらく。

「もう少しでエイド。」
「この先、スペシャルニーズバッグ。」

という看板を目にして、ようやく安堵。
いや、本当は安堵していないで、ノンストップで先を目指すべきなんだろうけれども(汗)。


Powerジェルボトルを飲み干したのでこれを破棄し、スポーツドリンクの入ったボトルを受け取る。
それから水も入れ替える。

エイドステーションの最後、仮設トイレでBIKEを降りる。

ふぅ。
ひと休み。

トイレは2基。
うち片方にはBIKEが立てかけてある。

もう片方も使用中。

ストレッチをしながら開くのを待つ。

そしてBIKEが無いほうのトイレが開く。
出てきたのは、ボランティアの少年。

そうだよね、トイレくらい使うよね。


いつも献身的にボクらのサポートをしてくれる彼ら彼女らには本当に、頭が下がる。

などと思いつつ、さっさと用を足す。



スッキリしたところで、BIKEにまたがり、先に進む準備をしていると、、、

「空いてる?」
と英語で聞かれる。

おや、BIKEが立てかけられたほうのトイレはまだ使用中っぽいな。
自分が出てきたほうのトイレが開いていることを「Here is open.」なんて伝えたけれど、あれは Empty のほうがよかったのかな?なんて思いつつ、先に進み始める。
まぁ、単語がおおよそ合っていて、身振り手振りが加わって、しかも同じ目的を持つ選手同士だから間違いなく伝わっているだろうけれど、そこをもっとスムーズに話せるように、なりたいなぁ。



エイドからわずか数100m先のSPバッグ受け取りゾーン。

またもや完全停止してこれを受領する。

その中身は、、、主にその場ですぐに消費できる液体系の補給食。
バッグに入れた分量は若干多めだったので、必要な中身だけ取り出して後は返却しようかなぁなどと思いつつ、少しその場で留まっていると、、、

いや?待てよ?
このまま持って行ってもそんなに邪魔にならないし、明日回収に行く手間も省けるし、もし紛失とかで回収できなかったら、これ衣類圧縮袋だから帰りの荷造りが大変になるしなぁ・・・

なんてことを思い返して、結局全部持っていくことにした。

まごまごしていた時間が勿体なかったな。。。(汗)
まぁ、大した差にはならんとは思うけど。

せっかくなので回収した補給食を、少ししっかりめに口に入れつつ、再びペダルを踏み始める。



体力的にはだいぶキツくなってきた。

ペースがなかなか上げられない。せっかくの追い風の往路にも関わらず。
ここでペースをそれなりに上げておき、復路の向かい風、そしてCairnsまでの行程でのペースダウンをカバーする貯金を、ある程度作っておきたい。
しかし、むしろなんだか気持ちが悪い。
吐き気は無いものの、夏バテに似たような、でも少し違う、ペースを上げることのできない、不可思議な状態。

少し迷ったが、ひとまずはあまり無理をせず、このまま抑えたペースで行ってみよう。
そうすればそのうち回復するかもしれない。



公式facebookより拝借


周りの選手の数も、心なしか減ってきたようだ。
やはり、おそらく自分の全体順位はかなりの後方なのだろう。
けど、ロングレース。その目的は、他人よりも自分との闘い。
もちろん他人と競い、高いレベルで順位を競えれば、苦しくありながらも、きっと楽しい走りができることだろう。
けど、それができるのは、、、いや、、、果たしてこの先の競技人生で、そのようなシチュエーションに出会えることはあるだろうか。

しかし、それを言っても仕方がない。
今の自分の実力を認め、今の自分ができることを精一杯やるだけだ。

決して、後悔のないように。



公式movieより拝借



海岸線を進む。
アップダウンを進む。
森のトンネルを突き進む。

体調の回復は、、、なかなか見込めない。
けどまだ、26〜27km/hくらいは維持できている。


REX LOOKOUTの登坂をゆく。


公式movieより拝借




他の選手もかなりペースが落ちている。
自分はまだ最低ギアで走るところまでは落ち切ってはいない。
だから少なくとも、折り返し地点のポートダグラスまではこのままのペースで行けそうだ。

最高標高地点を上りきり、下り坂をできるだけ省エネで飛ばせるよう維持する。
しかしその快調な下り坂も間もなく終わり、再び自力でペダルを回し続けてゆく。



公式movieより拝借



ススキが生い茂る一帯に突入。
その穂先の動きを観察する。
だいぶ、風になびいているようだ。
こりゃ帰りはちと、きついかもな。

おっ。あれは。
1周目に注意された、スクーターマーシャルだ。
あれ以来、警告に沿ってルール通りの模範的なレース展開をしてきているし、今も普通に走っているので何も心配することはないけれども、ついついなんとなく緊張してしまう。

けど、今回は何事もなくここを通過。
まぁ、向こうにとっては1,000人以上の選手の一人一人を、いちいち覚えているわけでもないのだろう。

若干の安堵の念を抱きつつ、まずは折り返し地点を目指す。


市街地に入る。
ただでさえ人の少ない地域。その2周目、しかもレース後方の選手たちの姿に興味のあるギャラリーは、そう多くはない。
やや寂しいながらも、ポートダグラス、その折り返しポイントにようやく辿り着く。




カーブを左折し、その先のUターンポイントをぐるりと回る。
計測マットを超え、電子音の反応を耳にする。


112.5km地点。
平均速度、27.7km/h。

やはり、伸びなかったか。
まぁ、いい。



そこからすぐのエイドステーション。
空になったボトルを捨て、エイドで給水と補給食の確保。
今回は落ち着いて完全停止し、それぞれのアイテムを確実に手渡ししてもらう。
まぁ、「堂々と停止できる唯一の場所」と、自分に言い聞かせるためだけどw

エイドで差し出される補給食のうち固形物のそれは大抵、片手にバナナとPower Barを持って、選手が欲しい補給食をCallして、そのいずれかを渡してもらうんだけれども、ときどき「Both of them ! 」、すなわち「両方ちょうだい!」なんて伝えることがある。
けど、それを聞いたボランティアが瞬時に聞き分け、一瞬で持ち方を変えて両方を受け取れるようにするのはお互い、なかなかの高等テクニックだ。
だから最初に一度これを試して以来、両方欲しい時は思い切り減速するか、停止して受け取るようにした。

もちろん、もらった後に Thank You ! と伝えるのはほとんど、ボクら選手がすべき、精一杯の義務みたいなものだ。


補給食を受け取り、給水を済ませ、体制を整えて再び走り出す。
1周目に並走した少年たちの姿はもう、どこにも無い。

けど、BIKEもいよいよここからが本番。

残り70km弱。
次第に強まっていくであろう向かい風に負けず、まずはPalm Cove、そしてCairnsを目指して、ひた走る。


天候は、ややどんよりしている。
そして向かい風は、弱いながらも快適な走りを阻害する。

体調は幾分マシになったけど、ペースを上げるには至らないか。


わずかの市街地を抜け、ススキの一帯を走る。
おぉ、またもやスクーターマーシャルの姿。
ちゃんと走ってますよーw

往路を来る選手たちの数も少なくなってきた。
制限時間までは、まだまだ余裕はあるけど、やはりどのレースでも周りにいる選手が少ないよりは、多いほうがいい。
もちろん、お互いの走りの邪魔になる程の混雑はイヤだけど。
まあ、そんなシチュエーションになるのはせいぜい、SWIMくらいだろうか。

やや長いススキの一帯、やや強い向かい風に悩まされながらも、しばらく無心で走ることでここを抜ける。


海岸線を走る。
雨の降りそうな空、
しばらくすると回復する空。


公式movieより拝借


雲の移動するスピードが速いのだろうか。それだけ風はある、ということだろうか。
いずれにしても雨ガッパを着るほどの天候にはならずに済みそうだ。
よかった。


ジャングルの木々が向かい風の一部を和らげてくれる。
風が無くなると、今度は暑さ、そして疲労を実感することになる。

幸い、気持ち悪さは無くなった。
ペースは上がらないなりにも、BIKE全体の平均速度をなるべくこのまま維持できるようガマンする。


カーブ、アップダウン、直線。


公式movieより拝借


2周目の復路にして、なんとなくコースが分かるようになってきた。
まぁ、どっちにしても平地メインだから、そんなに気にする必要は無いけどね。
むしろ、コースの想像がつくと「Palm Coveまでは、まだあんな景色を経てこんな坂があって、まだ遠いなぁ」なんて感じてしまったり。
そんな時は他の選手も眺めたりして、気を紛らわす。

おや、さっきからこの選手と、抜きつ抜かれつを繰り返しているな。
ペースが落ちたと思ったらガーッと抜いていったり、けどまたしばらくすると落ちてきたり。

はたまた、登坂で抜かれて、下りで追い付いたり。
選手によってそのペースは様々。
けど、少なくともみんな、それぞれがそれぞれの目標を持って、同じ目的地を目指す戦友であることに変わりは無い。

時々、数人の選手が自然と集まっては、またそれぞれのペースでバラけてゆく。
そして前後に誰もいなくなる時間帯にすら、遭遇する。


そのうち、はるか前方に選手の姿を目にする。

おや?あの2人、ずいぶん近いな。ドラフティングしてんじゃね?
・・・と思ったら、どこからか走ってきたオートバイマーシャルがスーッと近づいてゆく。
そして一定の距離をあけた後方から、じっとこれを観察している。

「息を殺して選手のドラフティングをジャッジする」なんて話をブリーフィングで聞いたけれど、まさしくこれがその姿のようだ。

幸いにも選手が気づいたのか、それとも自分から離れたのか、どうやらペナルティを取られることは無かったようで、マーシャルがこれを追い抜いてゆく。
後方の選手と言えども、油断せずにちゃんとルールに沿って走らなければならないようだな。


やがて登坂、REX LOOKOUTを登る。
なるほど、疲労の蓄積する後半の登坂はなかなかキツい。
とは言え、少し走れば間もなくこれも終わる。
最低ギアでダラダラ走るよりは、少し頑張ってさっさと登ってしまったほうがよさそうだ。

数人の選手を抜きつつ、これを登りきる。



公式movieより拝借




ペナルティボックス担当のマーシャルたちも、すっかり「のんびり」モードらしく、雑談をしながら過ごしている。

念のためタイムペナルティを取られていないか、再度確認し、それらしき表示もリアクションを受けることも無いことを確認し、これを通過する。


下り坂を利用してペースを上げる。
ジャングルのトンネルを走る。
海岸線を走る。



公式movieより拝借


陽射しが、やや強い。
けど体感温度としては適温だ。
この先の行程をイメージしつつ、先を目指す。

往路を来る選手の姿は、その数は少なくながらもまだ、ちらほらいるようだ。
先は長いな。。。制限時間は大丈夫だろうか。



黙々と走る。

往路、最初のエイドステーションがコース反対側に見える。
ということはPalm Coveまであと、20kmくらいか。


木々に囲まれ、そして美しい海岸線を走るパラダイスのBIKEコース。これを「パラダイス」と感じる余裕はあまり無かった。
けど、日本から遥か離れた南半球を走ること自体がなんとなく、自分を誇らしくしてくれるのは何故だろう。

静かな大自然の中を、ただひたすらに漕いでゆく。
が、ペースは24km/hを下回るようになってきた。

願わくばPalm Coveに戻った150km地点で、なんとかトータルアベレージ26.8km/hくらいは維持しておきたい。
けどまぁ、無理はしないでおこう。



淡々と走る。

140km付近。
直線の道に設置されたエイドステーションに到達。

水とスポーツドリンクのボトルをもらい、補給食をゲットする。
そして仮設トイレで用を足す。
尿意があるというよりは、気分転換の意味合いのほうが強かったのかも。

トイレを出て、装備を整えつつ、スポーツドリンクを口にする。
うーん、あんまり美味しくないなコレ。
「エレクトロなんとか」って表現をしていたり、そんな綴りの記載があったから、いわゆる電解質なんたら、なのかな?(適当w)
まぁ、「良薬クチに苦し」なのだろう。

そういうことにしておこうw

BIKEにまたがり、ボランティアにお礼を言って、再び走り出す。


僅かな時間とはいえ、物理的にBIKEを降りて、使わない筋肉を使うことが良い刺激になったのか、少しラクになった。
BIKEもあと、1時間半くらいだろうか。
頑張れそうだ。





見慣れた光景を目にしつつ、少しずつ目標ポイントが近づくのを感じ取る。
1周目の往路、元気で賑やかだったあの時間帯。
すっかりレース後方でガマンの走りをする今。
でも、まだまだ。
これが終わったら、まだフルマラソンが控えている。

BIKE残り距離を刻みつつも、最後の種目に想いを巡らせる。


そして。。。


ようやく戻ってきた。
2周目のPalm Cove。

150km地点。
トータルアベレージは26.6km/h。

すっかり静かになったポイントを、僅かに残ったギャラリーの声援にThank You ! なんて応えつつ、今度はまっすぐに進んでゆく。





さぁ、残り30kmだ。
いよいよ強まるハイウェイの向かい風に抗(あらが)いつつ、Cairnsを目指す!



コースはこれまでのジャングルから一転、片側2車線の現代社会に戻ってゆく。

ハイウェイの車道とBIKEコースを仕切る三角コーンが無数に続いている。

どんよりとした雲、向かい風、追い抜いてゆく一般車両。
たまに声援を送ってくれるドライバーや同乗者に手を軽く振って応える。
けど実際は向かい風の中、ペースを維持するのが精一杯だ。

いや、維持できていないか。

他の選手もキツそうだ。
けどこの一帯、待ってましたとばかりにマーシャルがドラフティングをマークしているらしい。
そんな事前情報を知ってか知らずか、みんなキチンとルールを守って走っている。

時おりの右折、左折、そしてランアバウトの交通を制御する警察官やボランティアに導かれ、ガマンの走りを続ける。
沿道の声援もあり、これまでの大自然とのギャップもあって、気分的には案外、余裕を保てている。

たまにパラつく雨にも関わらず投げかけてくれる声援、そして交通規制をするボランティアたち。
感謝。

幸い、雨はすぐに止み、陽射しが出てきてくれた。
1日の気温のピークも過ぎている。
暑さ寒さを心配することも無さそうだ。

たまに幅寄せしてくる車や、規制を越えて走る車の姿もある。
応援しているようには見えないな。
ゴメンね、地元の生活の邪魔をして。
今日一日だけ、許してちょ。



「Cairnsまであと何km」、なんて看板が目に入ってきた。
おぉ、もうそんな頃合いか。
いい感じだ。

そういえば終盤のコースマップが、どんな風になっていたかをちゃんと調べなかったな。
少しクネクネしていた気がするけど、そろそろ、かな?

などと思っていた矢先、ハイウェイを左折、住宅街へと続くエリアへとコースは進んでいった。


わわ。
このへんはデカい家が多いな。
なんかボート持ってるし。
高級住宅街なのかな?

そこに住む人たちなのか、観光客なのか、ここでも声援をときどき送ってもらう。

Thank You〜!

ありがたい。


「がんばれ〜」

おろ?日本語での応援だ。
Cairnsは日本人観光客がいっぱいいる、なんて話を聞いていたけど、このあたりの観光客なのか、それともこのへんに住んでいるのだろうか。
いずれにしても、レース中に日本語で声援を受けたのが新鮮だった。


それにしても、なかなかハイウェイに戻らないな。
コースの距離調整で、少し逸れたあとはまた戻るものだと勝手に思い込んでいたけれど、どうやらそうでは無さそうだ。


やがてコースは広い畑の一帯を走る道へと続いてゆく。
その途中に現れたエイドステーション。
おそらくはこれがBIKEコース、最後のエイドだろう。




残り少なくなった水入りのボトルを捨て、満タンのそれをもらうべく、ボランティアに伝える。

Water please〜!

っと、どうやら品切れらしい。
マジか。

この先に残っているよ!
的な言葉を聞き、ゆっくり走ってエイドの最後の方に進んでゆく。

そしてボランティアのオネーチャンに伝える。

あらまあ!ごめんなさい、水が無いの!
的なことを言っている。

oh...
マジか。

仕方ない、諦めて先に進むか。
さっき捨てたボトル、まだ少し入ってたから、捨てなきゃよかったなぁ。
でもあと20kmくらいだから、何とかなるだろうけど。

なんて思っていたら、そのオネーチャンが何か叫びながら走っていった。
どうやら、水を調達してきてくれるらしい。

ありがとう!


しばし待つ。
ここら一帯のボランティアは、地元の高校生が担当しているのかな?
機転を利かせて自分から動き出すのはなんとも、頼もしい。

待っている間、高校生の保護者か先生らしきオッチャンが近寄ってきて、ゴメンねーなんて事を言ってきた。


いやいや、大丈夫!
という想いを込めて

「It's Intermission!」
休憩だよん!

なんて答えると、なんか爆笑してくれた。


そして間もなく、さっきのオネーチャンがスポーツドリンク入りボトルを手に、その中身を捨てながら走ってきてくれた。
んで水撒きのホースの水をどばーっと入れて、手渡してくれた。

Thank You for your kindness !!


ボトルを手に、再び走り出す。
走りながら、受け取った水を口にする。

うん、ホースの味がするw
これ農業用水なんとちゃう?
まぁ、下痢しなければ何でも構わないけどw



コースはそこからしばらく、畑の一帯が続く。

陽が少しずつ傾いてゆく。
畑の中の直線、片側一車線の道路。整然と並べられた赤い三角コーンの脇をひたすらに走ってゆく。
前後を走る選手の数は少ない。
数人の選手を抜き、 夕日少し手前の時間帯、次第に長くなる影を目にしつつ、大地を駆け抜けてゆく。


そしてしばらく走ること十数分。
再びハイウェイへと戻ってきた。
Cairnsを目指し、前へ前へと進んでゆく。

おや?
あれはレーシングカートを体験できるアトラクションの一帯だな。
あァ、そういえば初日、キュランダ観光のゴンドラに向かうバスから見えたっけ。
ということは、いよいよBIKEのゴールも近いということか。


まっすぐの道を走る。

左手に空港を示す看板、そしてその敷地が見えてきた。
その奥の方には何台もの飛行機が止まっている。

確か空港から自分の泊まっているホテルまでは5km程度。
そのホテルからメイン会場までは、徒歩で20分程度の距離だ。
あと少し。あともう少しだ。

っと、意外に空港の敷地が続くな。
どんだけ広いんだ、ケアンズ国際空港。





そんな光景もしばらくするとようやく終わりを告げたようで、ルートはこれを左折し、いよいよBIKEの終了を感じさせるような雰囲気になってきた。

交通制御された道を進み、警察官に誘導されるまま信号を右折。


おおお!
RUNコースを走る選手がいる!
ちょうどここはRUNコースの折り返し地点のようで、数多くの選手たちが行き交っている。

そしてBIKEコースは、しばらくこのコースを併走するようだ。
図らずとも、RUNコースの下見になっているのでラッキー。



公式movieより拝借


陽もだいぶ落ちてきて、若干の肌寒さを感じることもある。
けど、走る選手たちの姿を見る限り、長袖を着ている選手はおそらく、1人もいない。
ここ数年の酷暑下の練習で暑さにはだいぶ慣れたけれど、寒さはやっぱり苦手なので、自分が走っている間もなるべく、そこそこの気温を維持していてほしいものだが。



公式movieより拝借


溜まった疲労を分散させるべく、手足の筋肉を揉みほぐす。
何もしなくても勝手に距離を詰めることのできる唯一の種目、BIKE。
スピードを維持しつつ、ペダルを踏む足を少しの間だけ止めて、セルフマッサージを行う。
そしてスピードが落ちきる前に再びペダルを漕ぎ出す。



公式movieより拝借


BIKE 180kmの行程。
今回はどんな感触だっただろうか?
余力を残した不完全燃焼感は?

・・・大丈夫。ちゃんと気持ち悪くなるほどに走ったから。(ぇ
まぁ、正確には練習不足、追い込みが足りていない、体力が付いてきていない、と言われればその通りなのだけれども。

いずれにしても、上を目指せばキリが無いし、その実力が伴っていないのはいつまで経っても解決しない課題だけど、体力を残しつつ、しかししっかり走りきるというテーマは今回はそれなりに果たせたようだ。


それにしてもこの並走コース、意外と長いな。

正面に円柱状のビルが見える。
あれ?こんなビル、あったっけ?


公式movieより拝借


初日、徒歩でこの辺りを歩いたはずだけれども、どうもその地理感覚がはっきりしない。
でもまあそれも、RUNで走ればすぐに分かることだろう。
今はBIKE FINISHに向けて突き進むだけだ。


市街地へと入る。

おぉ、めっちゃ盛り上がっている!
中心街、多くの飲食店、そして多くの観光客。
みんな陽気な欧米人なのか、その1人1人のテンションがとても高い。
その声援はRUN選手に向けられているだけでなく、こうして長丁場を走ってきたBIKE選手にも向けてくれている。
なんだか、すげー楽しい。
RUNもこの調子で声援を受けながら走れるのなら、さぞかし楽しいことだろう。

早く走りたい!


公式movieより拝借



賑やかな道を走ること数分。
ついにBIKE FINISHゲートが見えた。

少し手前から減速し、UNMOUNTラインで下車。T2エリアへと入ってゆく。


公式movieより拝借


180km走行。全体アベレージは26.1km/h。
まぁ、こんなもんだろう。


と、そのT2エリアに入ったところで、ボランティアの青年たちがBIKEを受け取りに来た。
そうか、このレースは自分ではBIKEラックに掛ける必要は無いタイプか。
五島長崎以来、久しぶりのシステムだ。

ボランティアにBIKEを預け、お礼を言う。
そしてRUNギアのあるテントへと向かってゆく。




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本当は少し小走りで進みたかったけれども、前の選手はゆっくり歩いていたので、これに付いてゆく格好になった。
まぁ、これも小休止と捉えればいいか。


歩いている最中、実況が自分の名前をコールしてくれているのに気付く。
ハッとして見渡すと、その実況がこちらを向きながら色々喋っている姿が目に入った。
お礼の意味を込めて手を振ると、向こうもそれに気付いたのか、手を振り返してくれた。


BIKEギアテントへと向かう。
っと、そのすぐ脇に仮設トイレを発見。
尿意はそれほど無かったけれど、念のため寄っておくことにした。

そしてすぐに用を済ませ、今度こそBIKEテントに入る。


公式movieより拝借


BIBナンバー「840」のラックをすぐに発見し、自分のRUNギアバッグを手にする。


公式movieより拝借


テントの奥の方には白いプラスチックの椅子がたくさん並んでいたので、それに座りながらRUN用の装備変更を進めてゆく。

他の選手もみな、疲労感を抱きつつ、それぞれのペースでこれをこなしてゆく。
大抵はBIKEジャージのままRUNに突入する選手が多いけれど、自分はここからのフルマラソンに備え、RUN用の格好に完全に変更するスタイルだ。
そのぶんトランジッションに要する時間は長引いてしまうけれど、この先の長丁場を考えれば、そう間違った選択ではないと自負している。


っと、忘れちゃいけないGARMINウォッチ。
ここまでは通常のTIMEX IRONMANウォッチを使ってきたけれど、ここから先はGARMINに思い切り頼りながらペースを刻んでゆく作戦だ。

まずはGPSを掴むため、電源を入れ、テントを出たすぐ近くのポールの上に載せておき、しばらく放置することにした。

IRONMAN韓国のときと違って今回は入国後にいったんGPSを掴んでいる。
GPSの仕組みはよく分からないけど、もし前回のGPS取得地域を記憶しているのであれば、そこと現在とのズレを修正するのに、そう時間は掛からないだろう、という目論見だ。
あとはしっかりGPSを取得してくれることを祈りつつ、テントに戻って着替えを進める。
盗難や、「忘れ物」と捉えられてボランティアが持っていってしまうことが少し気掛かりだけど、 まぁ、きっと、、、大丈夫だろう。

補給食を口にしながら、BIKEジャージを脱ぎ、RUN用のシャツと短パンに着替える。
ワセリンを塗って、ソックス、そしてシューズを履く。
EXPOで購入したBIBナンバーベルトを身に付ける。

ちょうどその頃、女性ボランティアが寄ってきて、BIKEギアを入れたバッグの回収の手伝いを申し出てきた。

忘れ物がないことを確認し、これを託す。
って、男性用テントに若い女性ボランティアが堂々と出入りしているのが、なんだか不思議な感じだった。

さて。
あ。TIMEXウォッチを付けたままだった。

せっかくボランティアに持って行ってもらったギアバッグを回収しに戻る。
バッグは100番ごとのBIBナンバーに仕分けられた巨大なカゴに、無造作に山積みされていた。
持って行ってもらってから、まだそれほど時間が経過していなかったので、バッグの山の上のほうにある自分のバッグを見つけ、これにウォッチをねじ込む。

そして改めてテントを出る。


さて、GARMINはGPSを取得できたかな?
あれ?
・・・出来てない。
おかしいな。

再度GPS取得を待つのは、ちょい厳しいな。。。

お、先にはRUNスタートアーチ、その手前には給水テント、それから仮設トイレがあるな。


公式movieより拝借


よし、再取得を待つ時間を有効活用する案が決まった。

1. 給水テントの水で鼻の頭を洗い、汗と脂分をできるだけ落としてブリーズライトを貼る。
2. アミノバイタル顆粒をクチにして、水で一気に流し込む。
3. トイレに念のためもう一度行っておく。


・・・ということで、トイレから出たところで無事、GPSの取得を確認。
今度こそ、RUNスタートだ。




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声援を受けながら、バルーンゲートをくぐり、GARMIN計測開始。
すぐに右折し、柵に仕切られた道を直進。
そしてまたすぐに右折して、一直線の道を走り始める。

そのすぐ右脇は栄光のFINISHエリア。
あそこに辿り着くのは果たして、何時間先のことだろう。

羨望の眼差しを投げつつ、これに並走するように直進。


そのすぐ後には周回ラップを確認するリストバンドを受領するテントがある。
しかも周回ごとに異なったバンドを手渡す、そのテント自体が分かれているようだ。これは珍しい。

ボランティアのオバチャンに「1周目」を示すため、人差し指を出して1周目用のバンドを受け取る。



おぉ、これ、白地にIRONMAN Cairnsのロゴが入った、めっちゃ格好いいやつじゃん。
なんか嬉しい。
これを手首に巻き、最後の長丁場へと向かう。


時刻は17時ジャスト。
いよいよ、IRONMAN Asia-Pacific Championship制覇に向けた最後の42.2kmが始まる。




レース史上 最も幸福なフルマラソン 〜RUN 42.2km〜



木々で覆われた直線、Finishエリアを並走する。

身体の調子はどうだろう。
走り始めは、、、うーん、まあまあ、かな。
けど、だいたいいつもこんな感じだし、時間もまだまだたっぷりある。
しばらく走れば身体も慣れてくるだろうから、マイペースで行くことにしよう。



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直線の途中、早くもエイドステーション。
けどさすがに、数分前に立ち寄ったばかりだからこれはスルー。
ラインナップだけチェックしておく。

お?
すごい、スイカがあるのか。
あとでもらおうw


柵で仕切られたコースはやがて右折し、バーや広場を経てその先へと続いている。
ていうか思いきり、バーの入り口の目の前を走るから、一般客の応援が凄いw

そしてやはり、BIBナンバーにプリントされた名前を見ては、これを付け加えて声援を送ってくれる。
ってか、この時間で早くも酒が回っている客が多いようで、そのテンションはとにかく高く、そして明るい。

差し出された手をタッチしつつこれに応え、先へと進んでゆく。


コースは桟橋へと続く。
おぉ、これってCairns滞在2日目にグリーン島に行くツアーで来た場所じゃないか。
多くのクルーズ船が停泊し、その乗船客の列をコントロールするボランティア。ボクら選手の走る合い間が出来るまで、人々を制御してくれている。
そしてその客たちもひっきりなしに声援を送ってくれる。

そんな中から「頑張れニッポン!」なんて声も聞こえてきた。
日本人観光客だ。
BIBナンバーに刻まれた日の丸。これを確認して、声を出してくれたのだろう。

「あーりがとぅ〜!」
なんて、久しぶりに日本語で返してみる。


その後しばらく続く、港町の桟橋。
高級ホテルと、それに付随するシャレオツなレストラン。
テラス席に座る客も、声援を送ってくれる人もいれば、レースの事など気にもせず、午後のひと時を堪能している人もいる。
それだけ今日のこの光景は、この街に根付いているのかもしれない。

もちろん、ハイテンションな声援を送ってくれる人のほうがたくさんだけどw


やや狭い桟橋、ここを往路だけでなく復路で走ってくる選手たち。
絶え間なく行き交う選手、途切れる事のない声援。

なんだこれ!
めちゃくちゃ楽しい!

これほどまでに活気に満ちていて、これほどまでに選手と観客の近いレースは、初めてだ。

1周10kmちょいを4周もするという、コンパクトなRUNコース。
それを知ったときは「飽きそうだな」なんて思ったけど、こんな感じなら、いくらでも走れそうだ。

気温もちょうどいい。
疲労感もまだまだ大丈夫。
身体の痛みも無い。
そして気分は上々。

この上なくスムーズなRUNの入りだ。
肝心のペースも、キロ6分ちょい。
ロングレースのRUN序盤にしては、自分にしては速いほうだ。
このままどこまで走り続けられるだろうか。
できれば、IRONMAN韓国の時のように最後まで走り続けたいものだ。


コースはスタート地点から東〜南方面に向かい、桟橋の道を経たあとは少しクネクネ走って、Uターン。
そしてスタート地点に戻ってからはCairns Esplanade公園に沿って北上し、Cairns国際空港の手前をUターンしてまた戻ってゆくという、比較的単純なルート。
1周はおよそ、10.5kmだ。





しかしそれにしても、これほどまでに観光地のど真ん中を堂々と柵で仕切って、こんなに最接近した観光客と触れ合いながら走れるレースは見たことがない。
この先が楽しみだ。

コースは桟橋を走り、矢印に沿って右折。
そのすぐ左脇にはエイドステーション。
周回ポイントはこの辺かな?


んでコースに沿って走っていくと、、、おぉ、あれはPullman Reef Hotel Casinoじゃないか。
交通量が少なめとは言え、こんなメジャーなホテル前さえも堂々と仕切ってRUNコースにしてしまうとは。。。
なんとも、地元密着感がある。

と、そのすぐ目の前に巨大な青い円柱が。
これをタッチしつつ、ぐるりとUターン。

そして完全に封鎖された道路のど真ん中を100mほど直進する。


電源の切られた信号の下を、またもやUターン。
そしてRUNコース最初の計測マットを通過する。

再び戻って、さっき見たエイドステーションに到達。
まだ、およそ2km地点だ。
どうやらこのへんは公園になっているようだな。
遊具の脇に設置されたエイドのテント、そこで軽く給水、そして補給食を口にしつつ、先に進む。
ちなみにここには仮設トイレもあったけど、まだ大丈夫そうだ。





公園の脇を走り、何かのモニュメントを左手にぐるりとUターン。
そしてバーベキューを堪能する集団のすぐ脇を通過し、遊具を通り抜けて桟橋に戻る。

往来する選手、その合間を縫ってカメラマンが自転車に乗って走る。
自分もうまいこと撮ってくれるといいな。


乗船客からの声援、カフェやバーの客からの応援を絶え間無く受けつつ、あっという間にスタート地点の直線に戻ってきた。
その沿道に設置されたエイドでは、これまた軽く給水して、ささっと通過する。

そのすぐ左手では、栄光のFinishを迎えた選手、そしてそれを迎える多くのギャラリー。そして何よりも、これを讃えるMCの声が、その賑やかなBGMとともに、一帯に響き渡る。

You are an IRONMAN !!

いいなぁ。
自分も数時間後には必ず、ここに辿り着くんだ。

賑やかな一帯を羨ましがりつつも、先を目指す。


直線を抜けると、そこはEXPO会場の入り口。
ちょうど繁華街のすぐ脇ということもあり、またその道を思い切り、BIKEコースとRUNコースとで仕切っているから、人々の横断の渋滞が発生している。
もちろん、彼ら彼女らからの声援も絶えることは無い。

そしてそれを通過しても、EXPOと繁華街、そしてCairns Esplanade公園が続く。


公式movieより拝借


そのRUNコースのすぐ脇に立つギャラリー。
めっちゃ近い。
EXPO会場付近こそ柵で仕切られているものの、その後はほとんどフリーw
タッチを交わしつつ、英語英語ときどき日本語の声援を受けつつ、とにかく「楽しくて仕方がないっ!」というシーンがずっと続いている。


公式movieより拝借


公園の中にテントを張って、想い想いにくつろぐ人たち。
レース参加選手仲間たち。
チームロゴのフラッグを掲げて、仲間が来るたびにハイテンションになる人たち。
コスプレして応援する集団。
タッチを交わす子どもたち。


公式movieより拝借


初日、2日目に立ち寄った店、レストラン、ショップの立ち並ぶ繁華街、この街一番の繁華街のすぐそばを延々と走るコース設定。
なんとも楽しいひととき。


コースは公園の中のサイクリングロードに続く。
さすがに、店の立ち並ぶ一帯から離れると少しずつ、そのギャラリーの数や賑やかさは薄れてきたけど、それでも声援を送ってくれる声が絶えることは無い。


公式movieより拝借


公園の道を進み、ちょろっとだけUターン、またUターンして、公園の沿道を走る。


「おぉ、おまえ速いな!元気だな!」
的な英語で話し掛けてくる選手。

「いやいや、俺まだ1周目だしw」
と返してみる。

言葉を交わせるのはまだまだ、元気な証拠だ。
って、まだ4kmくらいしか走っていないけど。





やや静かになった公園の沿道、その車道を挟んだ反対側にはホテルが立ち並ぶ。

ホテルから「You are crasy !」なんて声も飛んでくる。
えぇ、我ら選手は一人残らず全員、クレイジーだと思うよw

なにせ朝から泳いで、すんげー漕いで、その後さらにフルマラソンだからね。
その練習過程は決してラクでもないし、楽しいと感じることも少ないけど、レース本番の楽しさを一度体験してしまうともう、やめられないよね。


楽しい気持ちを抱きつつ進むそのすぐ脇をBIKEが走り去ってゆく。
その数は少なくなってきたけど、まだまだ、制限時間は大丈夫。
みんな最後まで必ず、走り切ろう!


円柱状の大きな建物のそばを走る。
まるでその形状に合わせたように、ロータリーのようにぐるりと回る道路の脇の歩道をぐいっと曲がり、そしてまた公園のサイクリングロードへと入ってゆく。


公式movieより拝借


コースの脇にはフェンスが続く。
テニスコートか何か、かな?
そしてそのすぐ先に、エイドステーション。




調子は良いほうだ。
ゆっくり走り抜けながら紙コップを掴み、軽く給水してこれを通過する。


空は少しずつ、薄暗くなってきた。
気温も少しずつ下がってきたようだけど、でもまだ、Tシャツの袖をまくったり戻したり、くらいの調節で間に合っている。

心配なのは雨だけど、今はまだ大丈夫そうだ。
公園の木々のトンネルの中を走りつつ、まずはRUNコース最北端の折り返し地点を目指す。


行き交う選手たちのペースは様々だ。
そのラップ数はリストバンドの数や色を見ると分かる。
元気よく走っているのは中〜上位の選手、そして自分のように、まだ距離を踏んで間もない選手。
徒歩が多いのは、いよいよ終盤に差し掛かった選手。
・・・といったところだろうか。
まぁ、早い話が、みんな選手それぞれのペースで走っているというわけだ。(マテ


声援も落ち着き、ごくありふれた公園のコースを走る。

そして公園の端に到達。
もちろん、道はその先も普通に続いているので、これに沿って走ってゆく。



「SPECIAL NEEDS」

看板が目に入る。
おぉ、ここにスペシャルニーズバッグ回収ポイントがあるのか。

広々とした原っぱに広がる、数々の赤いSPバッグ。
そしてその傍には、Palm Coveからバッグを運んできたトラックが待機している。

自分はSPバッグに今回も、長袖アンダーシャツとロングタイツを入れておいた。
6月、冬のオーストラリア。
日本ほどの寒さでは無いけれど、夜の寒さは長袖シャツを1枚、羽織りたいという体感温度を滞在中、感じてきた。

レース中の発汗ゆえそこまで寒さを感じることは無いかもしれないけど、9月の韓国でさえ、最終ラップではこれを活用した経験から今回も準備だけはしておくことにした。
もし使わなくても破棄されず、明日これを回収できるのはIRONMANレースのありがたいところだ。


そして、、、今はまだまだ大丈夫。
これをスルーして先に進む。

その先、ぐいっと左に曲がる道に沿ってエイドステーションが並んでいる。




歩を緩め、「エレクトロなんとか」と呼ばれる電解質系を給水。
エレクトライン?
Electrine Please !
ちょっぴり発音を意識してみるw

そしてジェルを口にしながら歩いて進む。
それからエイドの最後のほうで水をもらって、口をスッキリさせる。

っと、ここのエイドはRED BULLも振る舞っているのか。
エイドの最後に出てきたこの光景に一瞬、リズムが狂いかけたような感覚。
いや、べつにそこまで緻密な走りは全然してないけどw

少し立ち止まってこれを、せっかくだから貰おうか、でも水分はじゅうぶん補給したしなぁ、また次の周にしよう、なんて思ってたらボランティアが差し出しかけてきてくれた。

「Next lap please ! Thank you !」

次の周でもらうね!なんて伝えて、先に進む。


私設テントの下、ノリノリの音楽を流して選手を応援するオジサン。
それを耳にしながら、またぐいっと右に曲がる道に沿って、折り返し地点を目指す。
たぶん、もう少し走ったら辿り着く、、、はずだ。


道を覆っていた木々はやがて無くなり、しばらくの直線が続く。
狭いコースを往復する選手。
前の選手を抜くときは少しはみ出るか、それか対向の選手が来ない時に抜くのがセオリーだ。


大きなサーチライトを横目に、折り返し地点を目指す。
きっと暗くなったら照らし出すのだろう。それは2周目かな、それとも3周目だろうか。


悪くないペースを刻みつつ、しばらく走ると、、、

おぉ!飛行機が離陸してゆく!
目の前は国際空港。
そこからこちらに向かって真っ直ぐに飛び立つその姿。この近距離で拝める雄姿はなかなかの壮観だ。

飛行機に見とれつつも、ふと気付けばその先に構える折り返しポイント、青い円柱が目に入ってきた。

ようやく辿り着いた折り返し地点。
その「ようやく」という感触は、いつもの「やっと着いた」というよりはむしろ、「たくさんの楽しいイベントを過ごして、ふぅ、と落ち着いたときにちょうど到達した」というような感触だろうか。

体感、短くも長くも無かったけど、とにかくその行程、飽きることが無かった。
これは復路も楽しみだ。


円柱をタッチしつつ、ぐるりとこれを回って道を折り返す。





Uターンしてすぐ、計測マットを通過。

そして地面に貼られた、1kmごとの距離表示を確認する。
おや、もうこの時点で7kmになるのか。道中があまりにも楽しくてちゃんと見ていなかったけど、これはラッキー。
復路が残り3kmちょい、というのは気分的にもかなりラクだ。これはきっと終盤になればなるほど実感するのだろう。

っと、復路は少し風があるな。
往路は追い風というか無風状態、そして復路は向かい風だけど、さほど強くはないし、寒さも感じないから、ひとまずは問題なさそうだ。


やや狭い直線を、往復する選手たちが行き交う。
その仕切るラインは、小さな赤い三角コーンが点在しているだけだ。

そのラインに沿ってしばらく走る。
追い抜いてゆく選手は、だいぶペースが速い。いいなぁ、自分はいつも、RUN終盤は真っ暗だからなぁ。


しばらく走ること、間もなく。
空はやがて木々に覆われ、その下に構えるエイドステーションに戻ってくる。

そしてスイカを頬張る。
うん、味は日本と一緒だな。安心の味。
スイカがエイドで出るのは、佐渡アストロマン以来だろうか。

皮をゴミ箱に捨てて、水をもらって口と手を軽くすすぐ。
そのゴミ箱はめっちゃベタベタしてそうだ。
補給食を提供する傍(かたわ)ら、これを掃除するボランティアにお礼を言い、先に進む。


赤いSPバッグゾーンを横目に、ぐいっと右に曲がってゆく。
ちなみに赤いバッグは大会オフィシャルのものだけど、自分はあれこれ考えたすったもんだの末、衣類圧縮袋で代用することにした。
だからもしSPバッグを回収することがあったら、ボランティアもすぐに見つけられるだろう。
いや、「赤いバッグ」という固定観念がはたらいて、むしろ戸惑う、かな?w

なんて事を考えつつ、公園へと進んでゆく。
少しずつ暗くなってゆく夕方、その天候はやや、ぐずついている。
雨が降らなければいいけど。


淡々と走るうち、早くも次なるエイドに到達。
走りながら軽く水をもらって、そのまま前に進む。
あまり止まってばかりはいられないからね。

コースはやがて、繁華街に面したエリアへと進んでゆく。
そしてギャラリーも増えてゆく。


公式movieより拝借


コースを仕切る柵は、BIKEが走る側と、あとメインのEXPO付近とフィニッシュエリア、それから桟橋の乗船エリアくらいなもので、それ以外はほとんどコースを仕切るものが無い。
だから陽気なギャラリーはめいっぱい、コースにはみ出る勢いで選手たちに声援を送ってくる。
そんな彼ら彼女らもコスプレをしたり、ダンスをしたりと、いろいろな楽しみ方をしているようだ。

選手に加え、その周囲の人たちが一緒になってレースを盛り上げる。

なんて幸せなんだろう。
その声援は間違いなく励みとなりパワーとなって、この一歩一歩を力強く後押ししてくれている。


公式movieより拝借


賑やかな道を進む。
チームのフラッグが掲げられ、テントが連なる。
立ち並ぶ飲食店から絶え間無く聞こえてくる、楽しそうなガヤガヤ声。
BIBナンバーに印字された名前を呼んでくれては、それに応え、そして自然と笑みがこぼれる。

そういえば英語圏の人にとって「Ryuji」という発音は難しそうだな、と感じることが多かったけど、不思議とCairnsではみんな上手く発音してくれている。
だからなおさら、なんだか嬉しくなってしまう。



そして気付けばもう、1周10.5kmに到達。

RUNコース一番の盛り上がりを見せるEXPO周辺、そしてFinishエリアの一帯を駆け抜けてゆく。
少しずつ薄暗くなってきたこともあり、栄光のFinisherを迎える華々しいライトの数々が、眩(まばゆ)い輝きを放っている。





ラップを確認する。
ペースはキロ6:30強。
さすがに走り出しからは落ちてきたけど、普段のロングレースよりは良いペースだ。

2周回目を示すリストバンドを受け取り、これを1周目とは逆側の手首に付ける。

まだまだ元気。
まだまだ先は長いけど、この調子ならこの後も気分良く走れそうだ。




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さて、1周した手応えはどうだろう。

・スタートしてしばらくは賑やかな桟橋を走り、カジノ近くをぐるりと走って戻ってくる。
・戻れば一番の盛り上がりをみせるエリアをしばらく走る。
・その後、公園のサイクリングロードを走り続ける。その道中、公園の端まではギャラリーが断続的に散らばっていて、言葉を交わしたりタッチをしつつ、飽きずに走り続けることができる。
・そこからしばらくは静かになる。
・SPバッグゾーンを横目にして、レッドブルのあるエイドを過ぎたらしばらく直線。
・そして直線の先、折り返し地点をUターンして戻ってゆく。
・折り返し地点からスタートエリアまでは3km強。その道中、半分以上はギャラリーやボランティアと触れ合うことができる。

おぉ。なんて飽きないコースなんだ。
これは2周目以降も期待できそうだ。




公式movieより拝借


薄暗くなりつつある桟橋。
霧雨も降ってきたけど、お構いなしに盛り上がる道中は相変わらずだ。

どちらかといえば、むしろそろそろディナータイム。
1周目よりもレストランやバーの客は多いのかもしれない。
雨の影響で、オープンテラスに座る客はいなくなったけど、店の中がその灯りでよく見える。
みんな、ええもん食ってるな。

そのすぐ脇を汗水垂らした選手が絶え間無く走ってゆく。
ディナー客からしたら、なんとも珍しい光景なのかもしれない。

シャレオツな光景を横目にしつつ、コースを進んでゆく。



公式movieより拝借


桟橋を過ぎ、公園を抜けてカジノ前を走る。
真っ赤な「CASINO」のロゴが煌々と光る。
カジノ、楽しかったな。また明日行こうw

折り返し地点をぐるりと回り、柵で規制された車道を走る。
そしてまたもやぐるりと折り返し、計測ラインを越えてゆく。

ピーッ。
よしよし、ちゃんと認識しているな。

選手がある程度固まると引っ切りなしに鳴るこの電子音も、周回を重ねてゆくにつれて選手がバラけ、その間隔も長くなってゆくのだろう。


再び公園に入り、ぐいっと右折。
そしてエイドステーションで少ししっかりめに補給。
まずはコーラ、そして一緒に補給食を少し、口にする。
食べきったところでコーラをもう少し飲んで、最後に水で手と口を洗い流す。

あ、そうだアミノバイタル。
RUNパンの小さなポケットに詰め込んだ顆粒スティックを10kmおきに補給するんだった。
水でこれをぐいっと飲んで、再び走り出す。


公園の中の遊具まわりをぐいっと左折。
足元は木製で少し濡れてるから、コケないように気を付けつつ。


公式movieより拝借


そしてバーベキュー客を横目に、遊具をくぐって桟橋へと戻る。

海風は幸い緩いものの、さすがに波止場は風が他と比べて強めだ。
ライトアップされ始めた景色を眺めつつ、桟橋を直進する。


公式movieより拝借


おぉ、この船「SALE」って書いてあるな。
どんな人が買うんだろうか。

なんて思いながら船の数々を眺めながらも、バーの出入り口に戻ってきた。

Hey ! Ryuji !

相変わらずの声援、ほろ酔いも手伝ってノリノリだ。
ハイタッチをしつつ、元気をもらう。


そして木々のトンネル、メイン会場の直線を走る。
木々を電飾した光景は、少しの雨もあってキラキラと輝いている。

エイドで軽く補給をしつつ、走り抜ける。
まだまだ、走り続ける体力はありそうだ。


直線の走るそのすぐ隣では、栄光の完走を遂げた選手たちを讃えるMCが続く。
あそこに飛び込むのはまだ、あと3時間以上先になることだろう。
楽しみだ。
そのときはどんなポーズをとろうかな。
まぁそれはその時の思うがまま、気の向くままに。


EXPO前の通行規制された道を走る。

人通りの多さはここがイチバンだ。
たくさんの応援、そして日本語での声援も多く、やっぱり嬉しくなる。

繁華街と、沿道のギャラリーと、煌びやかな街の灯りと、賑やかな音楽や話し声。
ここからしばらく続くこの光景は、ここまでの200kmで蓄積された疲労を忘れさせてくれる。

お互い、笑顔が絶えない。
ときおりのタッチを交わしつつ、公園の道を進んでゆく。


だいぶ薄暗くなってきた。
ポツポツと降っては止む雨。

すぐ脇の車道を走るBIKE。
さすがに、かなり後方の選手だろうか。
けど17時間という制限時間、これを充分活用すればきっと間に合うはず。だからお互い、頑張ろう!

そのような想いを抱いたのはきっと、己を鼓舞するためでもあるのだろう。


薄暗いコース、その脇に座って写真を撮るオフィシャルカメラマンがいる。
IRONMANレースでは写真と動画を購入できるプランがあるけれど、日本の多くのそれと少し異なり、自分の写る写真は一律の金額で購入できるのが珍しい。
もちろん、元々の金額が高めなので、枚数が少なければ割高だけど、自動認識?から漏れた写真をもし自分で見つけることが出来れば、これも追加料金無しで購入ができるのだ。
実際、アイアンマン北海道ではヨメさんと撮ってもらった写真のうち1枚を追加で発見できたので、これを購入というか、ダウンロードさせてもらうことができた。

続くIRONMAN韓国でも同じプランを購入し、Finishの瞬間を含め、バッチリ撮ってもらえていた。
だから今回も、というかロングレースは結局全部買ってるけど、うまいこと撮ってもらえるといいな。



1周目の光景を思い出しつつ、今どのへんを走っているかをイメージしながら歩を進める。
薄暗くなって、また少し違った雰囲気を楽しみつつも、「あそこをこう走って、エイドがあって、、、」とかを考える。
周回を重ねていくと、「まだあんなにある、まだここにいるのか。。。」といったネガテイブな感情がやってくることも時々あるけど、今回は果たしてどうだろう。

ギャラリーとの距離が近く飽きないぶん、そういった余計な事を考える隙間が短くて済む、かな?

などと思っていると、、、ほら、もうSPバッグエリアまで来た。
一帯を照らすライトの周りに目をやる。
霧雨が降っていることを改めて実感する。

けど、まだ寒さは無い。
防寒具はいらない。
スルーして先に進む。


そのすぐ後のエイドステーション。
今度こそ、レッドブルをもらう。
1周目にやりとりをしたボランティアとの掛け合い、例えば「約束通り、次の周でもらいに来たよん」なんて会話できたらいいなぁ、とか思っていたけど、さすがに選手をいちいち覚えていられないだろう。フツーにこれをもらって飲むだけだった。
まぁ、それが普通だけどね。
お礼はちゃんと言って、折り返し地点を目指す。


木々のトンネルを抜け、直線を走る。
雨が降り続く。

離陸する飛行機の勇姿。
上空を大きく旋回しつつ、雲の中へ消えてゆく。
そしてその眼下の先には折り返し地点を示す、青い円柱。

ぐるりとこれを左に回り、来た道を引き返す。





と、それまで無風状態だったものが一転、向かい風となって立ちはだかる。
ちょっぴり寒く感じることもあるけど、風速は緩めだし、木々に覆われた公園まで戻ればたぶん、大丈夫だろう。

ここまでのペース、およそキロ7:00前後。
遅いことは遅いけど、ロングレースにしてはまぁ、悪くないペースだ。


計測ラインをまたぎ、電子音の反応を耳にしつつ、来た道を戻ってゆく。

同じ道を折り返すことで、自分の周囲に今、どれくらいの選手がいるのかがある程度わかるのだけれども、1周目のときとはその人数がやや減ってきた気がする。
今ゴールする選手は、サブ12といったあたりだろうか。

サブ12。すなわち半日以内での完走は、上を目指す選手のひとつの目標なのだろうけど、今の自分には相当高いハードルだ。
けど以前、ハワイ:KONA・・・IRONMAN World Championshipを目指すための概算タイムを計算した時に出たタイムは、トータル11時間切り。
RUNだけでも3時間40分、キロ5分10秒を出してもまだせいぜい50位という、とてつもなく高い壁。

そんな自分が今、走っているペースは、、、やはり「完走第一」に甘んじている。
もちろん、自分がやってきた事を自分で否定する必要は無いけれど、やはり机上の空論より、こうして身をもってその差を体感すると、いったいどうすればそんなレベルに辿り着けるのかが、、、全く想像できない。

この辺りを走る選手のペースはだいたい同じくらい。
むしろまだ、Half以前の段階にいる自分のほうが速いこともある。

いやはや、どうしたものか。。。

でもまぁ、それはあとで悩むことにしよう。
今やるべき事をしっかり見据えて、ペースをしっかり配分して確実な完走をまずは、目指そう。
そしてできれば、歩かずに最後までいきたい。。。



エイドに到着。
スイカを食べて、水で軽く手と口を洗って、お礼を言って先に進む。
焦らない、焦らない。
自分は、自分のペースを刻んでゆこう。


SPバッグエリアのカーブをぐいっと右に曲がり、公園の道へと進んでゆく。
木々に覆われ、薄暗さがさらに増してゆく。

ボランティアに渡されたのだろうか、光るリングを身に付けて走る選手の姿も目にするようになってきた。

少しずつ増してゆく疲労。
降っては止んでを繰り返す雨。
けど、気力はまだ大丈夫。
もう少し頑張れば、楽しい一帯に戻ることができる。


次なるエイドを通過し、円柱状のビルのふもとをぐるりと走り、、、

Good job ! Nice run !

さぁ、盛り上がってきた。
ここからしばらくは賑やかで楽しい時間が過ごせるぞ。

小雨の降る中、傘を差しつつ応援するギャラリー、傘も差さずに盛り上がっているギャラリー。
この程度の雨なら意にも介さないようだ。

公園と道路の境界線、その縁石に注意しつつ、賑やかな繁華街の直線をひた走る。


少しずつ、FinishエリアのMCや音楽が聴こえてくる。
けど、それは今までのどのレースとも違い、その音は街の賑やかな喧騒にかき消されんばかりだ。
なんとも、不思議な感覚。


街全体が盛り上がる。
EXPO会場前、柵で仕切られた道の真ん中を堂々と走る。
モーレツに盛り上がっているFinishエリアを右手に、直線を並走してゆく。


2周、20.8km。
キロ7:00弱ペースを維持。
良い感じ。

さぁ、あと半分だ。後半戦もこの調子でいこう。






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3周目を示すリストバンドを受け取り、右手首に通す。

おや。1周目のリストバンドのテントは店じまいのようだ。制限時間の兼ね合いかな?
今からフルを走るとなると、さすがにキツいか。


すっかり暗くなったCairnsの夜。
近くのバーからは、もの凄く盛り上がっている様子の会話がひっきりなしに溢れてくる。

コース沿いのバーも負けず劣らず、盛り上がっている。
走ってゆく選手を見つけては、声を掛けてゆく。

その声援はやはり、疲労の溜まってきたボクら選手にとって大きな励みになる。
前半に比べてペースはさすがに落ちてきたが、まだまだいけそうだ。



Cairnsの夜、ディナータイムを楽しむ一帯、その桟橋を走る。
雨に濡れた桟橋、そこから見える海は真っ暗だ。

やや冷たい海風も、走る体温による火照りもあって、まだなんとか大丈夫そうだ。


沿道の声援、そこにはすでに完走した選手たちの姿も少しずつ見るようになってきた。
完走後のビールはさぞかし、美味いことだろう。

レストランと、桟橋と、街灯のやや薄暗い照明を頼りに前へと進む。

おっと、足元がぬかるんでる所があるな。
直前の照明が眩しくて気付かず、コケそうになる。
気を付けねば。



公式movieより拝借


雨の降りしきる公園を走る。

道路に出て、カジノ前の車道をゆく。

不思議と、カジノ前は静かだ。
勝った負けたの喜怒哀楽は、外までは溢れてこないのかな?

代わりに、テラスの喫煙所からちょっぴりその表情をうかがい知ることができる。
いや、向こうからしてみれば自分たちのほうが遥かにタイヘンな事をしている、と見られているのかな?


折り返しの青い円柱。
ついに連続走行がここで途絶える。
カジノを眺めつつ、歩きながらUターン、車道を反対方向へと進んでゆく。


コース南東側、最も端に位置するこの一帯は繁華街からも少し外れているようで、しばし、静かな時間帯が過ぎる。

電源の切れた信号の下を走り、コースに沿ってUターン。
そして計測ラインを越える。

ピーッ。

その電子音の間隔は、周回を重ねるごとに長くなってゆく。
やはり、選手の数自体が少なくなってきているのだろう。

自分の走る周りにはある程度、選手がいたほうが寂しくなくていい。
だからこういった下位でのレース展開、その終盤は大なり小なり、寂しさがある。
けど、今回はそれを感じる時間帯が圧倒的に少なくて済んでいる。
最後まで走り続ける、というひとつの目標は潰えたけど、気力は全くもって問題ない。



エイドで少ししっかりめの補給。
そしてお礼を言って、走り出す。

公園の中、スリップに気を付けつつ、くねくねと走ってゆく。


桟橋に戻る。
やや長い直線。
行き交う選手たち。

しばし、煌びやかな世界に身を委ねる。



公式movieより拝借



無心で走ること、しばし。
ほら、もう周回エリアに戻ってきた。
そして・・・

Ryuji ! Good Job !

わはははは。
いつもこの界隈は賑やかでいい。

自然と笑顔が戻り、歩きたい衝動をねじ伏せ、一歩一歩の力へと還元されてゆく。


Finishエリアの直線、その脇のエイドを軽く利用しつつ、まっすぐに進んでゆく。

盛り上がりが凄い。
すっか暗くなって、そのライトアップもまた華やかさを際立たせている。

そしてその周り、柵で仕切られた外側からの絶え間ない声援を受けながら、これを進んでゆく。



公式movieより拝借


タッチ、タッチ、ハイタッチ。
日本人の姿も多い。
英語で声援を送ってもらったら英語で、日本語には日本語でお礼を返しつつ、自らのテンションも上げてゆく。

この時間になっても、選手に声援を送るギャラリーの姿は絶えることが無い。
繁華街の目の前という要素もあるだろうけど、応援する側も楽しそうだ。
ひょっとすると、遅くなればなるほど、こういった声援が選手にとってどれほどありがたいかを知っている、、、のかもしれない。

公園の中のサイクリングロード。
これに沿ってテントが立ち、音楽が流れ、仲間たちが談笑し、ギャラリーが選手を鼓舞する。



公式movieより拝借


Palm Coveのスタートラインを切ってから、12時間が経とうとしている。
海を泳ぎ、海岸線を走り、ひたすら距離を消化し続けること、まる半日。

普段ならとっくに走り終えている時間。
けど、それでもなお走り続けることができるのは、多くのボランティアや選手たち、そしてギャラリーに勇気づけられているからに他ならない。

その走る先に立ち並ぶ、日本人の子どもたち。
現地在住の家族たち、かな?
ちょうど、ウチの娘と同じくらいの歳頃だろうか。
日本語を交わし、その全員とタッチをする。

娘は今頃なにをしているだろうか。
時差は日本のほうが1時間遅い。
晩ご飯を食べている頃、かな?

想いを馳せつつ、コースを進んでゆく。



公園にはいくつかの施設があって、バスケのできるコートなんかもある。

コートの夜を明るく照らす照明。周囲が暗いぶん、より際立っている。
バスケに汗を流す人たち、その脇を延々と走る選手たち。
みんな、好きで汗を流している。

好きだから、やっている。
辛いこともあるけれど、やっぱり、走ることは楽しいし、レースで走れることは幸せだ。


少しずつ、膝が痛くなってきた。
26km地点。
痛みを引きずりながら走るのも辛いけど、そこはひとつの試練、ってことで。

けど、大事をとってしばらく歩くことにしよう。
もちろん、IRONMAN韓国のときのように抑え過ぎないよう気をつけねば。
あのときはセーブし過ぎて、終盤に体力を残したままの完走だった。そして「余力を残してゴールできた」というよりも、「力を出し切らずにゴールしてしまった」という、若干の不完全燃焼感を抱くこととなった。

完走は絶対だけど、やはりそれだけは避けなければ、この半年間を費やしたトレーニング期間を否定すらしかねない。



しばらく、薄暗い道が続く。
雨も降り、止んでくれたかと思ったらまた降ってくる。
木々の切れ間、雨が直接降ってくるところは走ろう。それ以外は少しの間、歩こう。
けど、立ち止まることだけは避けよう。


ふと、周りの選手の様子を見る。
みんな、キツそうな顔をしている。

けど、必ず最後までやり遂げる!という意志は伝わってくる。
もちろんそれは自分も、だ。


SPバッグエリア。
降りしきる雨の中、スポットライト的に照らされた一帯のもと、赤いバッグが整然と並んでいる。




さぁ、どうしようか。
少しずつ寒さを感じるようになってきた。
バッグには長袖アンダーシャツとロングタイツを入れてある。

少し迷ったが、まだいけそうだ。
それに、寒くても最後まで走りきることがもし出来たら、またひとつ今後のレースの判断基準ができるのではないだろうか!
という目論見もあり、これをスルーすることに決め。

でも、我慢し過ぎないようにしよう。
まだこの後の復路、そして最終周の往復でも受け取る機会はあるから。


エイドを過ぎ、生い茂る木々も無くなる。
しばし、雨天の中を直進する。


ぎゅおぉおおおん!!

ライトを灯した飛行機が正面から離陸し、高度を上げてゆく。
メチャクチャかっこいい!
モヤがかった夜空をライトが煌々と照らし、大きく旋回しながら雲の中へと消えてゆく。
その上昇する姿を見て、なんだか元気になる。

あの飛行機は果たして、どこへ飛んでゆくのだろう。
4日前、あれに乗って来て、そして明後日、あれに乗って帰国する。

巨大な地球、遠い異国までを、わずか半日で結ぶ現代の文明社会。
それと同じ時間を費やして今、オーストラリア北部の海岸線を這いつくばるように、ジリジリと走っている。

ハイテク全盛の世の中にあって、究極のローテク、自らの歩みをもって、その課せられた距離を一歩一歩、地道に進んでゆく。
しかしその歩みは力強く、信念を従えて大地を踏み進んでゆく。



道を照らすサーチライト。
その光源まわりには、ひっきりなしに降り注ぐ雨がはっきりと見える。
雨の降るその先、前方をもう少し行けば折り返し地点だ。

レースもだいぶ進行してきた。
しかし、走りが鈍くなり、また歩く。

28km。

仕方ない。折り返し地点までは歩いて、そこからまた走り出そう。


ふと、コース脇で仰向けになって倒れているアジア人の姿を目にする。
日本人か?大丈夫かな。。。

と思っていた矢先、他の外国人選手が声を掛けた。
それに対し「All right.」と返していたから、今は積極的な休息をしているのかもしれない。

その光景を見て、自らの2015年、アイアンマン北海道のときのことを思い出す。
BIKEパート160km地点で大の字に仰向けになって3分間、「戦略的休憩」なんて表現でしっかり一時停止したっけ。
けどこの選手は雨をモロに受けてるから、もう少し頑張って木々の下まで行って休めばマシだと思うけど、、、きっと、それすらも出来ないくらい、今はキツいのかもしれない。

体調が少しでも戻って、また走り出せることを願うばかり。



そこからしばらく歩き、折り返し地点をUターン。
電子音を耳にしつつ、復路に向けて走り出す。

区間ペースはおよそ・・・走ったときのペースであればキロ7:00程度だが、歩く頻度が少しずつ増えてきた。
果たしてこの後どれくらい、粘ることができるだろうか。





真っ暗な道、降り続く雨、そして向かい風。
雨足は弱いものの、じっとりと濡れた身体とランニングシャツを風が冷やす。
まだ耐えられる寒さだけど、あと14km、2時間弱の行程を考えると、果たして。

お天道様に祈って、止むようお願いする。

そしてしばらく走ると、、、祈りが通じたのか、気付けば止んでいた。
なんとまぁ、、、偶然だろうか。
とにかくの、感謝。


S字カーブに沿ったエイド。
そこでは氷水もふるまっていて、「いる?」と差し出されたけど、さすがに今は常温がいいかな。
けど、選手の中には氷水を好んで取って行く姿も見かける。
体格柄、お国柄か、体温が高めなのかな?
寒さが苦手な自分にとってはなんとも、羨ましい。

軽く補給食を口にして、再び走り出す。


薄暗い公園、木々に覆われた道を進む。
行き交う選手の数が少なく、疲労もあるためか、静かだ。

淡々と、ただ淡々と前へと進んでゆく。


ボーっと走ることしばらく。
金網フェンス近くのエイドまで戻ってきた。
これに少し立ち寄りつつも、また淡々と前へと進む。

そして、、、
また徐々に賑やかになってきた。

降っては止んでを繰り返す、ぐずついた天候のもと、雨ガッパを着てまでして声援を送ってくれるギャラリーたち。
なんとも、、、嬉しい限りだ。


公式movieより拝借


疲労が溜まり、その声援に元気あるリアクションを返すことが出来なくなってきたけど、その掛け声は間違いなく、歩くのをやめてしっかり走ろうという意思に、そして気力の維持に繋がっている。


繁華街、すぐ隣の道を進む。
みんな、出来上がってるな。
賑やかな声、笑い声が絶えない。

不思議と、「こっちはこんなに苦しんでるのに。」みたいな想いは微塵も感じることが無い。
むしろ、その賑やかさが安心感へと繋がっている。


店の客、ギャラリー、観光客。
様々な人たちが入り交じり、そして声援を送ってくれる。

体力的にはけっこうキツくなってきたけど、これさえあればまだまだ、大丈夫だ。
夜の街、イルミネーション、数々の店、色とりどりの照明に道が照らされ、これをしっかりとした足取りで進んでゆく。



メイン会場、EXPO、Finishエリア。

そのギャラリーの数はやや減ってきたけれど、まだまだここは最高に盛り上がっている。

31.8km。
ペースはキロ7:30、歩いて8:00強。

さぁ、あと1周だ。







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ひっきりなしにFinisherを迎える実況の声が流れていた前の周と比べて、ややその間隔が長くなってきた。
それだけ、全体の後方で走っているという事なのだろう。

周回、最後のリストバンドを受け取り、左手首に通す。


桟橋始まり付近のバーは相変わらず活気がある。

けど、それを過ぎるとだいぶ、静かになってきた。
船のツアーも終わりらしく、乗船客もいない。

桟橋の先、レストランの外で、レースを終えたチームの打ち上げか、それとも別の団体かが賑やかにしている。
みんな同じTシャツを着ている。
いつも単独での参加だから、終わったあとに仲間とワイワイできるのがちょっと、羨ましい。

それっぽい経験をしたのは、2005年のホノルルマラソンに参加した時くらいだ。
mixiの「単独参加者が集まるコミュニティ」に参加して現地で集合したり、たまたま前日のオアフ島1周ツアーで知り合った仲間たちと道中、そしてFinish後のリカバリーエリアで再開したときの体験。
そして何より、ツアーで利用したH.I.S.の添乗員の多くが道中のあちこちで声援を送ってくれたのは、あたかもチームで参加したかのような、自分としては貴重なひとときを過ごすことができた。

あとは、、、
2012年、五島長崎バラモンキングにヨメさんを連れて行ったのと、2015年、アイアンマン北海道に家族で行ったけど、どちらもレース参加者以外は長い待ち時間を潰せるようなイベントや観光地が乏しく、悪いことをした。
けど、ここCairnsは観光地のド真ん中だし、こんなに活気があるからきっと退屈しないだろう。
再び訪れるかどうかは分からないけど、もしその機会があれば、また家族で来たいものだ。



レストランを過ぎ、公園へと向かう。
選手とボランティア以外はほとんど、誰もいない。
その選手たちも、歩く姿を多く見るようになってきた。



公式movieより拝借


コースに沿って走る。
カジノ前を走り、ぐるりとUターン。

静かだ。
前も後ろも、その選手の姿はまばらだ。

コンクリートの上を走る足音が静かに響き渡り、自らの呼吸音をはっきりと耳にする。


車道を走り、信号機のもと、折り返し地点をUターンする。
計測の電子音が闇夜を少しばかり灯し、確かな足取りを改めて認識する。


やがてエイドに辿り着く。
すっかりリラックスモードのボランティアたち。
こちらも少し留まっての補給、そして仮設トイレに寄って用をたす。

給水の水で手を洗い、レッドブルを少しもらって、再び走り出す。


雨の桟橋、淡々と行き交う選手たち。

店の灯りが幻想的な輝きを演出し、疲労と痛みの蓄積された身体と心を癒す。



公式movieより拝借


そしてその先、、、
コースに面したバーの出入り口、すっかり酔った客によるハイテンションとハイタッチが、やはり今回の何よりの回復アイテムだ。
自然と力が湧いてきて、また一歩、力強い足取りを刻んでゆく。


色とりどりのイルミネーションに彩られた木々のトンネル、ホームストレート。
その光景に誘(いざな)われ、ただただ前を向いて走り続ける。



公式movieより拝借


左手には栄光のFinishゲート、そこに至るレッドカーペット。そしてそれを取り囲むギャラリーたち。
あと1時間もすれば、あそこに飛び込める。

そのためにも、あともうひと踏ん張り、あともうしばらくの辛抱だ。


EXPO前の仕切られた道を進み、繁華街に沿って公園のサイクリングロードを走ってゆく。

ふと、この後のことが頭をよぎる。
レース後はどうしよう、荷物を担いで帰れるだろうか。
どうせならタクシーを呼ぶか。
呼ぶならカジノからかな。
あーでも、BIKEは載せてくれるだろうか?
載らなければ明日の回収かな。
だったらバスで帰ったほうが安上がりかな。
たしか23時くらいまで走ってるはず。
汗まみれでタクシーは嫌がるかもしれないけど、バスなら少しはマシかな。
でも乗り場までちと歩くなぁ。。。

・・・などと、珍しくレース後のことをあれこれ考える。
いつもは選択肢を設ける必要性が無かったからね。
徒歩での帰り、BIKEを押しての帰り、シャトルバス、そしてBIKE乗車での自走。
レースそれぞれでシチュエーションは違うけど、たいていの選択肢は1つだけだった。

それだけこっちは、観光地ならではの恵まれた環境にある、ということなのかもしれない。

汗と雨のしたたる満身創痍。ギャラリーに励まされながら走り、歩いては走る。

ときおり月が見えるほどに雨が止んだかと思えば、すぐに雲が出てきてまた雨を降らせる。
せめて最後くらいは止んでいてほしいと思うけど、幸い、体温はまだ一定の保温を維持している。


街のメインエリアを過ぎ、すっかり静かになった公園の道を、ただただそのルートに従って走り続ける。

ベンチ、公園の照明、横断歩道。
何度も往復して覚えたその配置が、残りの距離の想像を手助けする。

けど、やはり歩く頻度が増えてくると、なかなかその距離を消化することが出来ない。
そのじれったさを感じつつも、あともう少し行って、そして戻りさえすれば3つめのIRONMANの称号が獲得できることを、次第に実感してゆく。



雨が止んだようだ。
いつまで持つか分からないけど、もしもこのまま降らずにいてくれれば、最後の復路は歩かず、全部走ることにしよう。

だからお願い、このまま止んでてね。


金網フェンス近くのエイド。
もう、固形食は必要無いだろう。
軽く給水をして、ストレッチを少しして、走り始める。


もう少し行けばSPバッグ回収エリア、そしてエイドを経れば折り返し地点だ。

そういえば、前の周で仰向けになっていたあの選手は大丈夫だろうか。
そして、SPバッグ回収はどうしようか。

雨なのか汗なのか分からないほどに濡れた身体、下がりつつある体温。
しかし、残りはせいぜい、4〜5km程度だろう。それくらいなら我慢できるのではないだろうか。
アンダーシャツならまだしも、IRONMAN韓国ではタイツを履くのに、かなりタイムロスしたからね。

そう考えつつ、迎えたSPバッグ回収エリア。これをスルーして最後まで頑張ることに。


その少し先。
銀色のラップのようなものを身体に巻いて歩く、初老の選手の姿が目に入る。
両手のそれぞれで反対側の腕を握りながら復路を戻ってゆく。
かなり寒そうだ。

他の選手も何人か、ウインドブレーカーを着たりして、それぞれの防寒対策をしている。

やはり夜そして雨。
13時間以上も走って、疲労困憊もピークを迎えている。
人のことを心配する余裕は無いけれど、制限時間まではまだまだ余裕がある。
最後まで頑張ってほしい。。。



S字の道に沿って設置された、往路最後のエイドでささっと給水。
さぁ、あともう少しだ。

公園の端、一直線の道を往来する選手たち。その数はまばらになってきた。
けど、みんな最後まで走りきるべく頑張っている。
その表情は険しいものばかりだけど、誰一人として諦めてはいない。
それぞれがそれぞれの目標に向かって、邁進する。

そんな自分の、今回の走りはどうだったろうか?

波の高めの海でのSWIM、
残ったBIKEが少なく、後方にいることを実感したそのタイムとトランジッション1、
あまりスピードに乗れなかったBIKE、
相変わらず念入りなトランジッション2、
そして23km地点まで走り続けたRUN。

選手層の厚さから見れば、下位であることはもう、仕方がない。
問題は、自分自身が納得のいく走りができたかどうか、だ。

その点では、走り続けることで生じる苦しさや痛みを自覚する今の残り体力は、そもそもの力量不足は抜きにしても、それなりに力を発揮した結果と言えるのではないだろうか。
とにかくも、終始楽しく走れたこのレース、特にRUNのロケーションほど、これほどにリラックスして走れたことに感謝の念が絶えることがない。



折り返し地点に辿り着く。

区間ペースはキロ7:30、歩くと8:30強。けど、その大部分を歩いてしまった。




幸い、雨は止み続けてくれている。
お天道様に感謝し、約束通り最後まで歩かずに走りきろう。


長かった旅路も、残すところ20分少々で終着点を迎える。
残り、3km。



若干の向かい風を受けつつ、したたる雨まじりの汗をほとばしらせながら、今できる限りのペースをもって、走り始める。
交通規制された街の外れ、飛行機の離着陸も無く、ただその選手たちの足音と息遣いだけが闇夜にこだまする。


走るのはキツいか?苦しいか?
そうか。
でも、やっぱりそれ以上に、楽しい、よな。
そうだ、やはりそうだろう。

己の限界に挑み、持ちうる実力のすべてを発揮して初めて感じる満足感、充足感。
年齢を重ねてゆくうち、短距離に力を注ぐことから次第に疎遠になる代わり、長距離でこれを求め、そして挑むようになっていった。
そのひとつの答えが、このロングトライアスロンという競技だ。

舞台は日本を飛び出し、そして今は南半球、オーストラリアで闘っている。

やはり遠い国まで来たからには、それなりの距離と、時間と、苦しみと、、、そして楽しみを得なければ来た意味がない。
だからそれをすべて叶えることができた今回のレースは、大満足だ。

そして何よりも、華やかで終始明るいギャラリーに囲まれたRUNはもう、言わずもがなだ。
それを体験できるのも、残りあとわずかの時間。

最後の声援、後押しをいっぱいに受けて、そしてゴールシーンを迎えよう。


コースはやがて繁華街へと戻り、雰囲気も次第に明るくなってゆく。


公式movieより拝借


そろそろ店じまいをするところも増えてきたようで、客たちの賑やかな声は少し、落ち着いてきたようだ。
けど、残っている客や沿道のギャラリーからは、この時間になってもまだ声援を送ってきてくれる。

Good Job !
Nice Run !
IRONMAN !!

ありがとう。
嬉しいな。


栄光のIRONMAN称号の獲得、Asia-Pacific Championshipの完走まであと、もう少し。

そのゴールシーン、今回はどんなFinishを迎えようか。
いつか見たKONA World Championshipの動画のように、腕をYの字に広げて、そこからさらに天を仰いで雄叫びを上げるシーン。
格好良かったな。あれの真似をしようかな。
でもそういうのは屈強な欧米人だからこそ、格好良く見えるのかもしれないな。

雄叫びは I did it ! かな?
ん?それとも I made it ! かな?
よく分からんな。
その時のノリと勢いとテンションに任せてしまおう。

そして何よりも最優先したいのは、やっぱり単独でのFinish撮影をしてもらうこと。
うまく撮ってもらうには、前後の選手間の調整をしないとな。

幸いこの時間、マトモに走っている選手はほとんどいない。
自分は最後まで走り続けると決めたから、追い抜いたら後ろのスペースを空けるべくペースを維持し続けて。
もし前に選手がいたらペースを落とすか、それか抜いてしまおう。

Finishゲートの電光掲示板には、フルネームと総合記録と国旗に加え、種目別タイムも表示されるようだ。
けど選手同士の距離が近いと、1人1行で名前だけしか表示されないっぽい。
もちろんそれだけでも過去、どのレースにもなかった格別の演出だけど、どうせなら自分1人でフルに表示されたほうが、なんか格好いい。



沿道からの声援は尽きることが無い。
タッチとお礼、そして笑顔をふりまきながら、歩きたい衝動をこらえ、最後の踏ん張りをみせる。


公式movieより拝借


あと1km。

長かった。
長かったけど、楽しい一日だった。

ロングレースのRUNを最後まで歩かずにいくという目標は叶わなかったけど、エイドを含めた完全停止はだいぶ少ない実感がある。
だから今の自分にしては、よく頑張った。


前に選手の姿が見える。
もう1周残っているのか、それともこれが自分と同じ最終周なのかが分からなかったので、頑張ってこれを抜く。


ギャラリーの後押しを受けつつも、最後のペースアップを課し、これを維持する。
そしてそのスピードのままに最後のカーブを曲がる。




いよいよ最後の瞬間が訪れる。

直線して周回コースに進んでいた道、その分岐点。
案内板に沿ってこれを右折する。

巨大なモニター。
正面のテレビカメラ。

そしてこれを左折し、最後の直線、ウイニングラン、栄光のレッドカーペットを進んでゆく。


左右のギャラリーがタッチを求める。
笑顔でこれに応えつつ、ゆっくり、ゆっくり噛みしめるように走る。








正面のFinishゲートを見つめる。

名前と、種目別タイム。
そして一番大きく、総合記録がリアルタイムに表示されている。

最後まで走りきった、ご褒美。






光と音楽に囲まれた、この世の楽園。

その世界に身を預けるように手を広げ、天を仰ぎ、そして至福のときを迎える。。。









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終わった。。。


Finishゲートをくぐり、感謝の念を抱くとともに、自然と頭を下げる。
…礼に始まり、礼に終わる。

ボランティアにメダルを掛けてもらい、バスタオルを羽織らせてもらう。
そして案内されるがまま、大きなテントのほうへと進んでゆく。

おぉ、ここはウェルカムパーティ会場と同じ場所だったんだな。





テントに入り、フィニッシャーTシャツを受け取る。
給水コップを手にして、席に座る。

辺り一帯には、無事完走を果たした選手たちの、安堵や笑顔の表情が広がっていた。

終わった。。。やっと終わった。。。



抱えた荷物を席に置く。
そして補給食を少し皿によそって、口にしつつも早々に、Streetギアバッグを回収しに行く。

そのお目当ては、ヨメさんと娘への完走報告をすることだ。
こちらは22時過ぎだけど、日本時間はまだ21時過ぎだから、娘もまだ起きているだろう。




回収したバッグの中をゴソゴソと探り、iPhoneを取り出す。
そしてFaceTimeを掛ける。

少しして無事、繋がった。
「ほら、電話来たよ」という話し声が漏れて来て、そして2人から祝福の言葉を掛けてもらう。

電波状態が悪いのかWi-Fiが弱いのか、あまりスムーズには話せなかったけど、完走メダルを見せて、そして娘からは「おめでとう」と書いたお絵描きボードを見せてもらって、少し会話をして。




そして「ゆっくり楽しんで、ゆっくり休んでね」と声を掛けてもらい、回線を切る。


疲れた。。。
けど、不思議とまだ身体は動かせそうだ。
補給食を食べつつ、会場の雰囲気を撮ったり眺めたりしつつ、この場を楽しむ。



少し休んだのち、Finishエリアのギャラリーゾーンに行ってみる。

雨がまた降ってきた。
折り畳み傘を差しつつ、Finishを迎える選手を祝福する。

さすがにその人数は少なくなってきたようだ。
けど、まだ次の周に進む選手の姿もある。
だいぶ遅い時間になってきたけど、制限時間はまだまだある。
それぞれがそれぞれの目標向かって、それぞれのペースで走っていけばきっと完走できるはず。
だから最後まで頑張れっ・・・!




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ひと通り眺めたり写真を撮ったりした後、テントに戻り、青いBIKEギアバッグを回収。
そういえば赤いRUNギアバッグは?と思ってボランティアに尋ねたところ、どうやら別の場所で返却しているらしい。


荷物をまとめ、テントを出る。
と、その出口付近に写真撮影のお立ち台があった。
選手たちが次々にポーズをとってはオフィシャルカメラマンに撮ってもらっていたので、自分も撮影してもらうべく、いったん荷物を降ろす。
そしてフィニッシャータオルを背に、パシャり。





お礼を言って、次の選手に代わる。


その隣にあるのは、、、マッサージテントか。
たしか有料の事前予約制だったかな?
残念ながらこれは予約していないので、パス。


そして出口を守るボランティアにお礼を言って、外に出る。

降りしきる雨の中、赤いRUNギアバッグを回収しに向かう。
場所はイマイチはっきりしないけど、他の選手の移動方向と手荷物を観察しつつ、歩いてみると、、、

おぉ、ここか。

その出入り口は、BIKE預託をしたときと同じ場所にあった。
警備担当のボランティアに挨拶をしつつ、案内されるままに、その先のテントに向かう。
そして辿り着いたのは、T2のテントそのものだった。

おや?
どうやらBIKEもテントを奥に進んだすぐそこにあるらしい。
少し迷ったけど、これを回収することに。


シーンと静まり返った暗闇、整然と並ぶBIKEたち。
そのラックからBIBナンバー:840のレーンを探す。




そして間もなく発見。
雨に濡れ、雫がしたたり落ちる中、相棒はひっそりと主人の帰りを待っていた。


待たせたね。






抱えた荷物のひとつをDHバーの上に載せ、出口に向かって押し歩く。
おぉ、意外とバランスよく歩けるな。

返却会場を出る。
その出入り口の警備ボランティアは、BIKEのBIBナンバーと自分のBIBゼッケンの照合こそ念入りだったけど、それ以外はわりとザルだったw


さぁて、とうやって帰ろうか。
いったん荷物を降ろして、両肩からたすき掛けにギアバッグを掛けて、もう一つをDHバーの上に乗せて。
そしてゆっくり行けば、走れないこともなさそうだ。
ちょっと乗ってみるか。

お。意外といけるなこれ。
雨でスリップしないよう気をつけつつ、ゆっくり、ゆっくり。



Finish会場の賑わい、そのそばを通ってホテルへと戻る。
RUNコースに沿って進めばよさそうだ。


メインエリアの賑わいも、道が進むにつれて次第に遠ざかってゆく。

繁華街もすっかり閉店のようだ。
静まり返った街を、BIKEを漕ぐ車輪の音、したたる雨の音、そしてときおり走ってゆく選手の足音が静かに響き渡る。

まだまだ、走り続ける選手がいる。


Good job ! Nice run !

自然と声が出る。

暗く、寒くて、孤独な走り。
そんな状況下、沿道からの声援はとにかくありがたかった。
だから、その選手一人一人に向けた言葉は、本当に素の状態から出てきた、自分の心からの声だった。

Good job ! Nice run ! Keep going !


文法が合っているかどうかなんて、分かりっこない。
けど、Thank You ! とか、ありがとうー、といった反応を見るほどに、最後まで頑張れ!と、愛(いと)おしく思えてきてしまうのは、やはり同じ道を、距離を、種目を、時間を過ごした仲間意識から生まれる、自然な想いなのだろう。

もちろん、満身創痍で、掛けた声に反応できない選手もいる。けどその心中がどうなのかを、他ならぬ自分がよく分かっている。

死力を尽くした己との闘い。
最後まで精一杯、力を発揮して、栄光のFinishを迎えてほしいっ・・・!



ホテルへと戻る道はやがて、コースから離れてゆく。
住宅街を抜け、そして見慣れた幹線道路に出る。

横断歩道を渡り、ホテルに到着する。
Palm Coveでの一泊をはさんで、久しぶりの帰還。

無事に、帰ってきた。


部屋に入る。
荷物をばら撒く。
その中から洗濯物を分類して、シャワーを浴びつつ、これを軽く洗濯する。

ときどき疲労で動きが鈍くなりながらも、なんとか身体と洗濯物を洗い終える。

ハンガーに干し、そのほかの荷物を軽く整理して、、、ベッドに倒れ込む。


長い一日、なんとも幸せな一日を、、、こうして幸せいっぱいに過ごすことができた。





















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