>> 2012五島長崎国際トライアスロン大会 <<


2012年6月17日。
生涯、忘れ得ない一日が始まる。


午前3時15分、起床。

窓を開け、まだ真っ暗な外の天気を確認する。
どうやら、今は雨が降っていないようだ。

カフェテリアに行き、朝食をとる。
すでに他の部屋に宿泊の選手たちも食べ始めている。みんな早いなぁ。



朝食はおにぎり3個とバナナ。
宿のお母さんと、その旦那さんで昨晩から仕込んでくれた朝食だ。二人ともきっと、徹夜かそれに近い準備をしてくれたのだろう。
それにメニューについても、仮に生野菜や卵や地元の牛乳を出して万一お腹を壊すようなことがあってはすべてがパーになるから、と、内容にもいろいろ気を遣っていただいたようだ。

やや急ぎながら全部をたいらげる。
そして部屋に戻ってトイレへ。
「がっつり食べてしっかり出す」いつものルーチンワークは今日も健在だ。

補給食のジェル7個をボトルに入れ、水で薄める。
もう一本のボトルには水を入れて準備完了。

荷物の最終チェックをして、いざ、戦地へと向かう。


スタート地点である「富江港」へはシャトルバスで移動する。その集合場所は、昨日下見したトランジッションエリアだ。
集合時間は4時45分。

集合場所に向かう途中、数台のバスがすでに出発していった。どうやら何台もスタンバっていて、満員になり次第発車しているようだ。

選手が列を作り、バスに乗る。



そしてカノジョさんも…本来このバスには選手しか乗れず、同行者は応援用バスに乗らなくてはならないんだけど、その出発は6時。
せっかくここまで一緒に来て今から1時間待つのもアレだし、何よりもスタート前の慌ただしい雰囲気やその規模に圧倒されるのもレースを楽しむ醍醐味のひとつでもあるから、出来れば一緒に行きたい。
だからとりあえず一緒に集合場所まで来た。

レース前の最後の懸念点が、そのカノジョさんの移動手段にあったが、どうやらそれを察したのか、周囲の選手からも「いいよいいよ、乗っちゃえ乗っちゃえ。」と言葉を掛けていただき、無事一緒に行けることになった。
まず最初の安堵。



満員のバスに揺られること30分。
空が少しずつ明るくなっていき、レースの幕開けが刻一刻と近づいてくることを否が応でも実感する。

心配の天候は、まだ持ってくれている。それどころか朝日さえも顔を見せてくれている。
前夜、初めててるてる坊主を作り、いつものように「大丈夫。必ず晴れる」と信じて当日を待ったが、まさか本当に実現しようとは…。
お天道さまに、ただひたすらに感謝。
このまま晴れてくれますように。



13年掛けて辿り着いたスタートライン



バスを降りると、すでに慌ただしさで溢れるスタート会場の光景が広がっていた。




計測用アンクルバンドを受け取り、左足首に取り付ける。
これがタイム計測のすべてだから、取り付けはしっかりとね。




続いてレースナンバーを両腕にマーキング。
また今回は年代別カテゴリー「M35」=「男性・35〜39歳」を右足太ももにもマーキング。



両腕、右足を3人がかりで同時にマジックインキで書かれる姿はまさしく、「されるがまま」w



↑「されるがまま」を撮影した動画です。
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しかも地元のTVに一瞬映ってたしw


ぴょこぴょこぴょこ。







スタートゲート。

すべてはここから始まる。

波は…穏やかだ。
風も吹いていない。


すでに地元TV局の中継そして会場のMCは始まっている。




多くの選手が行き交い、それぞれがそれぞれの想いを旨に、着々と闘いの準備が進行する。


自転車トランジッションエリアに移動。




よかった、前日預けた自転車は無事に置いてある。



自分の手を離れて、機材をセッティングしてもらうのは今回が初めての経験で不安だったが、どうやら取り越し苦労のようだ。
それに、昨日発覚したスローパンクも今のところ問題ないようだ。願わくば最後までメカトラブルには遭遇しませんように。。。

そういえばDHバーのパッドが濡れている。どうやら昨晩の雨に晒されたらしい。
となればチェーン油。
って、あろうことかこれを宿に置いてきてしまった…。ただ、宿で自転車を組み立てた際に多めに塗布したので落ちきってはいなかった。もともと昨晩は小雨だったから、これくらいならきっと大丈夫だろう。

補給食、ボトル、ヘルメットをセットする。
ありゃ、ジェルを入れたボトルが少しベタついているな。どうもしっかりクチが閉まっていないまま、バッグの中で斜めになってしまったようだ。
もう一本の水だけのボトルで軽く洗い流す。



ギアの噛み合わせをチェックする。


↑BIKEチェックの様子を撮影した動画です。
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…準備に余念は無い。だが、いくら入念に準備しても、しかも宮古島でこれを経験済みとは言え、周りの機材を見てはひたすら不安になる。




だって、SWIMアップ後の着替えバッグにヘルメットを入れるルールなんて、無かったハズじゃん?なんでみんな入れてんのさ?

機材は揃っている。シミュレーションもカンペキだ。だが不安は決して払拭されない。
でも、ここでじたばたしても仕方ない。




再度中身を確認したあと、着替えバッグ設置エリアにこれを取り付ける。
ヘルメットは…入れない。ヘルメットは自転車に掛ける。

ちなみにこの着替えバッグ、宮古島大会とは違って、今回は1人1人ずつバッグを引っ掛ける部分が仕切られている。
宮古島のときは仕切りが無かったから風で位置がずれてしまい、一箇所に固まったバッグの中から自分のものを探し出すのに少し苦労した。
だから、目印にハイビスカスの花をバッグに付けている選手もいたくらいだ。
だが、今回はその心配は無い。




SWIMから上がって、こう走ってきて、この位置で回収する。
そんなシミュレーションをしては、やっぱり不安になる。

…不安になるとお腹をもよおしてくる。




スタートエリアの仮設トイレに並ぶ。
この行列も、準備運動のための大切な待ち時間。
が、トイレの数が多いからか意外と回転が早い。

トイレに入り、もう一度出す。
出しながら再度のシミュレーション。

大丈夫。大丈夫。
少しくらいは自分を信じていいんだ。


スタートの時間は刻一刻と近づいてくる。
そろそろウエットスーツを着よう。



自転車の近くでウォーミングアップジェルを塗って軽くマッサージをして、これに着替える。
そういえば日焼け止めを持ってきていなかったな。寒さ対策はしてきたけどまさか日焼け止めに思考がまわることになろうとは。
でも天候は曇り予報だし、どちらにしても普段もほとんど使わないから無くてもいいけど。(ぇ

ウイダーインゼリーを少し飲んでは、お腹の微調整。
それと…念のための葛根湯。
そう、今回も宮古島の時と同様、あろうことか風邪気味だったのだ。(汗
ただ今回は症状が軽く、五島入りの日から飲み続けていたおかげで今はほとんど大丈夫。

近くの選手が慌ただしい。
…パンクか。焦るよねぇ…。
でもまだ時間はある。それにどうやらもう、修理は終盤のようだ。
大丈夫。大丈夫。




着替えを完了し、必要な荷物:スイムキャップとゴーグルを片手に持ち、反対側の手にはボランティアに預けるバッグを持つ。
この中には着替えの済んだ荷物や、不要な機材…万一を考えた自転車修理機材諸々が入っている。
一度預けたら最後、あとはもう、ゴールまで再び受け取る事はできない。

必要なものまで預け過ぎていないか、と、最後の再確認。
そして意を決して預託。





スペシャルニーズバッグ預託ブース。



BIKEおよびRUNの途中周回にて、これを受け取れるシステム。
普通は食べ物を預けて、そこまでの行程の重量を稼ぐのだろうけど自分はどうも頭がそこまで回らない。
なので、今回はBIKEでは前日買った雨ガッパを入れ、RUNでは寒さ対策にヒートテックを入れてこれを預託することにした。
仮に回収しなかった場合は破棄されてしまうのだが、雨ガッパは300円だし、ヒートテックは受け取った後、その場に落としてカノジョさんに拾っておいてもらえばいい。
RUNは3周回するコースの、ゴール地点に近い場所でこのバッグを受け取れるからだ。

預託についてはぎりぎりまで迷ったが、使わないならば使わなければ済むこと。
BIKE用・RUN用をそれぞれボランティアに預け、これですべての準備は整った。




スタートゲート。

一度入ったらもう、戻れない。



カノジョさんとレース前の最後の言葉を交わす。

ゲートに「よろしくお願いします」の儀式をする。



目の前に広がる、スタートエリアの光景。
数百人のトライアスリートが一同に集う光景。


13年間、望み続けてきた光景!


気温23度、水温22度、湿度90%。
天候、曇り時々晴れ。


すべての舞台がここに整った!




スタートエリアに入る。



すでに多くの選手がウォーミングアップをしている。
水は佐渡・宮古島に比べると、思ったほど綺麗ではなかったけど、水温は冷たくも暖か過ぎでもなく、ちょうど良い。



ふと、空を見上げる。
太陽が顔を覗かせている。

「スタート時に太陽か見られるのは五島トライアスロン史上初めてかもしれない」という実況の言葉が、この奇跡たる天気を改めて物語っている。
てるてる坊主とカミサマに感謝し、不安を払拭し、完走への想いをさらに強くする。


競技開始まで、もう間もなく。





今回のレースはフローティングスタート。
文字通り、脚が地面に着かない位置、水面に浮いた状態のまま数分間待機する必要がある。
海水そしてウエットスーツの浮力のおかげで浮くこと自体はさほど苦ではないが、地上ほどの自由は効かないから苦手だ。

すでにやる気マンマンな選手は先頭にポジション取りをしている。
けど自分は、水中でのバトルを避け、安定して泳ぐために&フローティング時間を最小限にとどめるために、遅めにスタートラインに並ぶ作戦。
スタート位置は前方約50mの地点。3分前くらいから水に入り、ゆっくり泳いで並べば充分だ。

集団真ん中の、やや外側にポジション取りをする。





スタート1分前。

盛り立てる実況。
それに呼応して雄たけびを上げる選手たち。
自分もこれに加わり、テンションを上げる。

鳥肌が立つ。
緊張は無い。今回も場の雰囲気に飲まれ、全く緊張していない。

リラックス。


一瞬の静寂。

固唾(かたず)を呑む選手たち。




プアァァ〜〜〜ン!




全選手がいっせいに水しぶきを上げる!

15時間にわたる激闘が、長い長い一日が今、始まった!



↑スタートの様子を撮影した動画です。
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穏やかな海 〜SWIM 3.8km〜



朝日が選手を優しく照らし、穏やかな波が選手を迎え入れる。

その水中では、すでにバトルが始まっている。



海水の透明度が低いからか、視界が悪く、最初から腕が身体がバシバシぶつかる。
自分はそれに巻き込まれないよう、ポジション取りを都度変えながら前に進む。

最初のうちは周りの選手に翻弄され、ペースがなかなか掴めなかったが、しばらくすれば集団もバラけるだろう。そうしたら安定して泳げるはず。

自分のペースの遅さがやや気になったが、まだまだ始まったばかり。
大丈夫。落ち着いていこう。




コースは「往路1,100m、復路800mを2周回」という設定。



1周して陸に一度あがるのは安全面の考慮もあるのだろうけど、個人的には延々泳ぎ続けるよりもこちらのほうがありがたい。
それに折り返し地点とスタート地点とで計4回、目標ポイントが設定できるからペース配分もしやすい。

まずは、この省エネペースで折り返し地点まで行ったときにどれ位のタイムになるかだ。


視界の効かない海の場合、前の選手に着いて行くのがセオリー。
方向感覚が掴みやすいのはもちろん、水流が生まれてラクという理由もる。ただ、選手同士の位置関係はクロールの腕ひと掻きごとに変わり、油断しているとすぐにぶつかったり、蹴られたりするから安心はしていられない。
特に、ゴーグルに手が掛かってズレると視界が完全にアウトになるうえに海水で目がしみるので最大限、気を付けなければならない。

それでもぶつかる事はあり、分かっていてもその瞬間はパニクってしまう。
そんな時は落ち着いて立ち泳ぎして、これを直すことで軌道修正を図る。
とは言え、その修正のために立ち泳ぎをし続けるのは意外とキツい。もともとこれが下手だから、水面に上半身を出そうと一生懸命バタバタと足を掻くので、あまり長いことやっていると余計に体力を消耗してしまう。

またゴーグルをやられないよう、注意して泳がねば。。。


目印のブイが視界に入り、迫り、横に流し見し、後方に消えていく。
視界から消えたらヘッドアップして次のブイの位置を確認し、その方角に向かって泳いでいく。

かつて鎌倉にて、波の高い日の遠泳大会に参加したことがあった。
5kmを2時間40分掛けて泳いだのだが、とにかく波に翻弄されて、その感覚はいくら腕を掻いても全く進まないような、ブイが近付いてこないようなもどかしさがあった。
だが今日は、掻けば掻くだけブイが近付いて、そして過ぎ去っていく。
いいペースだ。

ウエットスーツは…ここ数ヶ月でやや太ったのか少しキツかったが、基本、省エネ泳法なので深い呼吸をする必要は無い。だからさほど苦しくは無かった。



そして見えてきた、ひときわ大きなブイ。1周目の折り返し地点だ。

目標が見定まると自然と元気になる。



ブイを右手にぐるりと方向転換。

腕時計を確認する。
タイムは…23分。
20分くらいであればベストだけど、まだまだ許容範囲。それに体力も全くの余裕。むしろ、これまでのゆっくりペースでこれだけのタイムであれば大丈夫だ。



↑SWIMの様子を撮影した動画です。
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復路になって選手たちも少しバラけてきたようで、ようやく自分のペースで泳げるようになってきた。



ただそのぶん目安になる選手が周りにいなくて、少しヘッドアップせずに泳いでいたらすぐにヘンな方向に進んでしまっている。
どうやら左方向に向かっていくクセがあるようだ。
息継ぎが右側だから、左右の筋肉の付き方がアンバランスになる。まっすぐ泳げないのはそのせいだろう。
練習では左側および交互での息継ぎをするトレーニングも時々するものの、やはり長年染み付いたクセはそう都合良く直りはしない。

5回目の息継ぎのときに、ヘッドアップ。
軌道修正。

それであれば4回目の息継ぎのときに、ヘッドアップ。
またまた軌道修正。

だったら3回目の息継ぎのときに、
って、あんまりヘッドアップし過ぎると今度はスピードも落ちるし、何気に体力も使ってしまう。
だからある程度選手が固まっているところに行き、多少身体がぶつかるのを覚悟してでも前に進んだほうが良さそうだ。

良いペースメーカーがいたら、これに着いて行く。
はたまた、その選手を息継ぎのたびに横目に見て進行方向をキープする。
その選手も軌道修正が下手だったり、遅かったりしたら、また別の選手を目印にすればいい。

でも他の選手も考えは同じようで、自分が目印にされて横に泳がれ、目印にする選手と目印にされる選手に挟まれて、加えてキックの水泡で視界が遮られることもある。
だからそのたびにポジション変更をするから、SWIMは3種目中もっとも落ち着かない種目かもしれない。



スタート地点が見えてきた。
目標地点が見定まると、他の選手も考えが同じなのか、最短距離を泳ごうと皆が同じコース取りをする。
それまで比較的バラけていたハズなのに、いきなりバトル再開。

足が地面に着く。

上半身を上げて、歩いて海から出る。


これで1周だ。
一度上陸して折り返しのコーンをまわる。




目標:35分に対しタイムは40分。
けど、そもそもの目標を少しキツめに設定していたから、悪くないペースだ。

カノジョさんを探す。
…いた!
手を振って声を掛ける。



けど気付かない。一生懸命iPhoneをいじっている。おそらくリアルタイム速報を見てくれているのだろう。
何よりも、全員が全員同じキャップを着けて、似たようなウェットスーツを着ているのだから見つけられなくて当然か。

とりあえず2周目が終わった時に気付いてもらえればいい。


給水ブースで水を軽く口にし、2周目へと向かう。

そう言えば青いキャップの「Bタイプ」の選手たちがスタンバっているな。
果たして追い付かれたりするだろうか。

追い付かれたら、またバトル必至だな。(汗




↑SWIM周回の様子を撮影した動画です。
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2周目の海。

「うわ、また同じ距離を泳ぐのか」になるか「大丈夫、大丈夫」になるのか、という思いがあったが、どうやら後者のほうだった。落ち着いて泳げているからこその心境なのだろう。

1周目は岸から50mほど沖に進んだ場所からのフローティングスタート。だから2周目はそのぶん多く泳ぐ必要がある。特に海では意外と長く感じるものだけど、とは言えせいぜい1分程度の差だから大したことは無い。

それにしても今回はずいぶんと前向きだ。五島入り初日の不安な気持ちとは正反対だ。
それだけ、天候に対する気持ちの持ちようが違うのだろう。

正直、最初のうちは五分五分だった。
気持ちでは最初から完全に負けていて、雨だったらBIKE途中で寒くなって棄権するのかなぁとか、そんな想いでいたから今日の天気にはいくら感謝してもしきれないほどだ。

距離は順調に消化している。
ただ、2周目も往路中盤になって、波がやや高くなってきたか。
それに右肩が擦れてきた。やはりワセリンは塗っておきたかったなぁ。
それからヒジも少し痛くなってきた。
でも、それももう少しの辛抱。痛さもまだまだ許容範囲。
100mを50本泳ぐ練習会、それを2回クリアした「実績」という自信。


そして辿り着いた中間地点。

タイムは25分。
1周目が23分なので若干遅いが、フローティングスタートまでの移動距離を考えれば、トータルは同じようなものだろう。
それより、通常2周目のほうが遅いのが普通だ。だからむしろペースが落ちていない事のほうが驚きだ。

こうなったら少しペースを上げるか?目標タイムよりは遅いわけだし。
いやいや、このままで大丈夫。
このままでいこう。


2周目も後半になって、何となく周りの選手が少ない気もしてきた。
やはりペースが遅いんだろうか。
ちょっぴり不安になる。
平泳ぎをして後方を確認する。
…よく分からない。

比較対象が無いときは、自分の目標タイムと照らし合わせればいい。
最終目的がブレない限り、どんなに周りが速くても、周りの選手の数が少なくても何ら問題は無いはずだ。

気付けば波もおさまり、ヒジの痛みも消えていた。
周りの選手の数も少ないから、ペースメーカーは作れないけどそのぶん自分の泳ぎに集中できる。
ただ、相変わらずまっすぐ泳げない。
ヘッドアップしては軌道修正。


最後のブイが見えてきた。
これを越えれば、あとはゴールまっしぐら。



ラストスパート。
って、どの選手も同じような考えなのか、それまでバラバラな位置にいた選手がいっせいに集まってバトル再び。
よかった。みんなまだまだいるじゃん。

そして辿り着いたスタートゲート。

戻ってきた。
目標:80分に対し、86分。
上出来だ。



カノジョさんを探す。
いた!
手を振ってみる。今度は気付いてくれるかな…?

気付いた!
言葉を交わしながら、一緒になってトランジッションエリアへとなだれ込んでゆく。





第1トランジッション:SWIM→BIKE



シャワーを浴びて塩分をしっかり落とす。
ウエットスーツも軽く手洗いして、塩分を落とす。



ホントはそんな余裕は無いはずなんだけど、これも今後のレースの事を考えて、劣化を抑えるため。
それにSWIM後の若干の休憩にもなるし。




着替えバッグ回収エリア。
ナンバーを確認してこれを回収し、着替え用テントに入る。

ほら、べつにヘルメットなんか関係ないじゃん。全員が全員ヘルメット被ってるわけじゃないし、大丈夫って言ったでしょ?

気持ちが落ち着いたところで、やや急ぎ足で着替える。
身体に付いた水滴を手で払い、アンダーシャツを着て、ジャージを着る。
水分を拭くためのタオル、あったら良かったなぁなどと思いつつも、残りの大抵は服で吸収されていたので大丈夫。

それと、レース前日に貼っていたファイテンシールはおおむね無事。ただ足の裏に貼ったぶんは剥がれてしまった。SWIM中はさほどその恩恵が無いので、これはトランジッションのときに貼ればよかったかもしれないな。

鼻の水分をよく拭き取ってブリーズライトを付ける。これが有ると無いとでは鼻の通気性がかなり違う。ただ汗で剥がれがちなので、今回はウエストポーチにも数枚入れてある。

レッグウォーマーは…さて、どうしたものか。一瞬迷ったが、まだ天候は雨気配無し。
それであれば、ジャージの背中ポケットに入れていくか。
またまた一瞬迷ったが、きっと大丈夫。今回は使わずに行こう。
もとのバッグに戻す。

グローブとアームウォーマー。これは自転車に乗りながら装着しよう。時間短縮できるところは積極的にそのアイディアを採用する。

靴下を履き、シューズを履く。

用意が出来たところで…おっと行く前にトイレ。
ここでの数分が、後になってのより長いトイレタイムの短縮になる。宮古島大会での経験だ。
ただ、今回は宮古島よりも25kmも長く、おまけにアップダウンが多いので恐らく最後までは持たないだろう。
どこでトイレに行くか。
そのタイミングも今回は初めての挑戦になる。

いったんバッグを置いて小トイレに行って用を足し、再びテントに戻ってバッグを持ってテントを出る。

出口すぐ、左手にカノジョさん発見。そして右手にはバッグ回収のボランティアがスタンバっている。
ジャージよし、シューズよし、グローブよし。ヘルメットとサングラス、それからウエストポーチは自転車に取り付けてある。



ボランティアにバッグを預ける。


続いて右手にエイドステーション。

バナナにオレンジに梅干しにクッキーに水にスポーツドリンクに。あまり選択肢が多いと頭が回らないな。(汗
「えぇと…どれにしようかな。」と思わず喋りながら、バナナを頬張り、水を口にする。




自転車エリア。

おっ、まだ結構な台数が残っている。



この台数如何で全体のうち、おおよその順位が分かるのだが、精神的にも多いと安心するし、少ないとやや不安になりがち。
だから、自分のペースを守りつつのこの状況ならばまだまだ大丈夫だろう。
「まだ結構残ってるね!」
カノジョさんと言葉を交わしつつ、ヘルメットとサングラスを装着し、ウエストポーチを腰に巻く。

タイヤのパンクが無いことを確認し、スピードメーターのスイッチを入れ、いざスタート地点…はどっちだ?

「あっち、あっち!」
カノジョさんにフォローしてもらい、自転車を押してスタートラインに走る。

「それじゃ行ってくるね!」
「行ってらっしゃ〜い!」



自転車乗車ラインを越えて颯爽と飛び乗り、いよいよ今回最大の試練:180kmの行程…およそ7時間もの長丁場へと向かってゆく。




↑BIKEスタートの様子を撮影した動画です。
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絶え間無いアップダウン 〜BIKE 180.2km〜



試練のBIKEが始まる。

島の南端、ほぼ真ん中に位置する半島で繰り広げられたSWIM会場「富江港」を後にし、朝の港町を疾走する。
街はやや寂しげなたたずまいだったけど、早くもスタート直後から地元の住民たちの…ほとんど全員なのでは?と思うくらいの、絶え間ない住民たちの応援が続く。







走り出してすぐ、コース唯一の「追い越し禁止」対面道路を疾走する。
前方からは早くも先頭グループの選手が接近し、そしてすれ違ってゆく。
とは言えこのエリアはせいぜい15km程度の地点。だから半島:最南端のエリアを時計回りに30〜40分くらい走れば自分もここに戻って来られる。

走りながらグローブとアームウォーマーを装着する。
若干…肌寒いか…?
レッグウォーマー未装着を少しばかり後悔したが、でもいつも最初はこんなもんだし、SWIMアップ後で身体が濡れてるから体感温度を低く感じているだけだし、たぶんこの後気温も上がるだろうからきっと大丈夫だろう。
それよりも最大のネックだった雨は皆無だ。心配のパンクや落車はもちろん、路面も濡れていないから下り坂やカーブの減速も必要最小限で済み、おかげで平均速度が稼げる。


180.2kmという距離自体は練習で何度も走ったことがあるから大丈夫だが、懸念点はこれほどの長さを途中休憩無しでの走行経験は無いこと、そしてこれがトライアスロンだということだ。
そう、走り終わってもまだそれからフルマラソンが控えているのだ。

今年に入って、180.2kmに匹敵する距離を何度か走った。その多くで比較的キツい山岳コースも組み込んでいたとは言え、その直後の数キロのランニングが、数キロどころか数100mすら走るのがキツかったという不安要素があり、そしてこれを払拭しきれずにいた。

それに今回の目標平均速度:25.0km/hは決して易しいハードルでは無い。ほぼフラットだった宮古島大会の155km:26.5km/hですらかなりキツかった。幸い、今日は宮古島の時ほど風が吹いていないけど、それを遥かに上回る、コースのほとんどを占める絶え間無いアップダウンが果たしてどこまで自分を苦しめる事になるだろうか。
それだけに、やはり下り坂を気兼ね無く攻めることの出来る今日の天候ほど、恵まれた日は無い。
今年を逃したらこんなチャンスは二度と来ないかもしれない。

いくら不安に思っても仕方ない。
練習量は負けていないはず!
BIKEさえ何とかすれば、あとはきっと何とかなるはず!
1ヶ月前にマークした皇居30kmマラソン自己ベスト更新を始め、RUNの練習は思った以上に出来ていたから「なんとかなるんじゃないか」という、やや楽観的とも思える想いの裏付けがある。

だから、必ず、完走、する!



最初から快調に飛ばす選手がいる。
あっさりと抜かされる。
でも、ゴールは遥か200km以上先。抜かれてもキニシナイ。

「そのフレーム、クロモリ?」
やたら話し掛けてくる選手がいる。
「いや、カーボン!」
「へぇ〜!カッコイイ!すごい年季が入ってますね!」
「かれこれ15年っす!骨董品!」
「いやいや、たいしたもんですって!頑張りましょう!」
「ええ!必ず完走しましょう!」
そんな会話もこれからの長丁場を迎えるにあたって、気分転換になって良いものだ。


最初は当然、まだまだ体力があるからついつい飛ばしてしまいがちだ。けど、周りにつられてペースを崩しては意味が無い。まずは最初のチェックポイント:瀬戸24km地点を26.2km/h平均で行くことだ。

実際は最初のうちに多少稼いでおいたほうがいいし、「平和なのは最初の30kmだけ」という、昨日の篠崎選手の言葉にもあるように、平和なうちにある程度は飛ばしておいたほうがいいはずだ。
ただ、そのサジ加減が難しい。
スピードメーターの速度表示と相談しながら、序盤を駆け抜けてゆく。


そして再びの追い越し禁止区間。

前方からは、これからBIKEをスタートする選手の姿がまだまだ見える。
けど、自分より後ろだからと侮ってはいけない。SWIMは苦手だが、BIKEやRUNで一気に抜いてゆくタイプの選手も結構いるからだ。

はたまた、宮古島大会で同じ宿になった選手の体験談:BIKEをかなり練習して、RUNを全部歩いて制限時間5分前に完走した、というツワモノもいる。

そんな自分も、かつてはBIKEで猛烈にリカバーするタイプだった。
だが今や、当時の面影は薄い。全体を平均的にカバーして、総合タイムで目標を達成するタイプにすっかりシフトしてまった。
けどBIKE出身なだけあって、「180.2kmという距離」そのものに対するハードル感や不安要素は無い。
トライアスロンで占める競技時間の中でこれが最長なだけに、唯一BIKE出身で良かったと思える要素だ。


再びの港町を後にし、これから山岳地帯へと向かって行く。
早くも細かなアップダウンは始まっている。

あらかじめWebページで公開されていたコース動画での予習。
最初のあたりの景色はだいたい覚えていて、実際の場面でもそこだと分かったけど、それもあっという間に過ぎ去り、だんだん分からなくなってきた。
でも一番気にして見ていたのは登坂の傾斜、およびその長さだった。
高低差図によれば、これから徐々に登り区間に入る。
果たして体力は持ってくれるだろうか。

ただ、コース最高標高:150mを仮にふもとから一気に登ったとしても、せいぜい高尾山近くの大垂峠くらいの高さだ。あそこであればゆっくりペースでも20分あれば登れる。だからきっと大丈夫。




ちなみに体調は万全かと言うと、実はそうでも無かったりする。
宮古島大会以後も続いた慢性的な疲労感。マッサージや鍼を受ける頻度も上げたが、それも一時的な効果だから一向に解消してくれない。
加えてレース3週間前あたりから仕事がいきなり忙しくなってロクに練習もできなかったという不安。
それをレース前の休養期間と捉えたら、身体は少しはマシになった…かというと、残念ながらそういうわけでもない。
でも、普段の練習からその疲労感は平均的にあったから、逆にきっと大丈夫だろう。

景色はすでに田園風景。
コースを交通誘導してくれるボランティア、そして住民たちの絶え間ない応援以外、何も無い。




斜度のキツめな下り坂を全力で下り、その余力で直後の登り坂を駆け上がる。

次第に木々が生い茂るエリアに入ってゆく。
あ。そう言えば瀬戸のチェックポイントって、どこだっけ?

あれ、もう通過してら。
平均速度は28km/h後半と、わりと良いペースだ。
アップダウンも、傾斜も長さもそれほどキツくは無い。けど疲労を残さないため、なるべく筋力を使わずにゆっくり登ってゆく。そのためには最低ギア走行もいとわない。
疲労感は…最初から慢性的な疲労感を感じ続けていたものの、まだまだ余裕がある。普段のトレーニングで比較的長い、キツい登坂を中心にこなしただけあって、どうやらその成果が少なからず出ているようだ。



巨大な風力発電施設が見える。



チェックポイント「二本楠交差点」付近の目印だ。


レースでは、この交差点を3回通る事になる。



コースは、この二本楠交差点を起点に1周およそ55kmの山岳コースを2周回して、福江地区へと向かってゆく。
だからこの交差点を最初に1回目、続いて1周回終えての2回目、そして2周回を終えてのラスト3回目の通過をするわけだ。

また、その区間の高低差図もおおよそ頭に入っている。この交差点をもう少し先に行ったところが、最高標高地点だ。
けど、斜度がそれほどキツくないおかげか、ここまででさほど体力ゲージの減少は感じない。
県道の数字や他の選手のナンバーを見てはヘンな語呂合わせをして、ひとりほくそ笑む。

気持ちにも余裕がある。


そんなペースで40km付近:島の最南西に位置する半島「大宝」地区までは比較的快調だった。
加えて、大宝到達時点ですでに最高標高地点を過ぎている。
登坂がそれほどキツいという印象が無かったから、結構イケるかもしれない。



ここからしばらくは海沿いを走る、片道およそ4kmの往復区間。

すれ違ってゆく選手たち。
やや風になびく、応援旗。
どうやら今が追い風のようだ。
とすると帰りは少し向かい風になるか…。
海岸沿いの道となると、気になるのは風。けど、旗めくその動きからはそこまでキツくは無さそうだ。

そういえばアームウォーマーも、すっかり気候に恵まれて必要無くなったから取り外して背中のポケットにしまった。
レッグウォーマーしないでよかった。


長時間自転車に乗っていると、前方を確認するために、低い姿勢のまま首だけ上げて前を向く必要がある。それが続くと首が疲れて前を向くのもキツくなってくるのだが、DHバーの腕を乗せる部分にヒジをついて、手のひらをアゴに乗せて「オマエどんな格好で走ってんだよ」みたいな走り方を時々試してみる。w
まぁすぐにやめたけどw


トライアスロンは選手同士固まって走ることがルール的に出来ないのでどうしてもバラけてくるのだけど、こうして前方から選手が戻ってくると、何となく安心する。
と同時に、往復の折り返し地点がまだ先なのか…と、その距離を推し測ることも出来てしまう。
ただ走行はまだ快調。やや疲れを感じてきたが、ここはどうやら全部平坦なようで、しばらくはラクができる。


すがすがしい天候の中、想い想いに疾走する選手たち。

っと、なにやらメカニック車にヘルプされている選手がいる。
単なるパンクじゃ無さそうだな。。。
メカニック車は簡単なパンク修理キットや各種工具を積んでいる程度だと思っていたけど、結構しっかりしたバイクスタンドを出してメンテしてたから少し驚いた。

彼も無事ゴールできますように。


そして、ほど無くして辿り着いた折り返し地点。
そこは若干登った場所に位置していたけど、Uターンする必要があるだけに選手がゆっくり走るので、それを応援する人たちもここに固まっていたし、またエイドステーションも設置されていた。

エイドステーション自体は数十キロごとに設置されていて、ここまでも何箇所かお世話になったけど、感覚的に宮古島大会よりもその設置数は多いようだ。



水、スポーツドリンク、バナナ、オレンジ、梅干、パン、クッキー。
ボランティアがこれらを持って差し出している。
自分がそれらを欲しいとき、そのボランティアと目を合わせ、指を指し、名前を叫ぶ。

「水!」
「バナナ!」
「オレンジ!」

エイドステーションが直線コース上にあると取り損ねて落としてしまうこともあるんだけど、この大宝折り返し地点は登り坂の速度低下に加えてUターンするので、選手もボランティアも落ち着いて受け渡しができる。


声援に応え、コースを戻ってゆく。

復路、前方に大きな鷹?か鷲が2羽じゃれている。
そして自転車が近付くと力強く羽ばたき、大空に飛び立っていった。翼を広げた大きさは2メートルくらいあるだろうか。
たまたま、その時ちょうど数人が近い位置で走っていたので「すごい、猛禽類だ!」「デジカメ持ってればよかったー!」などの会話を交わす。

だが。

大宝往復エリアをクリアした50km地点。
疲れが溜まってきたのか、次第に走りに余裕が無くなってきた。

ここまでの平均速度:28.0km/h。目標よりは上回っているものの、さほど大きなアドバンテージというわけでも無いため安心は出来ない。
しかもここから先は連続アップダウン。山岳の周回コースが終わるまで、大小のアップダウンがひたすら続くのだ。
ここまでの斜度や長さは何とか大丈夫だった。しかし果たしてこの後はどうだろうか。そして、2周目では余力がどの程度残っているだろうか。

無理をせず、ペースを落とすところではしっかり落としてBIKE完走を第一に目標を据える。




連続下り坂エリア。



ちょうど自分の少し前をゆく選手がいたので、これをペースメーカーについてゆく。
と、後方からオートバイに乗った審判が通過してゆく。

振り向きざまに、ちょっぴり不審がられる。
いやいや、ちゃんと前後左右の空間を開けていますからね。ペナルティはごめんですぜ。

数回チラ見された後、審判は前方へと走っていった。
…たぶん、直接何かを言われたわけじゃないから大丈夫だろう。



島の北西部、高浜海水浴場付近を疾走する。




海岸沿いのコースから見える景色、トンネル、声援、そしてアップダウン。



セカンドウインド(キツい走りがしばらく続くと、身体がそれに慣れる。すると身体がそこまでキツいと感じなくなる状態のことをいう)はすでに始まっている。この効果と下り坂の加速で平均速度を辛うじて維持する。
ガマンのレースが続く。
幸い、レース前に想像していた長い登りやキツい傾斜はここまでではほとんど無かったが、ほぼフラットだった宮古島と違ってこの細かなアップダウンが少しずつ、確実に体力を消耗させていく。

登りきった後、下り坂「減速」看板を見て、むしろスピードを上げる。
下りでは誰にも負けない自信。それは今レースでも健在。
実際、下り坂ではほとんど抜かれた記憶が無かった。
ちなみにキツめのカーブのコーナーにはクッション代わりのタタミが設置されていた。それを目撃したときのみ、ややスピードを抑える。

下りのスピードの勢いを活かしてその直後に立ちはだかる登りを稼ぐ。その勢いで、そこまで抜かれた選手を数人抜き返すが、またすぐにギアを下げていきスピードを落とすのでまた抜かれる。
きっと、ヘンな奴だと思われていることだろう。

脚に力が入らない疲労感は途中、若干あったが今はセカンドウインド効果か、それは無くなった。
ただただ最低ギアで登るだけ。


コースにいくつかあるトンネル。
トンネルは大抵、登り坂を登りきった後にあって、その中はフラットかつ風の影響も少ない。そのため落ち着いて給水や補給食を口にすることが出来る。
また、チェックポイントごとの目標タイムを印刷した紙をじっくり確認することも可能だ。
次のチェックポイントは…山岳コース1周終了地点、距離にして89km地点。目標通過タイム:12時ジャスト。

レース前、選手登録会場の物販コーナーで購入した電解質タブレットを口にする。痙攣防止との謳い文句だが、口に入れるとシュワシュワがいっぱいに広がった。
慌てて水を流し込むとさらにシュワシュワが拡散でゲフンゲフンとむせてしまった。きっとこれ、水に溶かして飲むのだろう。(汗
でも身体に入れば何でもいいや。w
それに水に溶かしていたらお腹が水ばかりになってしまうし。



レース中盤に差し掛かり、2本装備していたボトルのうちの1本:パワージェル×7個入りのボトルが尽きてきた。
ボトルの交換は、エイドステーション直前にある「ボトルキャッチャー」という名のゴミ箱にこれを投げ入れ、ボランティアから代わりのボトルを受け取るんだけど、パワージェルを入れたボトルは佐渡トライアスロンの記念ボトル。だからこれを破棄してボトルを交換するのを若干ためらったが、実はこれ、そもそも全く別のレース:駒沢公園アクアスロン参加時のじゃんけん大会でもらった参加賞だ。
だから、確かに佐渡のボトルであることに変わりは無いけど、その意味合いは全く違う。

佐渡ボトルはいつか必ず、自分で取り戻しに行く。

そう誓ってボトルに別れを告げ、「五島長崎バラモンキング」デザインのボトルに差し替える。


ちなみに駒沢公園アクアスロン大会でゲスト選手として参加していたのが、自分が勝手に憧れている篠崎 友選手。
初めての出会いだった。
当時、まだロングトライアスロンは雲の上の存在だった自分にとって、現役でこれに取り組んでいる篠崎選手との会話はとても刺激的だった。
その数日後に参加した水泳記録会「サニーフェスティバル」終了後の、なぜかのBIKE講習会。篠崎選手自らによる講習だった。
その2年後、佐渡ミドルトライアスロン会場でも篠崎選手に会った。
ゴール後、言葉を交わした。
偶然、宿泊する宿も一緒だった。

そして昨日、選手説明会場での再会。
言葉は交わさなかったが、嬉しさも蘇ってきた。

向こうはトップの世界で生きるアスリート。そして自分はただの完走目的のホビーレーサー。
目指す世界のレベルは違うけど、でも、目指す目的地は同じ。
何よりも、かつて雲の上の存在だった選手と同じ場で、長年夢見てきたロングトライアスロンを走っているという喜び。幸せ。



…そんな事を思いながらボランティアから受け取った五島長崎ボトル。
国内4大ロング大会。宮古島に続き、これで2個目のボトルの獲得だ。


あれ、コレ少し細めだなぁ。悪路面とかがあったら揺れ落ちそうだ。
でもまぁ大丈夫だろう。

ちなみにもう1本の、水専用で使っているボトルはわりと消費の回転率が早かった。が、比較的高いボトルなのでエイドでもらった水入りボトルをこちらに移し替えて、エイド最後のボトルキャッチャーに投げ捨てる。ごめんね。

手放し走行でボトルの水を移し替えている姿に、子どもたちが「すげー」と言っていたのが印象的だった。


まっすぐに延びる、登り坂。
なにやら道路ど真ん中からローアングルで写真を撮っている人がいる。
きっと、オフィシャルカメラマンだろう。




坂はやや長いが傾斜はキツくは無い。軽く手を振ってこれに応える。
まだ多少は余裕があるらしい。




車が颯爽と抜かしてゆく。
後部が開いている。
テレビの移動カメラのようだ。
ただ、車自分より少し前の選手に並走している。
これに追い付いて撮ってもらおうかとちょっぴり頑張ったけど、残念、追い付けず。


やや長めの登り坂が続いた後、飛ばしがいのありそうな下り坂に入る。
ここまでかなり抑えたペースになってしまっていたので、ここで一気にスピードを上げる。
下り坂の最初で頑張って、最大ギアで目一杯スピードを上げたら、あとは時々ペダルを回してこのスピードを維持する。
その初速度には自信がある。だから登りで自分をペースメーカーにしている選手は、下りのスピードに着いて来れずにブッチぎられる。
多少の、快感。


道が平坦になり、少しずつ速度が落ち着いてくる。
そして平凡なスピードになった頃、綺麗に整備された道路、および街路樹が並ぶ直線の道を走る。

このあたりはなんとなく雰囲気が違うなぁ。



と、真ん中にコーンがずっと置かれ、右側レーンを走るようコース取りがされている。
しばらく走ると、前方から車が左側のレーンを走って来て、大きな建物のある駐車場に入っていった。
どうやらこの辺りは観光地のひとつのようだ。
車の中からも声援を受け、これに軽く手を振って応える。


そこを抜けるとまた何も無い山道へと入ってゆく。

連続したトンネル。
連続した登り坂。

その合い間に、子どもたちが数人になって応援してくれる。
よくまぁこんな人里離れたところまで応援に来るもんだ。
いや、何か別の遊びをしているついでの応援っぽいな。
どちらにしても、ありがたい。



見通しの良い田舎道を黙々とペダルを漕ぐ。

前方が賑やかだな。
なにやら大きなスピーカーから音楽が流れ、そして選手の名前を呼んで応援をしている一団がいるようだ。



彼らはやや傾斜のキツい坂の頂上にいた。
登坂途中、ヘルメットに書かれたナンバーを確認し、それを大会プログラムで確認して、自分の名前を叫んで応援をしてくれるのだ。
ただただ頭が下がる。
いや、疲れて頭が上がらなくなってきてるのもあるけど。(汗



「スペシャルニーズバッグを受け取るなら左側走って〜!」

ボランティアの声が耳に入る。
81km地点に設置されたエイドステーション。



ここにあるのは、スタート前に預けた各選手のビニール袋だけ。
それが机の上に整然と並んでいる。
自分が預けたのは…雨ガッパだけ。幸い、雨気配は完全に無い。なのでここは素通り。

バッグを受け取る選手の多くはそこで完全に自転車を降りて休憩している。
一瞬、自分も同じように小休止しようかと迷ったけど、まだ大丈夫そうだったのでそのまま通過した。

あーでも、自分も補給食を入れておけばよかったかなぁ?特に、今回は2周のうちいずれか片方で回収出来るので、1周目で使わなくても次の周回で使ってもいいわけで。
はたまた、テーピングやブリーズライト系のアイテムを入れるというのも良かったかも。
もっとも、2回に分けて使うことはルール上できないらしい。
使い方をもう少し考えて、もっとうまく使いこなせるようにしたいところ。
次回への課題がまたひとつ。


連なる山々の中、待ち構えるアップダウンをただただこなしてゆく。
距離はわりと消化できたはず。
1周目も残すところ、あと10kmを切ってるはずだ。
1周すれば気分もまた変わるだろう。
長丁場にあって、気分転換は重要だ。


田園風景の広がるまっすぐに延びた道。そこに唐突と、車間確認ラインと距離表示板が設けられている。

10m、10m、10m。

ドラフティングゾーンに入っていないかを確認するラインだ。
確かにこの直線であれば、人の後ろに付けばラクだろう。
けど、今は幸い風も弱く、また前後にも選手はいなかったのでこれを気にする必要は無かった。


延々続いた田舎道から、ふと都会の街並み…と言ってもお店と学校と信号機がある程度だけど、それまでとは雰囲気が少し違ったエリアに出た。
距離も、85kmを過ぎている。
1周目が終わるのもあと少し。




沿道の応援が少しずつ増えていき、そして前方から聞こえる、ひときわ大きな歓声。
待ちに待った周回ポイントだ。
距離にして89km地点。



到達時の目標タイム:12時ジャストに対し現在の時刻:11時56分。

これでSWIMの遅れは取り戻せた。
だが肝心なのは、まだ中間地点の距離だということだ。
この後の体力は果たして大丈夫だろうか。
だいぶ…だいぶ疲労が蓄積してきてしまっている。


周回ポイントを通過する。
ここを左折すれば、ゴールエリアに向かってゆくルート。しかし自分はまだ1周。ここを直進する。

総距離の短い「Bタイプ」の選手が左折してゆく。
「頑張れ〜!」
彼に対する声援が飛ぶ。

自分も、2周目に無事辿り着けるだろうか。





山岳コース、2周目に入る。
そして2回目の風力発電施設が見える。
ここから先55kmの区間は、一度経験したコース。先の見えない1周目と違って、幾分かは走りやすいだろう。


ここまでの平均速度:26.0km/h。180.2kmのトータル平均速度目標:25.0km/hに対し、まだ少し上回っているがここからもう1周回することを考えると、そうそうのんびりも走っていられない。
やや焦る。
だがペースを上げてその後潰れるわけにもいかない。やはり下り坂で稼ぐしかないか。

次なる目標は55km先の2周回終了時点で14時15分までの通過。目標平均速度は24.4km/h設定。


周回ポイントを通過して、風力発電施設を横目にしばらく登れば、コース最高標高地点。
それを越えればしばらく下り。
その後は平坦な大宝往復エリアだから幾分かは回復するだろう。
1周しただけだが、よく覚えている。

それにしても、そろそろトイレに行きたくなってきた。。。BIKEゴールまでは持ちそうも無さそうだ。


平坦な道、蓄積する疲労に耐え、折り返し地点を目指す。
やや曇り空のもと、体温調節には何らストレスの無い天候の中、黙々と走り続ける。


辿り着いた大宝Uターンポイント、その登り坂。
すでに1周目のような元気は無く、最低ギアでゆっくり登ってゆく。



距離を消化していくと、だんだん胃が弱まっていくのか、補給食が口に入らない。
エイドでもバナナ、オレンジばかりを食べている。
声援を背に、Uターンして元来た道を戻ってゆく。
あ、トイレあったなぁ…。
でももうUターンしちゃったから、まぁいいか。まだガマンできそうだし、この後どこか良いところがあったら寄っていこう。


ウエストポーチが少し重く感じてきた。
今後からは補給食やチェックポイントメモを自転車に取り付ける工夫をして、ウエストポーチを使わずに走れるようにしよう。


1周目に見た50km距離表示板。
大宝往復エリア終了の目印だ。
ここからはひたすらにアップダウンが続いてゆく。

細い山道を登り、減速の注意板を見ては下り坂をカッ飛ばす。
タタミのクッションを目撃し、瞬時に1周目のコースを思い出し、そして限界ギリギリに速度をキープし、そのアドバンテージで直後のキツい坂を登ってゆく。
一瞬にして多くの選手を抜き去り、しかし中腹で最低ギアまで落ち、そのままダラダラと登ってゆく。

大宝復路で見かけた「台湾アイアンマン」レースジャージを着た選手。彼をこの坂で追い越したが、また近いうち抜かれるだろう。




エイドステーション。
さぁ、何が欲しい?

「バナナ!」
「オレンジ!」
「梅干し!」

あ、

「トイレ!」

トイレは叫ばなくていいからw

コース上のトイレ設置場所は1周目でも多少記憶していて、しかしそれらはコースから少し離れた位置を案内していたから、本当は大宝折り返しで行けばコース目の前だったため移動のタイムロスが短縮できたんだけど、そこをガマンしてしまった。
そんなものだからその後「やっぱり行っておけばよかった…」と若干後悔しつつの走行を続けていた。

だから、思いがけないところでコース目の前のトイレを見つけたから、ついつい叫んでしまったのです。
1周目では気付かなかったしね。

ところでこのトイレ。これが意外にも単なるタイムロスではなく、思った以上に身体がラクになったから立ち寄って正解だった。
自転車を降りる必要があるから完全停止してしまうけど、そのぶん自転車に乗ったままでは出来ない部位のストレッチも出来たし。
ボランティアのオバハン(失礼)が、トイレの間、自転車を持っていてくれたり、ボランティアのオッサン(失礼×2)がくだものや水入りボトルを持って来てくれたのがありがたかった。
相変わらず、水は自分のボトルに入れ替えてしまうんだけどw


トイレ休憩を終えての直後の、やや急な登り坂。
自分の少し後ろを走っていた選手が何か叫び、直後にガシャーンという音が聞こえた。

落車か…。
みんなも相当疲れてるんだ。。。
自分もそうだけど、みんな無事にゴールできますように。





2周目も後半に入る。
何となく…選手の数が少なくなってきた?みんな遥か先に行ってしまったのだろうか。
でも自分のペース配分はたぶん、間違っていないはず。「タイムを狙う」であれば遅いかもしれないが、「制限時間内に完走する」であれば大丈夫のはずだ。


陽気なボランティアがいるエイドステーション。
そこで彼からオレンジを受け取る。



何が面白いって、彼、エイドの一番後ろのほうにいるんだけど、1周目で「オレンジ、ワンモア?」言われて、でもエイドの最初のほうですでに受け取って食べていたからワンモアをゲットする余裕が無くて。
ちょっぴり残念そうにしていたから印象に残っていたんだけど、2周目では胃の弱体化もあってバナナやオレンジばかりに頼っていただけに、彼と目が合った瞬間にこちらから「ワンモア?」と言って受け取ったら「オー!サンキュー!!」と、とても嬉しそうにしていて。
その光景が、自分も周囲もひっくるめてみんな笑っていたのが面白かった。

このエイドに限ったことじゃ無いけど、選手を楽しませよう、頑張ってもらえるよう工夫しようという心意気が伝わってきて、本当に助けられ続けている。
そうでもなければ、とても独りでノンストップ180kmも走ることなど到底、出来はしないだろう。


スピーカーに繋がったマイクで、名前を呼んで応援してくれるエリア再び。
ここの坂はキツいけど、登りきればその声援に応えられる。
すでに疲れはかなりのものだが、優しく、そして力強い応援に後押しされ、ペダルを漕ぐ力が増し、前進する力へと転換してゆく。


周回ポイントまであと、もう少し。


2回目のスペシャルニーズバッグ回収ポイント。
雨は降っていない。それどころか、やや暑いくらいだ。
雨ガッパは結局使わなかったな。
よかった。
バッグは受け取らずにここを素通りする。


ドラフティングゾーンのチェックエリア。
颯爽と抜いてゆく、やや歳を召した白髪交じりの選手。

まだまだ自分の後ろには速い選手がいるものだ。
彼をペースメーカーに、距離を刻んでゆく。



そして辿り着いた周回チェックエリア:2周目終了144km地点。



目標14時15分に対し、現時刻は14時20分。

まだまだ許容範囲。

目標平均速度:24.4km/hに対しては、ここまでの平均は24.8km/hだ。
悪くない。
ただ、ここから先のアップダウンは周回コースほどキツくは無いとは言え、残り36km区間を25.4km/h目標にしてしまった。
いくら180.2kmの全体平均:25.0km/h目標に帳尻合わせをしようったって、144km走ってきて、残り36kmで大きく上げるような設定はさすがに甘かったか。

でも、あと1時間半も走ればBIKEもゴールできる。
あともうひと踏ん張り。



声援を受けながら周回ポイントを左折し、BIKEゴール「福江」地区を目指す。
気持ちの中で、山岳コースを抜ければあとは比較的ラクだろう、という甘えがあったが、それを打ち消すかのような、早速の登り坂。
当然ながらここから先は未知の世界…いや、1周目に来るまでに走ってきた道をしばらく戻るわけだけど、あまり覚えていなかったので、この後どれくらいアップダウンがあるかが正直分からない。
そういえば往路は結構、下り坂が多かった気がしたかなぁ。
とすると復路は当然…。


前後の選手の姿もだいぶ見かけなくなってきた。遅い選手を抜き去るか、速い選手に一気に抜かれてゆくか。


エイドステーション。
ほとんど空になった水用ボトルに水を入れ替え、それからほとんど空になったアクエリアス入りの五島長崎ボトルを交換する。
しかし、ひとつのエイドでボトル2本を一度に交換するのはなかなか難しい。

ボトルキャッチャーにアクエリボトルを投げ入れ、ボトル2本を受け取り、1本をボトルゲージに取り付け、1本を水用ボトルに移し替え…ていたらエイドステーションエリアを過ぎてしまった。

ちょうど親子連れが沿道で応援していたので…このボトル、申し訳ないけど捨ててもらえませんか?と手渡しする。
もしかしたら、あの子があのままボトルを捨てずに大切に保管して、将来その時に感じた想いを胸に今度は自分が選手としてトライアスロンに挑むようになったりするかな…とか、そんな妄想を勝手にしつつ、先に進む。


交差点を警官が交通整理をしている。

選手のために規制された道。
誘導する警官。
停車する車。
「島を挙げての一大イベント」を改めて実感する。


交差点を過ぎると、少し長い登り坂が待ち構えていた。
沿道には、ここでも大会プログラムを片手に名前で応援をしてくれる夫婦がいた。

「○○さん頑張って〜!」

いや、それ別人だからw
ナンバーを見間違えたらしい。
そんな応援もまた、ご愛嬌。



行けども行けども続くアップダウン。
見覚えのある風景、見覚えの無い風景。
直線の先に見える登り坂、それを登りきるとまっすぐに下る下り坂、さらにその先に見える登り坂。
いい加減イヤになってくる。



これを一気に登って一気に下る。いや、ヒーヒー言いながら登って、一気に下って次の登りを登りき…ろうとしたものの、登り半分程度でその恩恵も尽き果て、あとは最低ギアでヒーヒー言いながら登る。
応援のおっちゃんに「頑張れ!あと少し!」と励まされ、なんとかこれをひとつひとつクリアしてゆく。

事前にアップダウンを詳しくチェックしていたのは周回コースまでで、その後の高低差図は低めの標高だったから完全に油断していた。
風がほぼ無風なのが救いか。


満身創痍。
標高マップでは全体的に下り傾向のハズだが、細かな登りが体力を奪う。
復路の分岐は、まだか…?

トレーニングってのは、キツくなって来てからが勝負で、いかにそこで頑張れるかが強さに直結する。
だから普段は練習だけでなく大会もトレーニングの一環で臨んできていた。
でも今日がその「本番」だ。今まで鍛えてきた練習の成果を今こそ発揮する時だ。
もうこれ以上鍛える必要は無い。
だから鍛え上げてきたモノは全部使う!


ヘルメットに貼ったナンバーを確認して、その番号を叫ぶ小さな女の子。
こんな子までナンバーで応援してくれるのか…と感心していたら、そのすぐ後のちびっ子集団が自分の名前を呼んで応援してくれた。
大会プログラムに記載された選手一覧を見て、名前で応援してくれる人たちはそこそこいたけど、なるほど、あの子はナンバー確認係なのか。それを聞いた後ろの集団はプログラムから名前を探して、そして名前を呼んで応援してくれたんだ。
ありがとう。おにーちゃん頑張るよ。


前方でコース誘導をしているボランティアが見える。前の選手は…左折している。
ようやく復路が終わるようだ。
ここから先は平坦〜下りが多いはずだ。



その後まもなくの、野々切交差点〜中央公園往復エリア。



前方から下り坂の勢いに乗った選手が戻ってくる。
その道を、今から登ってゆく。
登りきったら折り返しかな…という想い虚しく、前方から選手がまだまだ戻ってくる。

あじさいが栽培された畑。
見事に咲き乱れる青、そして紫の色。
今が梅雨の時期ということを思い出させる。


畑を横目に、まだまだ終わらない往路、その登り坂に対してペダルを踏んでゆく。
ただ幸いにも斜度は比較的ゆるく、また追い風だからか20km/h以上のスピードが出せた。


前方でボランティアが誘導している。
前方の選手がスピードを緩め、そしてこちらに向かってくる。
どうやら折り返し地点:中央公園に着いたようだ。



去年のコースでは、ここがBIKEのゴール。今年はゴールまで、まだもう少し。
ただ、去年は山岳周回が3周設定だったので、今年のほうが難易度は断然、抑えられている。


若干の向かい風を受けながら、元来た道を戻ってゆく。
すれ違う選手たち。
みんなキツそうだ。


復路はやや短く感じ、分岐地点に戻ってきた。
ボランティアに誘導され、左折。
もうあと10kmもないだろう。


景色が徐々に栄えてきた。
民家やお店といった現代文明が少しずつ感じられるようになってきた。

旗めく応援旗。
追い風。
スピードが上がる。
上がる。

…まだ上がる。

微妙な下り坂も手伝って、その時速、50km/h!


…サードウインドか。
もちろん、その速度はあまり長い時間維持できなかったけど、そこまでで落ちてきていた平均速度:24.6km/hがこの僅かな区間で24.8km/hまで回復することができた。

残り、あと5km。




遠くに海岸が、街並みが見える。
きっと初日に辿り着いた福江港だろう。

田舎道、山道、田園風景からすっかり、人の住む気配漂う住宅地…市街地の風景に変わり、残りの距離を刻む。
街頭の応援も、多くは無いが途切れることも無い。

ゴールまであと僅かのはず。自然と、ペダルを漕ぐ力も増してくる。
大丈夫。まだまだイケる!



そしてついに目に入った「BIKE FINISH」のバルーンアーチ!




多数のボランティアが待ち構え、そしてBIKE停止ラインぎりぎりで自転車を降りる。

「バイク受け取りま〜す!」
地元の高校生だろうか、ボランティアが声を掛けて自転車の受け渡しを促された。

そうだ。このレースは他のと違って自分でBIKEラックに掛ける必要が無くて、ボランティアに預けっぱなしでよかったんだっけ。
よほど疲れていたのか、頭が回らずその事をすっかり忘れていた。

自転車を一任し、第2トランジッションエリアの外濠公園へと入っていく。
現時刻:15時47分。目標:15時40分に対し、わずか7分の遅れはこれまた上出来だ。

相当疲れたがまだ身体は動く!





第2トランジッション:BIKE→RUN



外濠公園に入って直後、ボランティアの高校生からRUNバッグを受け取る。
バッグに書かれたナンバーはちゃんと自分の番号だ。中身も問題ない。
9時間ぶりの再会。

受け取ったバッグを片手に、着替えテントに入ってゆく。

これからの着替え、そして最後のフルマラソンを控えて、制限時間の22時まではまだ6時間10分ある。
もちろん不安は無いわけではないけど、RUNの目標タイムはかなり甘く設定した。
だから痛みや異常が出て走れなくなるような事態にさえならなければ、きっと完走できる!

アイアンマン・ディスタンスの完走という夢がいよいよ現実味を帯びてきた。
それを実現させるための目標トランジットタイムは20分。16時ジャストのRUNスタートだ。
急げばそれに間に合わせることもできる。でも、ここは焦らずしっかりとRUNの準備をしたほうがいい。


BIKEジャージを脱ぎ、アンダーシャツを着て、その上にRUN用のウェアを着る。
カカトにソルボバンを貼って、ビニール手袋をしてワセリンを塗る。
靴下を履いてシューズを履き、ウエストポーチを巻き直し、着々と準備を進める。
もたもたせず、焦らず。

鼻のブリーズライトは…貼り替えたいけど、しっかりと鼻の汗を拭き取ってからでないとすぐに剥がれてしまうから、この後のエイドステーションで水をもらって、そこで拭き取ることにしよう。


「もう大丈夫ですか?」
高校生ボランティアがRUN用バッグを回収しようと、声を掛ける。
最後にもう一度今の自分の装備を確認し、意を決して彼に荷物を託す。


大トイレ。
出るかどうかは微妙なところだったけど、あと6時間は持たなそうだ。
頑張って出す…が、なかなか出ない。
まぁ、それだったらコース途中の仮設トイレに行けばいいか…と出ようとした時、ようやく便意が訪れた。

レース少し前に読んだ松岡修造の書籍にこんなエピソードがあった。
「トイレが出ないのであれば、じゃあもういいやといったん見切りをつければ、“待ってくれ”と身体が慌てて出そうとしてくれるから、どうしても出ない時は一度終えてしまおうとするといい。」

どうやら自分の身体は松岡修造と同じ仕様になっているらしいw



公園を走る。



地面の土は前日までの雨でやや濡れていたけど、走るコースの多くにはマットが敷かれていて、靴が泥だらけになることは無かった。
感謝。



公園の出口では実況アナウンスが自分の名前を叫んで応援をしてくれた。
きっとカノジョさんも聞いてくれた…ハズだ。

果たして見つけられるかな?


公園を出て、RUNスタートのバルーンアーチへと向かう。



そのアーチ直前でカノジョさんは待っていてくれた!

お互いに手を振る。
ハグをして、「必ず時間内に戻ってくるから待っててくれ!」と誓う。
「うん、待ってる。」と、涙まじりに応えるカノジョさん。

不安にさせちゃってるよね。
必ず戻って、必ず安心させてあげるからね…!
あと6時間弱、もう少し時間掛かるけど、もう少しだけ待っててね。。。


にしても、これからフルマラソンか…。
改めて、その現実と向き合う。

制限時間まであと、5時間54分。




↑RUNスタートの様子を撮影した動画です。
ダウンロードをご希望の方はこちらを右クリック「名前を付けて保存」にてどうぞ。(6.7MB)





目的地はただひとつ 〜RUN 42.2km〜



BIKEロングライド後のマラソン。
レース前の練習で、ヤビツ峠170km走行の後5km程度を走ろうとしたが、全く身体が動かなかったという苦い経験があった。
果たして大丈夫だろうか。

RUNスタートアーチをくぐり、最後のフルマラソンに挑む。

っと、開始さっそくのエイドステーション。
トランジッションエリアでは鼻の脂が拭き取りきれずブリーズライトを貼り替えられていなかったので、ここで水で鼻をしっかり拭いて貼り付ける。
バナナを口に入れ、水分補給をして、改めてスタート。


前方でオフィシャルカメラマンが写真を撮っている。



手を振る。
まだ余裕はあるようだ。


突き当たりを左折し、メインコースに出る。

RUNコースは、片道7kmのほぼまっすぐな道のりを往復し、これを3周回する設定だ。







周回コースゆえ、常に周りに仲間が、観客が、ボランティアがいる安心感がある。
そして多くの選手がそれぞれのゴール、それぞれの目標を目指して黙々と走っている。

身体は少し重いけど、まだやれそうだ。


1km通過の距離表示板。
おや、それに重なって15kmと29km表示板も置いてある。
片道7km、往復14kmで1周。これを3周するコース設定だから、この案内表示板の設置にも納得。

まずは1周14kmを、1km7分30秒ペース=皇居1周5km換算で37分30秒ペースで走るのが目標だ。


1km地点すぐ近くの、2回目のエイドステーション到着。
なんだ、もうエイドか。早いなぁ。
実は走り始めからお腹が少し痛かったから、ここで念のための正露丸。トイレに駆け込むほどの症状ではないから大丈夫だとは思うけど。
しかし、手が伸びるその先の補給食は果物やゼリーばかり。
固形物はやはり胃が受け付けないようだ。


福江港の街並みを抜け、T字路を右折する。
警官や審判が交通整理をし、選手を誘導する。

若干のアップダウンを経て、2km表示板が目に入る。
ペースは…1km7分ジャスト!?

ここまで184km走ってきて、これからフルマラソンに挑むにあたってかなりペースを抑えたはずだ。
最終的には1km8〜9分ペースで行く予定だから、最初からやや飛ばし気味か?
いや…決してそんな事は無くて、むしろ時々歩いたりしてたのだけど…。
エアロバイク直後のランニング練習の成果が少なからず出たのかもしれない。

まぁこの後どうなるか分からないから、まずは1周いや半周して、コース全体の難易度を見てからペースを判断しよう。


と、目の前にいきなり斜度のキツめな登り坂が立ちはだかる。
そら来た。

ここをどう越えようか一瞬迷ったけど、宮古島を走り抜いた経験から、さっそく「登り坂は全部歩く」作戦発動w
問題はその坂道がどれ位の長さか、という事だ。あまりにも長いと、さすがに歩きっぱなしはマズい。
が、幸い1〜2分歩いたところで頂上が見え、それを越えると、同じ距離だけの下り坂だった。

下り坂を飛ばすとヒザに負担が掛かるから、軽く走る程度にこれを下ってゆく。


コース反対側、復路に設置されたエイドステーション。
そこからボランティアが補給食や給水を持って往路で声を掛けてくれる。
ただ、エイドごとに毎回これのお世話になっていたら時間も掛かるし、お腹も調子が狂ってしまう。
だから、自分が欲しいと思ったところだけお世話になることにした。





3km表示板を過ぎると、すっかり街の様相は身を潜め、何も無い田舎道が広がっていた。
しかし、そんな所ですらも応援をしてくれる老若男女が絶えない。

今年から設定された、比較的コンパクトなこのRUNコース。
走る側にとってはペース配分がしやすく、また見る側にとっても応援に行きやすいというメリットがあるようだ。

ゼッケンナンバーを見ては大会プログラムで名前を確認し、その名で応援してくれる人たちも健在。
ありがたい。



ややキツめな登り坂、再び。
しかし1回目ほどの斜度は無い。
これを越えての4km表示板。

エイドでは空腹にならぬよう、胃が受け付けるものを都度口にする。
また、コーラを飲んだり、五島名物、かんころ餅を食べたりもしてみる。
ただ…やはり今の体調に餅はちと重かったかな(汗



やや人の気配があり、コース上で数少ない信号機のあるT字路ゾーンを通り過ぎ、5km地点に到達。
ストップウォッチでラップタイムを計る。
気になるタイムは…34分35秒。
1km7分を切るペースだ。
速い。

調子は悪くないし、登り坂はほとんど歩いている。エイドステーションも必ず立ち寄って、補給食を軽く口にしている。それでも維持出来ているこのペースに、自分自身が一番驚いた。
もちろんこの後ペースは落ちるだろうし、目標タイムもそれを見越した設定をしている。
ダラけた走りは出来ないけど、抑えめのペースでこのままトラブル無く走り続けられればきっとゴールできるはずだ!


やや登り坂な道を越え、ロボットコンテスト優勝の垂れ幕が眩しい中学校のそばを走り、6km地点を通過する。

何も無い一本道。
小さな橋のちょっとしたアップダウンですら、歩く。

海岸沿いの道を走る。
波風は無い。穏やかな気候だ。

気温も寒く無く…むしろ暑いくらいだ。



寒さ対策でシャツを2枚重ね着して走り始めたけど、さすがに暑くなってきたから途中でアンダーシャツを脱いだ。
今はウエストポーチの腰巻き部分にこれを巻いているけど、邪魔だからどこかに置いてしまおうかな。



海岸沿いの道を走って間もなく、折り返しエリアに到達する。



ここもひとつの応援スポットだ。
声援に応え、エイドステーションで補給をし、エアーサロンパスを足に吹き掛けて、長い道のりに備える。

大きな時計そして折り返しのコーンをぐるりと回って、道を折り返す。
最終周、果たしてここが最後の関門として行く手を阻むことになるだろうか。





さて、半周走ってのコース難易度の印象はどうだろうか。
基本、まっすぐなコースに大きなアップダウンが3つ。
これを、ちゃんと「走る」選手にとってはキツい坂だけど、「登り坂は完全歩きゾーン」と最初から決めていた自分にとってはそこまでキツくはないと感じた。
それにここまでのタイムは…まだ1km7分ペースで走れている。
疲労を極力溜めないように抑えた走り。全体の6分の1しか経過していないけど、良い兆候だ。


折り返しエリアを過ぎて少し走っての7km表示板を目にする。
と一緒にそこには、21km、35kmの表示板も置いてある。

21km走ればハーフ。中間地点。
身体が動かなくなると一般的に言われている35km。しかしそれを乗り越えれば、残り7km…あと半周でゴールという事でもある。
果たして、これらの距離に辿り着くことはできるだろうか?

いや、辿り着かないといけないんだけどw


元来た道を戻る。
今から来る選手とすれ違う。
周回を重ねた選手に抜かれる。
腕に巻かれる、銀色と黄色の周回チェックバンド。1周回で銀色、2周回で黄色が巻かれれば、あとはゴール一直線。

すでに黄色バンドを巻いた選手も多い。…羨ましいなぁ。
自分もきっと、必ずや…!


長い左カーブ。
ウォッチに目を向ける。
前の距離表示板からおよそ、6分30秒経過。とするともう少し行くと次の8km表示板が見えるはず…ほら見えた。

1kmごとの表示板はペースが掴みやすく、ありがたい。
宮古島でも5kmごとに表示板があり、およそ40分程度走れば次の表示板に辿り着いたけど、1kmであればさらにそのペースを小刻みに掴めるから飽きにくいという効果もある。
何よりも、7分程度走れば勝手に次の距離表示板が目に入るのが、とにかくありがたかった。


往路で見た光景を巻き戻しながら、復路の歩を進める。

往路途中、暑くて脱いだアンダーシャツ。これを直線コース脇の、ガードレールを兼ねた植物の上に置くことに。
…ゴミと間違えて捨てられませんように。
なのでできるだけ丁寧に広げて、置くw

回収のチャンスは2往復4回。
この後気温も下がるだろうから、それに合わせてまた着ればいいだろう。



長めの登り坂を登る。いや歩く。
頂上から届く観客の声援。
タイムは…ありゃ、前の表示板から7分をすでに過ぎている。さすがに少しペースが落ちたかな?

頂上に辿り着くと、その少し先に9km表示板が目に入った。
この区間は7分30秒ほど。
けど、まだまだ許容範囲。
本来想定していたペースだ。


下り坂は飛ばしすぎないよう気をつけるものの、やはりラクだ。
他の選手を抜くことはあまり無かったけど、前後の多くの選手がいる安心感の中、距離を進めることができる。

そして見えてきた次の表示板。
節目の10km。
気になるこの5km区間のタイムは…34分47秒。変わらず1km7分ペースを維持している。

そしてこの1kmの区間タイムは…6分30秒ほどでの到達。
どうやら登り坂で遅れたぶんは下り坂で取り戻せるようだ。
だから、ペースは今のままでいい。

いける。
このレースは、いける。



復路最後の登り坂ふもとに陣取る、全身着ぐるみを着た若い応援の集団。
声援を受けるとついつい走りがちだけど、残念、登り坂は歩く主義なのよ〜んw

コース最も斜度のキツいこの坂も、歩けば大したことは無い。
頂上少し前に設置された11km表示板を横目にこれを無難に抜けて、下り坂で再び走り出す。

そして見えてきた市街地。
戻ってきた。

やはり街中となると、応援してるれる島の人たちも多い。
脚はまだ大丈夫。


T字路の交通整理をする警官に守られ、12km地点を通過。

交差点を左折し、福江港に至る道へと戻ってゆく。
おばちゃんたちのエイドに励まされ、前に進む。
1周まであと、もう少し。



見覚えのある港の景色が見えたあたりで、それを「おあずけ」と言わんばかりの左折。



典型的な、RUNコース距離設定の調整だろう。
ここは短い往復コースになっているけど、幸い300mくらい走ったところで折り返しになるので、すぐに戻って来れる。



往路、100mほど走ったところで13km表示板、と同時に27km・41kmの数字を目にする。
果たして、最終周回での制限時間との闘いでこの僅かな距離がネックになったりはしないだろうか。
などといらん心配をしながらもこれを往復し、元の道に合流して、これを左折する。



ゴールエリアのある公園付近。
その直前で、優勝者だろうか、上位入賞者だろうか、それともBタイプの完走者だろうか…完走してもまだ余力のありそうな選手が、ボクらとハイタッチをして激励をしてくれている。

そのそばで、「益田選手がやってくれましたよ。」という声が聞こえた。
益田 大貴選手。面識は無いが、ロングトライアスロンのトップ選手の一人だ。今回はBタイプでのエントリーだったから、おそらく優勝したのだろう。
果たして、篠崎選手は何位くらいになっただろうか。





分岐地点。
誘導するスタッフ。
ここを左折すれば栄光のゴールだ。
しかし自分はまだようやく1周したばかり。これを直進する。


さすがにここは観客が多いな。。。

あ!
カノジョさん発見。

「あとまた100分後くらいに戻ってくるよ〜!」
そう声を掛け、会えた嬉しさを噛み締めながら周回チェックエリアに入ってゆく。


ちなみに当初、iPhoneを持って写真を撮ったり位置情報をカノジョさんに送りながら走ろうかとも思っていたけど、荷物になるし、雨だったら壊れてしまうかもしれないしということで断念したんだけど、RUNが周回コースのおかげで何度も会えるから、持たなくても大丈夫だった。



↑RUN1周時の様子を撮影した動画です。
ダウンロードをご希望の方はこちらを右クリック「名前を付けて保存」にてどうぞ。(3.0MB)






周回チェックは腕に巻くカラーバンドの色で判断する。
1周回の証、銀色のバンドを走りざまに巻いてもらう。

あれ、これちょっとビニールビニールしてるな。
汗ばんだ腕にはちと鬱陶しいかな(汗


スペシャルニーズバッグ回収テント。
中身は寒さ対策のヒートテック。
今の体調は、、、まだ大丈夫。
陽はやや傾いてきたけど、むしろまだ暑いくらいだ。
なのでここを素通り。


第2トランジッションエリアの懐かしい風景を正面にこれをぐるりとUターンし、RUNスタートのバルーンアーチを再びくぐる。

これで残り、あと2周だ。


1周時の目標到達時間は17時45分。
そして今は17時45分。

完全に追い付いた。


勝てる。
このレースは、勝てる。
自分自身に、打ち克(か)てる。

まだまだ先は長く、気持ちにもほんの僅かながら弱気が見え隠れしている。
でもここまで来て、どうして「完走しない」という選択肢が存在しようものか!

226.2kmの闘い、15時間制限との闘い。
それは人との闘いではなく、己自身との闘い。
弱気を克服して、自分で決めた目標を必ずや達成する。

残り、28.2km。
制限時間まであと、4時間15分。




2周目の目標ペースは、1kmを8分。2周終了時、19時35分到達が次の目標だ。



エイドで補給をしていると、カノジョさんが追い付いてきた。

短い言葉を交わして、コースへと戻ってゆく。



それにしても今回のコース、エイド設置数が多い。
往復コースだから反対側にも設置されているぶん、余計にそう感じるのだろう。
実際、エイドのお世話になりたかったら反対側のぶんを利用したっていいわけだし。
3周目はウエストポーチ無しでも大丈夫かもしれないな。


やや陽が傾いてきた2周目。
復路を最終周回、これで完走の選手たちが次々とすれ違ってゆく。
みんな嬉しそうだ。

自分がそれを感じるのにはまだ少し早い段階。
せめて、この周の折り返し地点まで行けば中間地点だから、その頃から実感が沸くかもしれない。


最初の登り坂。しかしこれも一度走れば、その攻略法もすぐに分かる。…と言っても結局「歩く」なんだけどw

しかし2周目にして、まだペースは落ちない。もちろん、多少は落ちてはいるけど、それも1kmあたり、せいぜい20秒程度のことだ。
どうせだったらこのままハーフまで行けるといいな。


夕暮れの田舎道、田んぼ道を黙々と走る。
昆虫たちの演奏会、ガマガエルの大合唱。
反対側のコースには、1周目で脱いだアンダーシャツが、ちゃんと置いてある。
よかった、まだ捨てられずに置いてあるw
ガマガエル地帯がアンダーシャツ回収エリアね。記憶した。



20km地点。

ラップを取って、この5km区間のタイムを確認。

…ぇええ?!
43分???
1周目とたいしてペース変わらないのに???

慌ててラップを見返す。

…あ、、、ひとつ前のラップ、4kmぶんで取ってら。
そうか、1周した14km地点でラップを取っちゃったのね。
ということはこの区間は6kmぶんでのタイムだから…43分を6で割って、、、大丈夫、ペースは変わっていない。
よかった。

あまりの出来事に一瞬パニックになったけど、大丈夫だ。
心を落ち着けて、このままのペースで行こう。


そう言えばトイレ行きたくなってきたな。
ちょうどエイドすぐそばに仮設トイレがある。
多少のタイムロスよりも、体調を万全に整えることのほうが遥かに得策なのは、BIKEで自ら証明した事実だ。

小トイレを済ませ、エイドで軽く補給して、前を目指す。




自然に囲まれた静かな道。
選手の足音と、応援する声と、昆虫たちの鳴き声と。
文明社会から解き放たれた地を、究極のローテクで距離を刻んでゆく。


そして迎えた2回目の折り返し地点。
時刻は18時半をまわっているけど、その時間にしてはまだ明るい。
東京よりは南に位置するから、かな?

エイドで補給食を口にし、折り返してゆく。


そしてついに辿り着いた21km地点。
あと、半分。

これを戻ってあともう1周すればゴールできる。
ここに来てようやく、ゴールの実現を現実のものとして少しずつ意識できるようになってきた。


ここまでの走りとしては、思った以上にペースが落ちなかったものの宮古島大会の時ほどは制限時間へのタイムに余裕は無い、というのが正直なところ。
だから遅くてもいいが完全停止はNGで常に前進していなければならず、またいつ身体が動かなくなるかもしれずという恐怖心もあるため、ひたすらペース計算をしながら走っていた、という印象があった。だから心は決して休まらなかった。

けど、ここから先は周回を重ねるごとに目標ペースも甘く設定している。しかも最終周:3周目は今よりもさらに遅い、1km=9分ペース設定だ。
だからこのまま行けるところまでタイムが稼げれば、そのぶん余裕も出てくる。


ひしひしと迫る制限時間の追っ手を少しずつ引き離すように、しかし安定したスローペースで、後半戦へと突入してゆく。





復路になって、すれ違う選手の人数も少しばかり少なく感じる。
完走した選手が、きっとそれだけいるのだろう。

歩を進めるごとに、徐々に暗くなってゆく。
自家発電機で稼働するライト。これも灯るようになってきた。


ハーフを過ぎて、右ヒザが少し痛くなってきた。
幸い、エイドに用意されているエアーサロンパスを吹き掛けることで一時的に痛みは和らいだけど、少し力を入れて走ると痛みがぶり返してくる。
ただ、ペースも疲労で落ちてきたから、そのスローペースであれば「痛くて走れない」という、最も避けなければならない状態には至らなくて済みそうだ。
もちろん、登り坂は相変わらず、歩く。
加えて、平地での歩き頻度も少しずつ増えてきた。

ハーフを過ぎてからの1kmごとのペースは、だいたい8分前後。
でも、そもそもがこの目標ペースだったから、ここまでだいぶ稼げたぶん、この後で大きく崩さなければ大丈夫のはずだ。


陽が暮れていくにつれて、少しすつ気温も下がり、身体も冷えてきた。
ガマガエル合唱エリアでアンダーシャツを回収。
やや汗ばんでいたけど、保温には問題無い状態だった。



迎えた25km地点。
5kmのラップを確認する。

39分。
まだ1km8分を切っているペースだ。

一定ペースで走っていれば、距離表示板が勝手に目に入ってくる状況は健在。8分くらい走れば辿り着けるから、その都度精神的にかなりラクになる。
また、距離表示板と同じくらいの頻度で設置されているエイドにも助けられている。
沿道の声援に後押しされるのは言わずもがなだ。

エアーサロンパスをエイドごとに毎回吹き掛け、痛みを和らげ、補給をして、次の距離表示板そしてエイドステーションを目指す。


市街地に戻る。

26km地点付近のお店の前。
おばちゃんが山盛りの梅干しを持って近付いてきた。
「食べる?」
でも胃がこれを求めていなかったのでゴメンナサイ。。。

エイドでは塩分補給を梅干しメインで摂っていた。
けど、このタイミングではなぜか身体が欲していかなった。
おばちゃん、ゴメンね。
気持ちだけありがたくいただいて、2周目ゴールエリアを目指す。

走っては歩き、少し歩いては走り出す。
T字路を左折し、福江港に向かう道を走る。


2周終了時、19時35分が目標だ。
けど、このまま行ければ19時30分到達も見える。
そうすれば制限時間とのペース計算も容易になる。何よりも、残り1周を片道1時間掛けても大丈夫だという安心感が得られる。
急ぎ過ぎて自滅しないよう気を付けながら、2周19時30分を目指して距離を刻んでゆく。


ゴールエリア手前で左折し、短い往復コースを経て、再びメインコースに戻る。

1周目と同じく、トップらしき選手の激励、ハイタッチはまだ続いているようだ。
いったいいつからあそこに立っているのだろう。
自分のゴールだけでもきっと大変だったに違いない。なのに、自分より遥かに遅い選手を本当に気遣って、一人でも多く完走できるよう、声を掛け続ける…そんな想いなのかな。
声援に後押しされ、2周目周回チェックエリアへと進んでゆく。




ゴール分岐点。
すっかり暗くなった風景の中、ゴールエリアが煌々と光り輝いている。



次々とゴールする選手、そしてこれを讃えるMCの声。
自分も早くあの中に飛び込みたい!
でもそれにはまだあと、もう1周…!


分岐エリアを少し過ぎたところ、1周目と同じ歩道にカノジョさんは待ってくれていた。

しばらく一緒に並走しながら、予想ゴール到達時刻を計算し、その少し前から同伴ゴール希望者のスタンバイエリアで待っててもらうよう伝える。
また、この後のスペシャルニーズバッグ回収に関する作戦を伝え、そのまま歩道づたいに着いて来てもらう。


周回チェックエリア。
2周回の証、黄色いバンドを巻いてもらう。
巻きながらの「頑張ってくださ〜い!」の声に励まされ、前に進む。





スペシャルニーズバッグ回収テント。
若干の肌寒さはあったけど、途中回収して着込んだアンダーシャツがあるから、バッグ中身のヒートテックを着るまでも無い。
ただ、回収しないとこれは廃棄されてしまう。
そこで、カノジョさんと話していた作戦発動。
すなわち、バッグを回収して、すぐ先の歩道に落とす。そしてこれをカノジョさんに回収してもらう作戦だ。
また、ウエストポーチも一緒に落としてこれも回収してもらう。

残り1周にきて、もはやウエストポーチの目的は、各チェックポイントの目標タイム・目標ペースそして制限時間をまとめた用紙を確認することだけだった。
しかし、残る関門はあと1箇所…「折り返し34km地点で21時10分閉鎖」ただひとつ。
さすがにこれくらいは覚えられるから。
これであとは身軽なまま、残る距離をこなすだけ。


振り返ってカノジョさんが回収する姿を目にし、バルーンアーチをくぐる。

これで2周28km。
目標:19時35分に対し、現時刻、19時30分。

かなりの、上出来だ。
この後を1km10分のペースですらもゴールできる。
大部分を歩いたって大丈夫なペースだ。残り1周:片道7kmを1時間掛けたって大丈夫。

迫り来る制限時間から必死に逃げ続けたが、いよいよそれを振り払い、完走を現実のものとして確信した瞬間。

残り、14.2km。
制限時間まであと、2時間30分。




バルーンアーチすぐそばのエイドで落ち着いて補給を摂り、いよいよ最終周に臨む。

陽も暮れて、真っ暗になった夜の道。
闇に向かって再び走り出す。

あと1周もあるのか…と、走ってきたコースを頭に思い描いてはその長さを追想し、やや気が滅入る。けど、それよりも「あと1周で完走出来る!」というキモチのほうが遥かに強かった。

5時間以上掛けて走る3周回。しかし、1周目が昼、2周目が夕方と景色が変わるので、飽きにくかった。
だからきっとこの後も、夜の景色が新鮮に感じるはず。
だからきっと、大丈夫。



行き交う選手の数もすっかり減ってきた。
暗い夜道に、虫の鳴く声と選手の足音と声援の声だけが、静かに聞こえてくる。
さすがにここまで来て、疲労もかなりのもの。闇の中から発せられる応援の声に対し、その声の主を確認したり、その声に応えるだけの余力はもう、ほとんど無かった。


街灯の光が灯され、薄暗い道の中スポットライト的に煌々と照らされたエイドステーション。
光に誘われて小さな虫も群がるが、選手も同じように光に誘われ、エイドに群がる。
「あったかいお茶、あります?」
ボランティアのおばちゃんにリクエストし、水で温度を調節しつつお茶を注いでもらう。
身体も冷えてきたようだ。
スポーツドリンクであれば補給できる塩分がお茶に代わって摂れなくなったぶんは、梅干しを食べる事でカバーする。
食べ物はもう、身体がほとんど受け付けない。けど、小さく刻んでもらった果物はなんとか入るので、そのおかげで空腹にはならずに済んでいる。


3周回ぶん、まとめての距離表示板。1周目で感じた「遥か先の3周目」。これに今、辿り着いた。やるじゃん。

歩く頻度が高い。登り坂だけでなく、平地の多くでも歩く事がかなり増えてきた。
けど、それでも1km8分ペースだ。
進めば進むほどに、目標ペースが短縮されていく。
「これだけ歩いてもまだ目標ペースより速い」という安心感。最終関門への時間的余裕。進めば進むほどに、実感する「完走」の実現。
満身創痍にあって、それらの自信と絶え間ない沿道の声援が、総距離200kmをとうに超えた現時点にあってまだこの身体を突き動かしてくれている。


路肩で座り込んでしまっている選手。
足を引きずって、痛みをこらえながらも必死に前に進む選手。
「ファイトっ…!」
追い抜きざまに、思わず発した声。
自分もキツいけど、ここまで共に闘ってきた“仲間”のような一体感から、みんな最後まで頑張ろう、と、自然と出てきた言葉だった。


ガマガエルの合唱エリアを過ぎる。
演奏会は終演のようだ。
スズムシがヒーリングミュージックを優しく奏でる田園地帯。
ひとりひとりがここを駆け抜けてゆく。


光まばゆく照らされたエイドステーション。
ほとんどエアーサロンパスが頼みの綱だ。
幸いヒザは死んではいないけど、力が入るような走り方をしたらすぐ、痛んでしまう。
あともう少し!あともう少しだけ、頑張ってくれ、俺の身体っ…!


校庭がライトで照らされた中学校を過ぎる。
わずかのアップダウンの橋を越える。
沿道のおっちゃん、おばちゃんの声援を受ける。
海岸線のなびく風を肌に感じる。

そして見えた最後の関門:折り返し34km地点の光。
吸い寄せられるようにして歩を進め、安堵の想いの詰まった息を大きくつき、エイドステーションにお世話になる。

目標、20時30分に対し現時刻、20時28分。
カンペキすぎる。



エイドのボランティア、応援の人たちだけでなく、審判員にも「お疲れさま」「あともう少し、頑張って」と声を掛けてもらい、残る力を振り絞る。

残り、7.2km。
もはや制限時間の心配は無い。
残り1時間32分、これをほとんど歩いたって大丈夫だ。

宮古島の時も終盤で同じ心境になったけど、今回はそれと比べたらだいぶ後ろのほうで感じることになった。
でも、まだ走れる。
少しでも余力がある以上、最後まで力を使い切ってゴールする!


真っ暗な中、ただひとつの目的地を目指して、小さな小さな歩を進める。
走っては歩き、また歩いては走り出す。
「お帰りなさい!」
「ごくろうさま!」
「あともう少しだよ!」
沿道の声援は、いつしかこの長丁場をここまで走り続けてきた選手を讃える声に変わっていた。

たまに、自分が応援する側に立つこともあって、でも見ず知らずの選手に声援を送るのには少し気恥ずかしい想いをしてしまうことがあった。けどここの人たちはそんな事は微塵も無く、心から応援してくれていた。
だからそれまで疲労困憊で返せなかった声援、その最後の復路にきてようやく「ありがとーございま〜す!」と返せるようになった。


真っ暗な道を進む、進む。

パラパラと、雨が降ってきた。
できればゴールまで待ってほしいけど、でもそもそも今日は本当はもっと天候が悪かったはずだ。
ここまで待ってくれたお天道さまには本当に、感謝してもし尽くせない。

沿道の声援はさすがに、明るい時間帯よりかは少なくなってきた。
でも、最後の一人まで見届けよう、応援しようという暖かさにずっと励まされ続けてきている。
それも残すところ、あともう少し…。


気付けば、往路の選手の姿はすっかり見なくなった。
さすがにもう、制限時間の波に飲まれたか。。。
自分を含め、願わくば今走ってる選手はみんな最後まで走りきれますように。。。


同じようなペースで走る選手がちらほら。平地や下りで抜いては、わずかの登りで抜かされる。
もちろんこの人数の中で競走しているわけでは無いけれど、自分のペースで走ると自然とそうなってしまったり。

そんな中に、タスキを掛けて走る一人の女子選手がいた。
リレータイプ参加の選手だろうか。
彼女とは復路始まってすぐのポイントから抜きつ抜かされつを繰り返している。
特に意識するわけではないけど、2人とも各々のペースで、同じ目的地に向かって、、、最後の力を振り絞って走り続ける。


あと、5km。



走る。
歩く。
走る。
歩く。

ペースは遅いが、残りの距離を確実に消化してゆく。
歩く頻度は高いけど、完全停止をせずに済んでいるおかげで目標タイムに近い走りが出来ている。


エイドで身体を暖めながら、エアーサロンパスで痛みを抑えながら、夢の舞台へと一歩ずつ近付いてゆく。

最後の大きな登り坂を、ゆっくりとしたペースで越えてゆく。
登りで抜かれた選手には、たいてい下りで抜き返しているようだ。
サードいやフォース、いやフィフスウインドか?
もうそれすらも分からない程の長丁場だったけど、あと少しでそれも終わるというキモチの昂(たかぶ)りから、アドレナリンは出っ放しだ。

田舎道から市街地へと入る。
道沿いのお店には、地元の高校生がたむろしている。どうやら、今回のレースに駆り出されたボランティア活動が終わった後のようだ。
ありがとう。いろいろと助かったよ。
安心してレースに集中することが出来た。


T字路を交通整理する警官。
「お帰り〜」
「お疲れさま〜」
静かにねぎらいの言葉を掛けられる。意外な人物からの声援。
嬉しかった。。。

あと2km。

この5km区間のペース、43分46秒。
さすがにだいぶ落ちたけど、それでも最終周の目標:1km9分ペースを切っている。

痛むヒザにムチ打って、最後の行程を刻んでゆく。
わずかの登りすらも歩かざるを得ないほどに疲労困憊。しかし、それもあと少しの辛抱。


T字路を左折し、福江港へと続く道を戻ってゆく。
選手を誘導する警官、そして審判がねぎらいの声を掛けてくれる。
「あともう少し!」
「お疲れさま!」
「あとひと息!」
「頑張って!」

「ありがとーございまーす!」
力いっぱいの声をひねり出し、これに応える。


最後のエイドステーション。
ボランティアのおばちゃんたちからの、ねぎらいの言葉の波。
ていうか、あれ?もう店じまいなのね。
でも残すところ、わずかに1,500mにあってもはや補給の必要は無いけれど。(^^;;


ゴールを間近に控え、約200mの最後のわずかな往復コース。
橋を渡るその復路で、「いやぁ、嬉しいなぁ。」とホッとした声で応援のおばちゃんに応える選手。

その言葉を耳にしながら自分も安堵しつつ、その往路の距離を詰める。


41km距離表示板。
目に焼き付け、折り返しコーンを目指す。

小雨舞う中、傘も差さずに応援してくれるおばあちゃん、親子連れ、ボランティア。
ひとりひとりに感謝の言葉を返し、道を折り返す。


「お疲れさま。」
復路、タスキを繋いだ女子選手に声を掛けられ、走り去ってゆく。


橋を歩いて渡る。
これで終わる、というわずかの寂しさと、これで終わる、という大きな喜び。


道を左折し、コースに戻る。

あっ…!
あれは…!!

1周目からずっと声援を送ってくれたトップ選手だ。
かれこれ何時間経っただろう。
ハイタッチをして感謝の言葉を返し、栄光の道へと向かってゆく。



最後の瞬間が近付く。


朝7時から始まった、長い長い道のり。ようやくここまで辿り着いた。
長くて長くて、長くて短い一日だった。
スタートを告げる音を聞いたとき、その時には本当にここまで辿り着けるとはとても想像できなかった。
けど、必ず辿り着くと心から信じていた。
でも、今の自分の実力では正直五分五分だった。
だからしっかりと客観的に分析し、制限時間いっぱいに使って辿り着くための綿密な計画を立てた。
そのおかげで、この長丁場を走りきることができた。
宮古島に続き、今回もこの目標タイムテーブルは見事に当たった。
けどそれは、天候に恵まれ、穏やかな波に恵まれ、パンクせずに走れた道に恵まれ、足が最後まで持ってくれたおかげであり、そして何よりもボランティアや沿道の暖かい声援の上に、奇跡的に成り立った出来事に他ならない。


「パパ、すげーだろう?」

すでにカノジョさんのお腹に宿っている小さな命、まだ見ぬジュニアに想いを馳せ、ゴールで待ちわびるカノジョさんのもとへと向かってゆく。





再び手を取りあって 〜完走〜



「おかえりなさーい!」

暗闇の中から聞き覚えのある声が耳に入る。
ゴール直前、伴走フィニッシュ待機エリアで待っていたカノジョさん。
声のする方向に身体が向かい、その姿を発見、そして抱擁。

長い時間、ホントに長い時間待たせた。
でもそれも、すべてはこの時のために。

ロングディスタンス トライアスロンをカノジョさんと、いや、お腹の中のジュニアを含めた家族3人で一緒にゴールするという、長年待ち望んだ瞬間。




目の前にまっすぐに伸びる、光に包まれたレッドカーペット。
それに沿うように並べられたたいまつが燃え、そして観客たちが選手を迎える。
ちょうど雨も小降りになり、あたかも天候までもがボクらの花道を祝福してくれているかのようだ。


ゴールの練習は覚えてる?

写真もしっかり、撮ってもらおう。



前後の選手のタイミングを見計らう。

集団ゴールをしていった選手を見届ける。どうやらその後はしばらく誰も入ってこなそうだ。



それじゃあ、行こうか!


レース前日に歩いたゴール会場、それとは全く異なった光景が、夢のような光景が広がる。
実況の声、自分たちの名前を呼んで祝福してくれる声が聞こえる。

幸せに包まれた光り輝く世界、その光の源へと向かってまっすぐに駆けてゆく。





嬉しくて、嬉しくて、嬉しくてたまらない。

駆け抜ける栄光の花道。
駆け抜ける226.2kmの道のり、13年の月日、求め続けてきた想い。


辿り着いた、夢の目的地。
辿り着いた、闘いの終焉。
辿り着いた、3人のゴール。





ゴールテープを掴む。
ゴールテープを、上から両手でぎゅっと掴む。


いくよ!

いっせーのーせーで…





ゴールテープを掴んで、同時にジャンプ!
そのままテープを掴んだまま2人でガッツポーズ!




やったー!!!




13年間、待ち望んでいた光景。

あまりにも嬉しくて、練習通りいったかどうかなんてもう、分かりゃしない。

ただただ、幸せに包まれて。
夢を想い描き続けてきた世界に、ただただ、身を任せて。
ただただ、ただただ幸せでいっぱいの光に包まれて。






「帰ってくるってわかってたから、安心して待ってたよ。」


普段泣かせてばかりのカノジョさん。
でも、今日ばかりの流れる涙は嬉し泣き。

練習の邪魔をしていないだろうか、足手まといになっていないだろうか、としきりに気にするカノジョさん。
それを払拭するためにも、今日は何としてでも完走したかった。

だから、それを証明できて本当に良かった。




75歳のラストランナー



スタッフから完走メダルを首に掛けてもらい、バスタオルを羽織ってもらう。




ゴール会場に設営された様々なブース。
小腹が減っていたので、果物に手を伸ばす。
レパートリーはエイドのそれとほぼ同じだ。

その隣、トランジッションバッグ返却コーナー。
ゼッケンナンバーを伝え、これを受け取る。
朝7時、富江港スタート会場で預けたSWIMバッグ。
8時30分、着替えテントを出たところで預けたBIKEバッグ。
16時、高校生ボランティアに預けたRUNバッグ。

闘いを終えたバッグは、少し重さが増していた。


続々と完走する選手。
しばらくの間この光景を眺める。
みんな、笑顔に溢れている。




制限時間の22時まではあと30分弱。
宮古島大会と同様、今回も最後までこれを見届けることにした。

ただ、BIKEの回収も今日は22時までの受付。
明日は早朝から回収できるけど、きっと起きれない。
またバラして梱包して返送手配して、閉会式を見て、帰りの船の時間に間に合わせるには今夜のうちに回収しておいたほうがいい。

幸い、回収エリアの第2トランジッションエリアまではここから歩いて5分も掛からない。行って帰ってもまだラストランナーを見届ける時間はあるだろう。


カノジョさんと一緒にいったん会場を出て、RUN周回チェックエリアを抜けてトランジッションエリアへと向かう。

さっきまで走っていたコース。
今や設営されたテントは回収され、ガランとした風景が広がっていた。
やや寂しさを覚えながら真っ暗になった道を進む。


第2トランジッションエリア。真っ暗な外濠公園にあって、BIKE受け渡し用テントだけがぽつんと光を放っていた。



ゼッケンナンバーを伝え、BIKEを持ってきてもらう。
自分で取りに行かない仕組みなのはきっと、盗難防止という目的もあるのだろう。

少し待って、見慣れた自転車が運ばれてきた。
やや雨に濡れながらも、じっと主人の帰りを待っていた自転車と、万感の想いを抱きながらこれを受け取る。

また雨が少し降ってきた。
カノジョさんに自転車を押していってもらい、ゴール会場へと戻ってゆく。


22時の制限時間まで、残すところあと10分を切った。
まだゴールを目指して走っている選手もいるだろう。
みんな頑張って、なんとか制限時間内に完走してほしい。。。


残り、あと5分。
4分。
3分…。


もう、戻ってこないだろうか。

最後の選手、75歳の鉄人。ゴールまであと800メートル。
残り時間には厳しいか。。。

2分、1分。
姿は見えない。。。


カウントダウン。

10、9、8、7…










22時00分。

15時間00分00秒。



湧き上がる拍手。
安堵の声。

しかしゴールを取り囲むスタッフや選手はその場を去ることが無い。
ラストランナーを、今か今かと待ちわびる。

そしてついにその姿を捉えたスタッフから、実況アナウンサーへと情報が伝わる。
何人もの選手がいっせいにゴールゲートをくぐり、レッドカーペットを逆走してゆく。





15時間03分。
ゴールゲートをくぐる75歳のラストランナー。

わずか3分オーバーでの完走。



暖かい拍手で迎え入れられる。
レッドカーペットを逆走して迎えに行った選手たちも、拍手をしながら戻ってきた。




↑ゴール会場&ラストランナーを撮影した動画です。
ダウンロードをご希望の方はこちらを右クリック「名前を付けて保存」にてどうぞ。(90MB)



75歳。
自分の倍以上の月日を生き、きっと自分よりも体力に衰えがある中、、、どうしてそんな偉業を成し遂げることができるのだろう。

しかし同時にそれは自分にとっても、まだまだ選手生命としての時間が残されているという勇気付けとなって、さらなるモチベーションとしてきっと根付いてゆくことだろう。


ゴールゲート付近でたたずんでいるところを、ふと声を掛けられた。
おぉ、同じ宿の、BIKEナンバープレートの取り付けに一緒になって四苦八苦した選手だ。

お互いの完走を讃え合う。
「あれ?フィニッシャーポロシャツ受け取ってないの?」
そうだった。危ない危ない。

別れの言葉を交わし、ポロシャツをもらうために近くのスタッフに声を掛ける。
すでに撤収作業が始まる中、一度しまったポロシャツを取り出し、手渡してくれた。
感謝。





バラモンキングのボードの前に立ち、記念撮影。



そうこうしているうちに屋台も店じまいが進む。
マッサージテントも残念ながら閉店のお時間。



これらの写真だけ撮って、宿に戻る。

自転車はカノジョさんに押していってもらったけど、まだ自分の足で歩いて帰れる体力が残っていたようだ。
近い宿で、よかった。

カノジョさんと言葉を交わしながら、ふたり、会場を後にする。



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